西島秀俊(左)と岡田将生 (C)エンタメOVO

 映画の舞台あいさつを取材すると、互いの印象を尋ねられた共演者たちが、撮影を通じて感じた相手の性格や素顔を語る場面に遭遇する。作品を完成させるために、ある意味、家族よりも濃密な時間を過ごした彼らの語る言葉には、もちろん建前もあるだろうが、観客が知り得ない、俳優の新たな一面がにじみ出ることがある。今回は、取材現場で聞いた、彼らの互いを評する言葉に注目してみた。

 第74回カンヌ国際映画祭で脚本賞を含む4冠に輝いた『ドライブ・マイ・カー』では、西島秀俊と岡田将生が初共演した。

 今年8月に行われた初日舞台あいさつで、西島は岡田について、「本当に純粋な人。こんなに大人がいっぱいいる世界で、こんな純粋な人がいて大丈夫なのか…と思うぐらい」と驚いたことを明かした。これを聞いた岡田は「僕もう32です。10代とか20代じゃないです」と苦笑した。

 それでも西島は「心配になるよ。もちろん十分大人でタフな男性なんですが、どこか繊細でもろい部分を常に感じていて」とし、「その繊細さをずっと持ちながら、外側を強くして、両方持っていてもらえると、1ファンとしてはすごく幸せかな」と優しいまなざしを向けた。

 9月には、『マスカレード・ナイト』が公開された。東野圭吾のミステリー小説シリーズを実写化した『マスカレード・ホテル』(19)の続編となる本作で、木村拓哉は再び破天荒な刑事・新田浩介を、長澤まさみは真面目過ぎるホテルマン・山岸尚美を演じた。

 約2年ぶりに木村と共演した長澤は「木村さんは座長としての信頼感と安心感が200パーセント。もっとあるかもしれません。誰が来ても受け止めてくれるすごく器の大きい方なので、安心してぶつかっていけました」と振り返った。

 また、「現場での集中力をどうやってコントロールするかを学ばせてもらいました。撮影中は切り替えが大切で、自分の本気をどこで出し切るかなど、1日の中で計画していかないと、終わるころにはバテバテになっちゃう。現場でどうするべきか、ということをいつも学ばせてもらいました」と語った。

 さらに、「常に素直で人の意見を受け入れる心を持っている。大人になるとなかなか素直になることって難しいじゃないですか。でもスポンジのように柔らかく吸収している木村さんを見ていると、本当にすごいと思います」とコメント。長澤の表情からは、木村に対する信頼感と尊敬の念があふれているように見えた。

 同じく9月公開の『総理の夫』では、田中圭と中谷美紀が初共演。中谷は、日本初の女性総理となった相馬凛子を、田中は凛子を支える鳥類学者の夫・相馬日和を演じた。

 舞台あいさつで、田中は「中谷さんが意外とおちゃめ。最初は何というか、ピシッとされている、気品高いイメージがあったのですが、意外とオトボケさん。そのギャップがすごくかわいらしかったし、新発見でした」と中谷の素顔を明かした。

 一方、中谷は「田中さんは、本当に空気の読める方で…」と意外に思った部分を告白。「コメディーパートがとってもお上手」と語った。

 さらに、緊迫したシーンでも「雰囲気を自然と作ってくださった。努力をしなくても凛子の気持ちになれて、自然と涙があふれてくるということがありまして、とっても楽だったんです」と回顧し、田中の俳優としての技量に感心していた。

 10月には、『護られなかった者たちへ』が公開された。本作は、東日本大震災から10年目の仙台を舞台に、不可解な殺人事件の真相と、その裏に隠された切ない真実を描き出すミステリー。殺人事件の容疑者を佐藤健、彼を追う刑事を阿部寛が演じた。

 阿部と約11年ぶりに共演した佐藤は「大変光栄でした。少しでも成長した姿を阿部さんにお見せしたいなという気持ちで気合が入っていました」と告白。

 それを聞いた阿部は「十分に成長していたよ」と応えつつ、「佐藤さんは現場に行ったときも、本当にその役のままでずっといられるんです。その姿を見て、僕も背筋が伸びる思いがしたし、非常に立派になられたなと思いました」と目を細めた。

 また、佐藤は、阿部と念願のLINE交換を果たしたことを告白。「僕が『佐藤です。よろしくお願いします』と初めに送ったら、阿部さんから返ってきた『お願いします』のシンプルな一言に、最後“ぴえん”の顔が付いていました」と紹介。「阿部さん、“ぴえん”を使われるんですね」と阿部のおちゃめな一面を明かした。

 同じく10月公開の『そして、バトンは渡された』では、主演の永野芽郁を共演の市村正親が絶賛した。

 市村は「再来年で僕も役者50周年で、いろいろな女優さんを見てきましたけど、こんなに自然な演技をできる女優さんは初めてです」と永野をたたえた。

 そして、「何でこんなに自然に演技ができるのかなと思ったら、毎朝、おかか入りのおにぎりを食べていた。最近の取材で会ったときもおかかおにぎり。そこに秘密があるんだと…」と冗談を交えながら分析した。

 それを聞いた永野は「仕事のときはおかかを食べがち」と認めつつ、「験担ぎではないのですが、4年前ぐらい前からおかかです。その前はシャケ派だったのですが」と答えて笑わせた。

 今年は緊急事態宣言が解除されて以降、都内では映画の舞台あいさつなどが再開された。久々に満員の会場を目の当たりにしたときの出演者たちの熱い思いは、取材する側にもひしひしと伝わってきた。これからもそんな現場で、共演者から語られる、俳優の“新たな一面”に耳を傾けたいと思う。
(山中京子)