会場の観客×在宅オーディエンスが参加する、インタラクティブな仕掛け

撮影:稲澤朝博

オーディエンス参加型の肝として、インタラクティブ・ライブに出てくる「ホットポイント(分岐点)」は、スクリーンに表示される二択のどちらを選ぶかによりストーリーと演奏する楽曲が変わる重要な場面だ。コロナ前は観客が声を出し、その音量によって決していた。

今回は声出し禁止のため、拍手によって(あらかじめスマホに録音したコール音の使用も認められていた)相互関係が成立。在宅オーディエンスは、ライブと同時進行で更新される公式ツイッターアカウントに流れる指示に従い、ウェブ上での作業を担う。

撮影:稲澤朝博

それを繰り返しながら物語は進み、最終的にはグッドエンドを導くのが理想…だが、いつもそうなるとは限らない。公演を重ねていく中で「前回は右を選んでバッドだったから左が正しい」というように、オーディエンスが復習することで正解に近づいていく。公演後、ツイッター上で「あーでもない、こーでもない」と議論するまでがイベントなのだ。

ここでも「考えること」が必要とされるわけだが、そうしたストーリーを抜きにした純然たるライブとしても楽しめる仕様となっているあたりが、高いクオリティーを誇るインタラクティブ・ライブと評されるゆえん。

イベントに先駆けて昨年発売されたアルバム『BEACON』は、インタラクティブ・ライブの内容に準じたサウンドとリリック。映画のサントラを生で演奏し、映像とシンクロさせている風景を想像していただければいい。

ただ、サントラと絶対的に違うのははじめに映像ありきではなく、音楽も並走して平沢の中で紡がれている点。だからこそ完成度の高い世界観を現出させられる。

約8,000人収容のだだっ広い東京ガーデンシアターは屋根が高く、上を見上げれば漆黒の虚空が広がる。そこから空が割れて降り注ぐように、平沢の荘厳な歌声が包み込む。

撮影:稲澤朝博

まるで文明がなかった頃、人類を導いた神事のような空間。声の存在感というべきか、聴くものを日常から非日常の物語の中に引き込むとてつもない力をみなぎらせている。

そこへ最新のテクノロジーを駆使して生み出されたサウンドが絡みつく。古代の先人たちが石に刻み残した暗号をコンピューターで解析し、音として出すとこんなふうになるのでは…そんなイメージだ。

こうして2日間に渡り計3公演おこなわれたインタラクティブ・ライブ「ZCON」は、2日目の夜、最終公演にてグッドエンドに達したわけだが、前2公演も観客はうまくいかないことの面白さを堪能していた。どんな結末を迎えようとも、平沢の声と音を全身に浴びる場であるのは普遍であり、連続で参加するファンは次回へのモチベーションにもなる。

もちろんグッドエンドにたどりつくことで達成感は得られるが、それだけが目的とは違う。何年もの歳月をかけて、インタラクティブ・ライブという共有空間(ネット参加も含む)で培ったファンと平沢の関係は、多用性に満ちたエンターテインメントショーとしての深みを肉づけしてきた。

撮影:稲澤朝博

感情的な要素を排除することにより“押しつけ”(答えを一元化してしまう意味で)を回避してきた平沢のライブ。しかし、今回はエモーショナルな瞬間がファンを待ち受けていた。

ストーリー上、登場人物たちが力を合わせてピンチを脱するクライマックス的場面で演奏されたのは、P-MODEL時代のナンバー『ASHURA CLOCK』――それは、さる1月1日に51歳の若さで逝去された元メンバー・福間創さんとの共作だった。