NHKで好評放送中の大河ドラマ「青天を衝け」。時代は明治に移り、新たな国造りを目指す人材が次々と登場してきた。その1人が、後に総理大臣として歴史に名を残す大隈重信だ。駿府藩で頭角を現した主人公・渋沢栄一(吉沢亮)を新政府に登用するため、得意の弁舌で口説き落とした初対面も強烈なインパクトを残した。演じる大倉孝二が、その舞台裏や役作りの裏話を明かしてくれた。
-第二十八回、初対面の栄一に対して熱弁をふるう場面は強い印象を残しました。あの場面、大隈は新政府への出仕を断ろうとする栄一を説得しなければいけなかったわけですが、芝居の際に心掛けたことは?
撮影のときは、あのシーンの最初から最後まで、途中で止めず、全部通してやったんです。それを何度も繰り返したので、ものすごい緊張感で。もちろん、知識として時代背景は多少頭に入れていましたが、自分がどうこうというよりも、吉沢くんの心を動かすことだけに尽力していました。僕自身、細かい演技でどうにかできるほど演技力に長けた俳優でもないので、あとはもう熱量を信じてやろうと。目の前の吉沢くんに伝わらなければ、見ている方にも伝わりませんしね。なので、そういった僕の必死さもお芝居に出ていたのかもしれません。
-「○○であーる!」という大隈の口癖も非常に面白かったです。
「○○であーる!」が大隈さんの口癖だったことは知っていましたが、どこまでやるかは、現場次第だと思っていました。そうしたら、監督の方から「際立たせてほしい」というお話があって。探り探り、やらせていただきました。ただ、あんなふうに3回も繰り返す編集をされるとは思っていなかったので、「なんだこれは!」とびっくりしました(笑)。
-あの場面のおかげで、大隈のキャラクターも強く印象付けられたと思います。それでは、改めて今回の出演が決まったときの気持ちを聞かせてください。
率直に言って、「自分で大丈夫だろうか…?」と不安になりました(笑)。史実に基づいたフィクションとはいえ、大隈重信さんに対しては、皆さんがいろいろな思いを持っていらっしゃるでしょうから、「自分に務まるのだろうか?」と。お話を頂いた時点では、元総理大臣で、早稲田大学を作った方、ぐらいの知識しか持っていませんでした。ただ、それからいろいろ調べてみたら、いろんなところに「民衆に愛された」と書かれていたり、天真らんまんなところもあったり、面白いエピソードが多く見つかったんです。そういうことを知り、「自分にもできそうな可能性が出てきたぞ」と。演じる上では、そういった部分を少しよすがにしました。
-大隈に関するエピソードで特に印象に残っているものは?
資料を読んで印象的だったのが、伊藤(博文)を相手に碁や将棋を打つとき、打ち方が対照的だったと書かれていたことです。伊藤がじっくり進めていくのに対して、大隈は割と大ざっぱな打ち方で、ピンチになると慌てて対処するタイプだったそうで。そういうざっくりしたところに、すごく親近感を覚えました。
-そういうところも、今回の役作りに生かされているのでしょうか。
そうですね。意識的にそういうキャラクター性を出そうとしているわけではありませんが、親しみやすさという部分は、自分の中に落とし込んでやっているかもしれません。なんとなくにじみ出ればいいかな…という程度ですが。
-大隈の妻・綾子役の朝倉あきさんの印象は?
史実では、大隈さんは綾子さんの手の平で転がされていた部分があったそうです。どんなに頑固に意地を張っていても、綾子さんに言われると、コロッと考え方を変える、といった感じで。一緒にお芝居させていただき、朝倉さんはそういう安心感を与えてくれる雰囲気やお声を持っている女優さんだと思いました。また、佐賀藩出身の大隈は佐賀ことばでしゃべりますが、彼女のご両親も佐賀の方らしく、「大倉さんのせりふを聞いていると、懐かしい気持ちになる」と言ってくれました。
-明治編は大隈以外にも個性的なキャラクターが数多く登場しますが、その中で特に印象に残った人物は?
印象的な方ばかりですよね(笑)。その中でも、特に現場を沸かしているという意味では、イッセー尾形(三野村利左衛門役)さんでしょうか。いろんなタイプのお芝居をなさるので、驚くことばかりで。突然、全く違うことをなさったりするので、すごく刺激的ですし、勉強にもなります。
-大倉さんの考える明治編の見どころは?
僕は自分で見どころを考えるタイプではありませんが、台本を読んだり、やらせてもらったりする中で面白く感じているのは、みんなで議論しながら、やったことのないことを手探りで始めて、新政府はかなり刺激的な場所だったんだな…ということです。どんなふうに国や国会を作っていったのかということを、今と照らし合わせながらすごく実感することができました。僕の場合は、議論というより、大声ばかり出していますけど(笑)。歴史上の人物についても、「本当にこんな方たちだったのでは?」と、学校の授業だけでは分からない人間性やキャラクターが、見ている方にもより身近に感じられるのではないでしょうか。
-これからの大隈はどうなっていくのでしょうか。
歴史に詳しい方ならご存じかもしれませんが、今後の大隈は上ったり、下ったり、いろんなことがあります。いい部分だけでなく、よくない部分もたくさん描かれていますし。口癖の「○○であーる!」はもちろん、渋沢との言い合いはこれからも続くので、そういうところを「おなじみの」といった感じで皆さんに楽しんでいただけたらと思います。
(取材・文/井上健一)