進化論に基づいて本書が導き出す不愉快な問題の“理由”は、読んでいて気持ちのいいものばかりではない。でもそれはむやみに読者を悲観させようとしているのではなく、「『不愉快な問題を回避することはできない』というシビアな現状認識をもってこそ、本当の意味で建設的な発想ができるのではないか」というのが、本書のメッセージだ。
 

自己コントロール力は、消耗資源である

中には、トリビア的に思わず人に話したくなるネタもある。『ダイエットに成功すると仕事に失敗する?』の項では、こんな興味深い実験が紹介される。

同じ部屋に、焼きたてのおいしそうなチョコチップクッキーと千切りにしたダイコンを並べ、2つのグループの学生にそれぞれクッキーとダイコンを分け与える。次に学生たちにあるパズルを解くように指示するのだが、おいしいクッキーを食べた学生とダイコンを我慢して食べた学生、果たしてどちらがより集中力を発揮できたのか……?
 

結果はクッキー組に対して、ダイコン組は半分しか集中力が続かなかった。この実験から導かれる<自己コントロール力は消耗資源である>という説は、身近な仕事や勉強のシーンでも役立てることができそう。

<“デキる男(女)”が、いざとなると全然使えない、ということはよくあります。その反対に、ふだんはだらしないのに、仕事や勉強に異常な集中力を見せるひともいます。これも、自己コントロール力という有限な資源をどう分配しているか、ということから説明できるかもしれません>。自分に当てはめて考えてみると面白い話だ。
 


 

『不愉快なことには理由がある』は、わたしたちの凝り固まったものの見方に、進化論という要素をプラスして新たな視点を与えようとする、ある種の実験なのかもしれない。だから読み手が必ずしも本書の主張に賛成できなくても、まったく問題ないと思う。むしろ本書をきっかけに、十人十色の多様な視点が生まれることが作者の狙いなのだろう。

コンセプトを優先させたせいか若干無理があったり、誤解を生みかねない物言いになっている部分もあるが、目の前に積み重なる不愉快きわまりない問題にウンザリして目をそらしてしまうよりは、本作を読んで「なるほど~」「これは納得いかない!」なんてツッコミを入れつつタフに生きていくために多様な視点を養うほうが、よっぽど有意義だと思う。