■音楽も印象的な、鈴木雅之の演出
『PRICELESS』と『HERO』の大きな共通点は、チーフディレクターが鈴木雅之ということだ。毎週放送される連ドラの場合、通常は演出を何人かのディレクターが分担して行う。そのリーダーとなるのがチーフディレクターで、初回や最終回はこのチーフが担当することが多い。鈴木雅之は、これまでに『29歳のクリスマス』『王様のレストラン』『世界で一番パパが好き』『ショムニ』『スタアの恋』『鹿男あをによし』などの作品でチーフを務めたベテラン演出家だ。映画版『HERO』の監督でもあり、1999年の映画『GTO』や2011年の映画『プリンセストヨトミ』でも監督を務めている。
鈴木雅之は、現在フジテレビに所属しているが、以前は関連の制作会社である共同テレビに所属していた。共同テレビというのは、もともとニュース映像を配信していた会社で、共同テレビの“共同”は、母体となった“共同通信社”からきている。80年代後半からはドラマ制作もするようになり、鈴木雅之もここで『世にも奇妙な物語』などを撮っていた。最近はテレビドラマを映画っぽく撮るやり方が多いが、もともとドラマに映画的な手法を取り入れたのは、『振り返れば奴がいる』や『やまとなでしこ』を演出した若松節朗など、当時から共同テレビに所属していたディレクターたちだった。鈴木雅之も若松節朗などの下で演出補を務め、映画のテイストも加味した独特の演出法を身につけていった。
フジテレビに移籍してからの鈴木雅之の代表作といえば、まず『王様のレストラン』が挙げられる。もちろん、これは三谷幸喜の代表作といったほうがいいのだが、脚本の面白さを的確に映像化した鈴木雅之の演出も光っていた。そして、このドラマで印象的だったのが、服部隆之の音楽。クラシカルな曲調で、映画音楽のように作品を盛り上げていた。
鈴木雅之がチーフディレクターを務めたドラマで服部隆之が音楽を担当した作品は、他にも『こんな私に誰がした』『総理と呼ばないで』『世界で一番パパが好き』『スタアの恋』などがあり、『HERO』でも服部隆之がドラマを盛り上げた。今期の『PRICELESS』は服部隆之ではないが、やはりクラシカルな音楽の雰囲気は共通していて、今回は『龍馬伝』や『カーネーション』も手がけた佐藤直紀が音楽を担当している。サントラを買って、あとでドラマを思い出すのも鈴木雅之作品のひとつの楽しみ方だ。
■個性的な撮影方法で演出された作品
鈴木雅之が演出するドラマの一番の特徴は、その撮影方法にある。アップを比較的多く使い、向かい合って話す2人の顔を交互に正面から撮ったりすることも多い。何気なく話している時は引いて撮り、真剣に話す時は相手の顔をアップで撮ったりするので、見ているほうも感情移入しやすかったりするわけだ。
『鹿男あをによし』では、人間の言葉を話す鹿の顔もアップで撮られることが多かった。あの作品では、鹿が人間に鎮めの儀式のことを伝えなくてはいけないという切羽詰まった事情もあって、アップの演出はかなり効果的だった。
逆に、思いっきり引いた映像を使うこともある。『HERO』の最終回のラストで、雨宮(松たか子)が久利生(木村拓哉)に会いに石垣島まで行ったシーンでもこれは使われていた。砂浜の両端から雨宮と久利生が近づいていくところを遠くから引いた絵で撮っていたのだが、その映像だけで最後に2人の気持ちが重なっていくのが見ているものにも伝わった。