撮影:稲澤朝博
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  • 撮影:稲澤朝博
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受け手に“考える余白”を与える、平沢進の表現

1994年に初のインタラクティブ・ライブ「AURORA TOUR」を体感した時、観客参加型というエンターテインメント性に代表される斬新な見せ方は、唸らされると同時に「今後、この手法をマネる人たちが出てくるだろう」と思った。それほどクリエイター層を刺激するようなシロモノだったからだ。

だが実際は、あれから28年が経過した今でもそこに手をかけたアーティストは皆無と言っていい。方法は模倣できても、楽曲や世界観がそれに見合わなければオハナシにならないし、そもそもライブとして成立させるには膨大な時間とマンパワーを要す。

平沢進を表す言葉としてはもはや使い古された感のある“唯一無二”の四文字は、このインタラクティブ・ライブに集約される。何もかもが他に比類なきもので構成され、それを求めて幅広い世代の人々が会場へ集まる。

撮影:稲澤朝博

1979年にバンド・P-MODELでデビューし、1989年よりソロ活動を並行するようになった頃からの古参のファンだけでなく、2000年代に入ってからも平沢は着実に支持を高め、ライブごとに若いファンが増える現象を見てきた。『ベルセルク』や『パプリカ』といったアニメ映画への楽曲提供で、それが入り口となったオーディエンスも多いと思われる。

地上波のような大手メディアでとりあげられるわけでもなく、ネットというツールが使われつつもベーシックな“口コミ”によって平沢は語り継がれ、伝聞され、心の中へ刻まれてきた。だからこそファンとの距離感が濃い。

ツイッター上のやりとりやMCのないライブで見られるように、平沢はファンとの距離を置こうとする。にもかかわらず、精神的なつながりはより濃いものとなるその関係性が面白い。

インタラクティブ・ライブは、そんな平沢とオーディエンスとの距離感が具現化されたもの。一方的に楽曲を演奏し、聴かせるのではなく客席はもちろん、その場におらずネットを通じてストーリーの進行に参加する「在宅オーディエンス」も一緒になって一つの作品を成立させる。

撮影:稲澤朝博
撮影:稲澤朝博

その軸となる物語も平沢のオリジナルで、スクリーンに映し出されたコンピューターグラフィックによる映像と文字情報で追いつつ、ステージ上の演奏が重ねられていく。事前にサイト上でストーリーのあらすじは公開されるものの、内容に関しては独特の世界観及び膨大なテキスト量ゆえ現場ですべてを把握し、理解するには少々のハードルがあると思われる。

ただ、そこで平沢からの説明や補足が提示されることはない。オーディエンス一人ひとりが自分で考え、それぞれの解釈で物語を読み取っていけばいいという姿勢で一貫している。

思考することなく答えのみを求めがちな現代は、気がつけば説明過多な風潮となっている。そうした中で、平沢は受け手に考える余白を与えるのだ。