『デッドプール』シリーズのライアン・レイノルズが、ゲームの世界を舞台に、“ゲームのモブキャラ(人間が操作していない背景キャラ)”を演じる『フリー・ガイ』が、8月13日から公開される。
強盗・乱闘・不死身など、何でもありのオンライン参加型アクションゲーム「フリー・シティ」内で、平凡で退屈な毎日を繰り返すモブキャラの銀行員ガイ(レイノルズ)。ある日、彼はモロトフ・ガール(ジョディ・カマー)という女性キャラとの運命的な出会いによって、新たな自分に生まれ変わるため、ゲーム内のプログラムや設定を無視して独自に行動を開始する。
ゲーム内で繰り広げられる激しいアクションの中に、キャラクター(AI)の自我の目覚めや、人間の女性との淡い恋を描きこみ、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような、何でもありの楽しさを感じさせるこの映画。
レイノルズが「僕のヒーローはマイケル・J・フォックス」と語るように、タイムトラベル映画の名作『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)から多くのインスピレーションを受けているようだが、その他にもさまざまな映画の影響が感じられる。
例えば、生活の全てをゲームのプレーヤーに“常に見られている”ガイの姿は、人生の全てをリアリティー番組としてテレビ中継されている男(ジム・キャリー)を主人公にした『トゥルーマン・ショー』(98)をほうふつとさせるし、仮想現実を通して未来を描きながら80年代テイストにあふれた『レディ・プレイヤー1』(18)と通じるところもある。
また、監督が博物館の展示キャラが動き出す『ナイト ミュージアム』シリーズのショーン・レヴィだけに、この映画も、ゲーム内の隅々に存在する脇役キャラたちをきちんと描いているところに温かさを感じさせる。
さらに、劇中で80年代前半に日本でもテレビ放映された米ドラマ「アメリカン・ヒーロー」のテーマ曲が流れたときには、なるほどと思わされた。
このドラマは、さえない高校教師(ウィリアム・カット)が、異星人から地球を救うためのスーパースーツを授けられるが、取扱説明書を失くしてしまい、手探りでヒーロー活動をする羽目になるというもの。
恐らくレイノルズもレヴィ監督も子どものころに親しんだのだろうし、普通の男がズッコケながらもヒーローになっていく様子をユーモラスに描く、という点では、最も影響を受けたのではと思われる。
そして、ヒーローらしからぬ自由奔放で下品なスタイルが売り物のデッドプールと、この映画の真面目で実直なガイは、一見、相いれないようにも見えるが、どちらも、形こそ違え、真のヒーローとは? と問い掛ける点では共通する。つまり、この映画は、プロデュースも兼ねたレイノルズが独自のヒーロー論を展開させたものという見方もできるのだ。
ところで、主人公が同じ日を繰り返すという時のループという題材は、撮り直しや編集ができる映画向きだと思っていたが、こういう映画を見ると、むしろ何度もリセットができるゲームとの相性の方がいいのかもれないと思った。(田中雄二)