アキの母親・春子は、離婚も考えて24年ぶりにアキを連れて故郷に帰ってきた設定で、東京でのパッとしないアキの性格のことも心配している人物。ただ、最終的には自分と自分の母親である夏との空白の24年を埋めるために、自分から北三陸で暮らすことを決意するところが良かった。宮藤官九郎の作品はいつもそうだが、どんな登場人物もきちんとその人の人生を生きている感じが出ている。

今回もメインとなるアキ、春子、夏だけでなく、春子の幼馴染みである大吉(杉本哲太)、夏の海女仲間である弥生(渡辺えり)、かつ枝(木野花)、美寿々(美保純)、小百合(片桐はいり)、アキの父親である正宗(尾美としのり)、琥珀掘りの小田(塩見三省)など、みんながそれぞれに自分の人生を生きている感じがする。こういうドラマは、多少エピソードが広がったり飛び飛びになったりしても、常に物語に入り込めるから見やすい。
 

果たして震災は描かれるのか

宮藤官九郎のこれまでの連ドラに比べれば小ネタは少ないかもしれないが、第1週からかました「じぇ!」は引きが強かった。「じぇ!」というのは、舞台のモデルとなっている岩手県久慈市の小袖地区で実際に使われている方言で、驚いた時に使う言葉だ。

驚きが増すごとに「じぇじぇ!」「じぇじぇじぇ!」と増えていくのが特徴。ドラマではこれを顔文字でも表していて、(‘ j ’)/(‘ jj ’)/(‘ jjj ’)/と真ん中の「j」が増えていくアイコンになっている。モータリゼーションや琥珀の話も重ねて小ネタにしているが、やっぱり「じぇ!」はストーリーを明るく楽しく展開していく上での強力なアクセントになっている。

夏を演じている宮本信子のナレーションも効果的に使われていると思う。時には解説、時にはツッコミの役割も果たしながら、しつこくならない程度に挿入されていいるところがいい。声質の問題もあるけど、やっぱり宮本信子はうまいなあ、というのが第1週からの印象だ。夏のキャラクター自体もどっしりしていてドラマ全体を安定させていると思う。「ちりとてちん」や「てっぱん」もそうだったが、おばあちゃんのキャラクターがしっかり立っている朝ドラはやっぱり見ていて安心する。
 

第3週の頭からアキと春子は本格的に夏の家で住むようになり、アキの海女修行も進んでいる。すでに発表されている今後の展開としては、アキが海女として地元のアイドルになり、やがて東京で本格的なアイドルを目指すようになっていくというものだ。東京の登場人物として、すでに薬師丸ひろ子、松田龍平、古田新太、松岡茉優などの出演も決定している。

つまり、後半、アキは北三陸を離れることになるが、春子と夏の関係も物語としては太い内容なので、完全に舞台が切り替わってしまうことはないような気がする。アキが過去の自分を克服するには東京という舞台も必要だが、ぜひ序盤のノリを維持したまま東京へ向かって欲しい。

あと、このドラマは2008年の夏の出来事からストーリーが始まっているので、2011年3月11日まで行くのかどうかも注目される。オンエア前のインタビューでは、宮藤官九郎は震災をドラマで描くかどうかはまだ決めていないと語っている。果たしてどうなるのか。宮城県出身の宮藤官九郎としては、中途半端な扱いはできないと思うが、もし『あまちゃん』の中で描くとしたら、それは明らかに『純と愛』とは違うアプローチになるので、それはそれで興味深い。


いずれにしても、今回の朝ドラ『あまちゃん』は見どころが豊富なので、見逃すことはできない。
宮藤官九郎の作品が苦手だという人も、フツーの朝ドラだと思って見てみると、きっと驚くくらい楽しめると思うよ(‘ jj ’)/

 

たなか・まこと  フリーライター。ドラマ好き。某情報誌で、約10年間ドラマのコラムを連載していた。ドラマに関しては、『あぶない刑事20年SCRAPBOOK(日本テレビ)』『筒井康隆の仕事大研究(洋泉社)』などでも執筆している。一番好きなドラマは、山田太一の『男たちの旅路』。

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