渋沢栄一(篤太夫)役の吉沢亮

 「そうか、異国がどこか風通しがいいのは、このせいか。日の本では、民はいくら賢くても、お上の思し召し次第。曲がったことでも、『うん』とうなずかされ、サギをカラスだと無理な押し付けをされることはよくある。ここには、それはねえ。皆が同じ場に立ち、皆がそれぞれ、国のために励んでおる。そうだい。本来、これこそが誠のはずだい。俺や兄いはずーっと言っていた。身分などに関わりなく、誰もが、その力を生かせる場で励むべきだと。こうでなくてはならねえ。鉄道や、水道や、ガスもニュースペーパーもだが、このことわりこそ、日の本に移さねば!」

 7月19日に放送されたNHKの大河ドラマ「青天を衝け」第二十三回「篤太夫と最後の将軍」における主人公・渋沢栄一(篤太夫/吉沢亮)の言葉だ。おしゃべりな栄一故、やや長いが、大事なのでそのまま引用した。

 パリで日本使節団の案内役を務めるフリュリ・エラールが軍人のビレットと対等に会話する様子を目にした栄一は、エラールに「あなたはフランス政府の役人ですか?」と尋ねる。エラールが「いいえ。銀行のオーナーです」と答えると、商人が武士と対等に付き合うことを許されていない日本から来た栄一は、「フランスでは役人も軍人も商人も同じです」というエラールの言葉にさらに驚き、感極まって冒頭の熱弁を振るう。身分差のない社会の在り方を、栄一が学んだ瞬間だった。

 振り返ってみれば、これまで栄一は、故郷・血洗島で倒幕を叫んでいた世間知らずの若い頃から、段階的に成長の過程を歩んできた。平岡円四郎(堤真一)や主君・徳川慶喜(草なぎ剛)と出会い、世の中の広さを知り、武家社会の中で、軍事ではなく財政で貢献できることに気付き、さらにパリで進んだ西欧文化を目にして、それを取り入れていくことを学ぶ…。

 そして今回、身分に関わりなく、国のために働くことができる社会の在り方を知り、また一歩、成長の階段を上った、というわけだ。

 前回に続く“パリ編”第二幕となるこの回は、激動する日本国内の状況と、それに翻弄(ほんろう)される使節団の奮闘が、濃密に描かれていた。予定していたフランス政府からの借款が、倒幕を目指す薩摩のたくらみによって不成立となりながらも、使節団は知恵を絞って欧州滞在を継続。そして欧州の進んだ文化を学ぶため、一行はまげを落として和装から洋装に変更。

 さらには、日本国内でも大政奉還が行われ、慶喜以下の幕府勢と薩摩を中心とする倒幕派の対立が深まり…と、怒濤(どとう)の展開。しかし、そんな見どころ満載のエピソードの中で、栄一の成長がきちんと描かれていたことを見逃してはならないだろう。

 激変する幕末の世の中、新しい日本の土台を築く実業家への道を一歩ずつ歩んでいく栄一のドラマは、毎回、見応えたっぷり。ドラマも後半戦に入り、間もなく時代は明治に移っていくはずだ。その新しい世の中で、栄一がどんな活躍を見せるのか。残念ながらこれから3週間は、放送休止となるが、1カ月後の再開が待ち遠しくなる第二十三回だった。(井上健一)