近藤康用役の橋本じゅん

 今川から派遣された目付、井伊谷三人衆の1人として、直虎(柴咲コウ)が当主の座に就くと同時に登場した近藤康用。第33回で小野政次(高橋一生)を死に追いやった人物として、その名を脳裏に刻みつけた視聴者も多いに違いない。徳川に加勢して井伊谷を手中に収めながらも大けがを負った近藤は、これからも井伊家と深く関わっていくこととなる。演じる橋本じゅんが、大きな反響を呼んだ第33回の舞台裏、今後の近藤と直虎の関係について語った。

-近藤康用は第33回で小野政次を死に追いやることになりましたが、演じた感想はいかがでしょうか。

 政次の最期のシーンの撮影では、それまでの全てがここに集約されるということが分かっていたので、一つのフィナーレを迎えるという気持ちで見守っていました。それは皆同じだったと思います。

-第33回の台本を読んだ時の感想は?

 驚くことばかりでした。最初に近藤が登場した時は、まだドラマ全体がのどかな雰囲気で、その後しばらく出番がなかったので、もう出ないのかな…と思っていたぐらいですから(笑)。第33回のことも、「僕、じゅんさんに殺されるらしいですよ」と(高橋)一生くんから聞いたんです。「えっ!マジで?」と思って-台本を読んだらまたびっくり-これは日本中のお茶の間を敵に回すということかと。近藤に捕らわれた政次と牢屋越しに会話する場面は、一生くんと話して「責任重大だな」と思っていたので、撮影の時は最大限に集中して、僕なりにお芝居でお別れをさせてもらいました。

-放送後の反響などは耳にしましたか。

 ネットですごいことになっているという話は聞きましたが、僕の周りでは特にありません。気を使っているのかもしれませんが。ご近所の方も、あのメークのおかげでほとんど僕だと気付いていないらしく、覆面レスラーのような気分です(笑)。

-今後は近藤が直虎に助けられる場面も出てくるようですが、近藤は直虎に対してどのような思いを抱いているのでしょうか。

 互いに気持ちが分からないわけではないと思うんです。ただ、近藤にはそれはできないという部分があって…。それでも直虎は、その気持ちをくみ取って先の言葉を選んでくれたりするので、どんどん信頼を寄せるようになっていきます。僕が思うに、近藤は1人の人間として、直虎のことが大好きなのではないでしょうか。「男だったらどんな名将になっただろう」くらいのことは考えているはずです。ただ、不器用な人間ですからね。

-井伊家の再興を諦めた直虎は今後、百姓として暮らしていくことになります。城主から百姓への変化については、どのように感じていますか。

 百姓とはいっても実際は殿ですから、姿を見ると「なぜそんな恰好を?」と思いますよね。近藤の立場としては、その方が安心なんですけど。良かれと思って自分からそういうことができる直虎という人には、近藤はもちろん、僕自身も敬意を抱いています。

-直虎に対する呼び方も、「尼殿様」、「井伊殿」、「次郎殿」、「おとわ」というふうに、少しずつ変わって行きますね。

 人として、女性として、直虎を尊敬する気持ちが呼び方に表れています。政次の死と自分が足を負傷したことを境に、前期、後期という感じで近藤は大きく変わっていきます。直虎に気持ちを許していくのと同時に、時代も移っていきますので。直虎の存在が、近藤にとっても太陽のようなものになっていくので、呼び方が変わることにも違和感はありませんでした。

-近藤を演じるに当たって、心掛けていることは?

 あのメークなので、普通にやっていると自分の目があまり映らないので、基本は刮目(かつもく)気味に演じています。何度かナチュラルにも演じてみたのですが、チェックしてみたら「これ、ただの俺じゃん」と思って(笑)。また、物語は領地経営のような内政的な話が多いので、ともするといつの時代か忘れそうになりますが、近藤の姿を通して戦国時代らしい雰囲気が出せればと思って頑張っています。

-その特徴的なメークや衣装は、演じる上でも役に立っていますか。

 そうですね。あのメークをして衣装を着ると、威張りたくなってきます。僕だけでは全く駄目です。最初のころは、僕がスタジオに入って行っても、皆誰だか分からないこともありましたが、今はあれが“仕事着”という感じになっています(笑)。

-近藤がけがをした後、それ以前と比べて演技に変化はありましたか。

 いろいろなものを敏感に感じるようになったと思うので、怖がるときは本当に怖がったり、笑う時は本気で笑ったりするようにしています。感情の出し方が、ちょっと偏屈な“面白おじさん”みたいになりました。

-今後の近藤という人物を、どのように捉えていますか。

 けがをしたことで体が満足に動かせなくなりますが、使えていたものが使えなくなるということは、性格が変わるほど大きな衝撃だと思うんです。武力が行使できた状態から、それが全くできなくなった。その時、近藤なりに人のさまが今まで以上に見えるようになったのではないでしょうか。厳しい時代の中で、近藤なりに必死に生きてきたけれど、世の中は自分が知っていることばかりではないと。その結果、不器用な人だけど、豊かな人生を送れたと思っています。自分の思うように生きられて、幸せだったでしょうね。今は最悪に嫌われているんでしょうけど(笑)。

(取材・文/井上健一)