NHKで好評放送中の大河ドラマ「青天を衝け」。いよいよ時代は明治に移り、パリから帰国した主人公・渋沢栄一が新しい日本を作るために奮闘することとなる。新たな展開が待ち受ける後半戦を前に、主演の吉沢亮が、今後の見どころや、ここまで栄一役を演じてきた手応えなどを語ってくれた。
-時代が明治に変わりましたが、今後の見どころを教えてください。
時代が明治になり、江戸も東京に変わりました。これからは廃藩置県があったり、銀行が誕生したり、私たちが普段何げなく使っているものが、こんなふうに生まれたのか、ということを知る楽しみがたくさんあると思います。皆さんのよく知る渋沢栄一の功績が、どんどん積み上がっていくところでもあるので、ここからが栄一の本領発揮なのかな、と。その辺をぜひ楽しんでほしいです。
-クランクインからここまで、栄一を演じてきた今の感想は?
1年以上撮影が続いているので、自分の体に栄一役が染みついている感覚があります。NHKのスタジオに来て、セットに入った瞬間、意識しなくてもしゃべり方やいろんなものが栄一になる感じで。今まで自分では、どちらかというと役を演じている瞬間とそうでない瞬間のオンオフを、きちんと切り替えられる方だと思っていたのですが。そういう感覚は、映画を1カ月ぐらいの期間で撮るのとは全然違う大河ならではのもので、面白い経験だなと思います。
-放送が始まった頃、「新しい扉がバンバン開いている」とおっしゃっていましたが、そういう感覚は今も変わりませんか。
相変わらず毎日、ものすごい刺激を受けています。物語が進むにつれ、関わっていく人物がどんどん変わりますし、栄一自身も年齢を重ねて成長していきますから。それに合わせてより高いクオリティーを求められるので、僕自身も成長しなければいけない。だから、毎日全力でやらなければ、という意識は変わりません。
-時代が変わる中で、栄一自身の変化をどんなふうに演じていこうと考えていますか。
いろいろありますが、一番意識しているのは、若干の“汚さ”を覚える栄一、というところでしょうか。今までは、相手が誰であろうと、どれほど目上の人であろうと、自分が正しいと思ったことには全力で突き進んできました。でも、明治新政府で働くようになってからは、その思いは一緒でも、それを実現するため、致し方なく自分の道理から外れたこともやるようになっていく。それがどこか間違っているということに、うっすらと気付いてはいながらも、やめることができない。それはつまり、自分のやることに対して、余裕がなくなっているということなのかなと。
-今まではキラキラした真っすぐな若者だった栄一に、ダークな一面が出てくると?
ダークな面もある、という感じです。自分の夢に突き進む栄一の真っすぐな部分は生涯変わらないと思うので、ある意味のヒーロー的な部分はありつつも、誰かを切り捨てたりする一面も出てくる、みたいな感じです。
-明治に入ってからも、栄一にはさまざまな出会いがあると思いますが、その中で特に大きなものは?
今までは、どちらかというと栄一が変わり者で、周りが振り回される感じでした。でも、明治に入ってからは、周りが変わり者ばかりなので、栄一の方が振り回される、みたいなことが多くなってきます。その中でも特に強烈なのが、岩崎弥太郎さん。2人とも、目指すものや理想とする世界は一緒なのに、アプローチの方法が真逆。「力を持つ者がどんどん前に進んでいくべきだ」という岩崎さんに対して、栄一は「みんなで進まなければ意味がない」と主張し、真っ向から対立することになります。
-岩崎弥太郎役の中村芝翫さんと共演した印象は?
共演したのはまだワンシーンだけですが、威圧感がものすごかったです。歌舞伎役者さん特有の間や声の出し方に、ただ者ではない感じがものすごく出ていて。栄一がかなり押され気味だったので、野心に満ちあふれた岩崎さんにぴったりだなと。
-その一方で、かつての主君・徳川慶喜との交流は明治に入ってからも続きますが、2人の関係はどうなっていくのでしょうか。
慶喜のことは将軍になる以前から尊敬していましたが、民間人になった後もその気持ちは変わりません。だから、どれだけ自分が出世しても、栄一は何度も静岡まで会いに行くことになります。その関係性は、ずっと変わらないと思います。
-吉沢さんにとって、慶喜役の草なぎ剛さんの存在とは?
小学生のときからいろんな作品で見てきた大スターなので、共演する前から「すごい人だな」と思っていました。だから、栄一が慶喜を尊敬する気持ちと、僕が草なぎさんを尊敬する気持ちがリンクしている部分があるかもしれません。演じる上でも、その関係性が自然と出ればいいなと思いながらやっています。
-吉沢さんが考えるこれからの栄一の注目ポイントは?
僕が演じていて感じたのは、「栄一、大人になったな」ということです。皆さんにも、「あんなに無邪気だった少年が、こんなに大人になったか」というある種の寂しさを感じていただけるのではないでしょうか。栄一の最大の特徴と言えるのが、「最後まで生き延びた人」ということ。いろんなスターからバトンを受け継ぎ、最後まで生き延びたから、さまざまな業績を残すことができた。その姿から「生命力」はもちろんですが、それだけでなく「生き延びた人の寂しさ」みたいなものも伝わればいいなと。
-単なる成功者ではない栄一の姿が描かれていくと?
そうですね。今までは、「自分がこうしたい」ということを相手にぶつけ、栄一はその相手とだけ戦ってきました。でも、栄一自身が有名になることで、そこに栄一を見る“第三者の目”が加わってきます。その中には栄一をヒーローだと考える人もいれば、「ただ理想を語っているだけだ」という人もいて、自分のやっていることと周囲からの見られ方の違い、みたいな部分も生まれてきます。そういう意味では、より栄一の人物像が人間らしく、生々しくなっていくのかな、と。僕としては、それをすごく楽しく演じているところです。
(取材・文/井上健一)