ディズニー・アニメーションの最新作『ミラベルと魔法だらけの家』が11月26日から公開される。『ズートピア』(16)のバイロン・ハワード&ジャレド・ブッシュが監督し、音楽を『モアナと伝説の海』(16)のリン=マニュエル・ミランダが手掛けている。舞台は、南米コロンビアの山奥に建つ魔法の力に包まれた不思議な家。家族全員が家から与えられた魔法の才能を持つ中で、ミラベルだけは何の魔法も使えなかった…。まさに『ズートピア』と『モアナ~』が融合したような娯楽性と多様性を兼ね備えたミュージカル・アニメーションで、ラテンのリズムが心地いい。自身もラテンの出自である製作のイベット・メリノに、その魅力を聞いた。
-この作品のユニークな設定はどこから得たのでしょうか。
監督のバイロンとジャレドが、『ズートピア』が終わったときに「次はミュージカル映画をやりたいね」と話していました。それで、音楽のリン=マニュエル・ミランダが加わって、3人でどんなミュージカルにしようかと相談していく中で、家族をテーマにすることで一致しました。ラテンアメリカを舞台にしたいと提案したのはミランダです。
-主人公のミラベルは眼鏡を掛けていて、美少女でもプリンスでもありません。一つの家が舞台で、冒険の旅にも出掛けませんね。
そうですね。ディズニーのアニメーションの中では、今までで一番複雑かもしれません。主人公が2~3人いて旅に出るというパターンが典型ですから。でも、今回は12人も家族がいて、しかもずっと家が舞台。家族の物語にしたかったので、典型的なラテンアメリカの家族がどうやって暮らしているかをリサーチして、3世代が同居している設定にしました。確かに、ミラベルは眼鏡を掛けています。私も同じなのでうれしいのですが、私たちは眼鏡に意味を託していて、自分の期待や先入観に縛られないで本質を見ることの大切さを示唆しています。
-これまでにない設定に不安はありましたか。
確かに不安に思うこともありましたが、同時に確固たる自信もありました。それはバイロンとジャレドが、素晴らしい世界観を作り上げる才能と、興味深くて、ときには笑ってしまうようなストーリーテリングの能力に長けていることを知っていたからです。ただ、作業するアーティストたちは大変だったと思います。製作がスタートする前には、既にステイホームの状況になっていたので、各自が作業を全て家でしなければならなかったからです。
-バラエティーに富んだ魔法がたくさん出てきます。個人的にお気に入りの魔法は?
私だったら、アントニオの動物とコミュニケーションが取れる魔法が欲しいです。というのも、私の愛犬が何を考えているのかを知りたいので(笑)。
-魔法の表現で技術的に苦労したところは?
イサベラの花を咲かせる魔法とか、カミロが他の人物に変身するときの描き方には特に気を付けました。視覚効果では、ペパの天気の魔法です。彼女の気分によって雨が降ったり、風が吹いたり、竜巻が起きたりするので、エフェクトチームが協力し合って、ペパと一緒に動いていく天気が、その時々でどう変化するのかを考えなければなりませんでした。
-魔法以外では?
テクニカルアニメーション部門の人たちにとって最も大変だったのは、むしろ布や髪でした。例えば、ドレスやスカートが動く際、今回は重ね着が多く、コスチュームのレイヤーが幾重にも重なる表現というのは私たちがあまり使わない技術でしたから。ミュージカルシーンでくるくる回る際の層になったスカートの動きなどは相当悩んでいました。また、髪の毛の表現も、例えば、ペパの場合、風が吹いたときの髪の動き方や質感が大変でしたし、キャラクターにも多様性があって、それぞれの髪の質感がバラバラなので、キャラクターに合わせて一人一人変えていかなければなりませんでした。
-ハリウッド映画は今、『エターナルズ』など、多様性に配慮した作品が全盛です。ディズニー・アニメは、『アラジン』『ムーラン』などで早くからそれを先導してきましたね。
バイロンとジャレドが舞台をコロンビアにしようと決めたときに、コロンビア自体が多様性に富んでいる国なので、この国を代表するような作品にするためには多様性を祝福する物語にするべきだと考えたのです。だから、キャラクターがみんな違います。私の家族の場合、祖父母がメキシコから来たんですけど、家族の中でも肌や髪の色がまちまちです。そういう、家族なのにバラエティーに富んでいる部分をしっかり出そうと考えました。また、ディズニー・アニメーションとして、これまでも世界のあるがままの姿を作品に反映させたいという姿勢でやってきているので、今は非常にエキサイティングな時代になったと思っています。
-最後に日本のファンにメッセージを。
全ての皆さんにこの映画を楽しんでもらいたいです。できれば家族で一緒に映画館へ行ってほしい。笑ったり、ハラハラドキドキしたり、ミステリーの要素もあって、誰でも楽しめる映画になっていますから。
(取材・文/外山真也)