俳優・高良健吾。17歳で役者として表舞台に立って以来、映画『蛇にピアス』(08)での入れ墨、スプリットタン、顔面ピアスというトリッキーなビジュアルで挑んだ、狂気を秘めた青年役、『軽蔑』(11)での欲望のままに生きるチンピラ役、ドラマ「罪と罰」(12)での崇高な目的のために殺人を犯す主人公など、ダークサイドを持つヘビーなキャラクターを演じることが多かった彼に、「クール」「ミステリアス」「暗い」というイメージを持つ人は多いだろう。
そんなイメージが定着したデビューから20代前半を振り返り、高良は「キツくて嫌だった」と本音を漏らすと共に、30歳を迎えようとしている今の心境を吐露した。
「何かを抱えているような役が多いし、自分に対して周りがそういうイメージを持っていると思っています」と、時折笑みを浮かべながら、落ち着いた雰囲気と静かな口調で自己分析する高良は、自分が役を選んでいるわけではないことも説明すると、「10代後半から20代前半は、自殺する、殺す、犯すとか、そういうしんどい役が多くて、キツくて嫌だった」と本心を明かした。
「自分の中の何かが侵略されるとか、役に引きずられるとかいうわけではないし、こんな考え方や生き方があるんだとも思うけど、役者としてのテクニックがないのに気持ちを入れることが難しかった」のだという。
しかし、近年は映画『横道世之介』(13)、ドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(16)などでの「穏やかで優しい、いい役」が増えてきたことを「うれしい」と素直に喜ぶと、今年30代になることで訪れるであろう自身の“変化”に胸を膨らませ、「格好いいと思う先輩たちは、年に合わせて自分を成長させ、表現力を増やしているので、自分もいいふうに変わりたいし、変わらないといけないと思います」と言葉に力を込めた。
そして、かつて「嫌だった」役柄にも再度挑戦したいという思いが芽生えたことも告白。「20代のころとは違うやり方があるし、自分を引きずらずに、役にどっぷり入ることができるかもしれない」と思ったという。そして「まだまだだと思うけど、昔よりできるようにならないと、これだけやってきた意味がない。これからが楽しみです」と声を弾ませた。
そんな高良が「いい役」と話す一つが、映画『月と雷』の智役だ。直木賞作家・角田光代の同名小説を基にした本作は、かつて自分たちの家庭を壊した愛人とその息子との再会により、普通の生活が否応なく変わっていく泰子(初音映莉子)を主人公に、普通の人間関係を築けず、あてもないけど生きていく大人たちの姿を描いたヒューマンドラマ。彼女たちの姿を通して、「親と子」「家族」「生活」の本当の意味を考えさせられる作品でもある。
智は、自由奔放で一つの場所にとどまらない母親・直子(草刈民代)と共に、幼いころから各地を転々とし、20年ぶりに泰子のもとを訪れた際にも、無邪気な笑顔と親密な空気で彼女を翻弄するキャラクターだ。
高良は、「台本を読んだ時に、つかみどころがなくて、この人はどうしてこんなことをしているんだろう?という疑問や違和感がありましたが、それは彼の幼少期の経験が大きく関係しているし、とても素直な人間なので、なるべく勘繰らずに演じていました」と役へのアプローチを口にした。
また、元バレリーナでもある草刈との出会いは刺激になったようで、「バレエの世界から、映画という違う場所に来ても、人生を懸けて“表現”をしている人の言葉や存在は強く感じたし、格好良かったです」と印象を打ち明けると、「以前は、体から何かをやっちゃいけない、心から動かないと説得力がないと思っていたけど、草刈さんとの出会いや、その後のいろんな経験を通して、体から始めることもとても大事な表現の一つだと思えるようになりました」と、役者として新たな糧を得たことを満足げに語った。
初音がハリウッド映画『終戦のエンペラー』(13)に出演していたこともあり、ハリウッド進出への興味も聞いてみると、「とてもあります」と好感触だが、すぐに「でも、今はまだ、ただの憧れなので駄目ですね。英語の勉強もしていないので…」と消極的になった。とはいえ、過去にはハリウッド映画のオーディションを受けたことがあるそうで、「映画も海外も大好きです!」と笑う高良に、思わず期待を寄せてしまう。
自身が待ち望む30代まであとわずか。「変わらないといけない」と覚悟を決めた高良から目が離せなくなりそうだ。
(取材・文・写真/錦怜那)