北条義時役の小栗旬 (C)NHK

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。5月8日放送の第18回「壇ノ浦で舞った男」でついに平家が滅亡し、源頼朝(大泉洋)以下、源氏勢の悲願が達成された。主人公・北条義時(小栗旬)にとっても大きな目標だった平家打倒が実現した今、これから物語はどうなっていくのか。制作統括を務める清水拓哉氏が、今度の見どころを語ってくれた。

-ついに平家が滅亡しました。今後の物語はどのように展開していくのでしょうか。

 これからは、鎌倉幕府という新政権の中でサバイバルレースが繰り広げられていくことになります。頼朝が自分の大目標を達成するため、身勝手な御家人たちをどのように従わせるのか。その問題に一つの答えを出したのが、第15回の上総広常(佐藤浩市)の粛清です。これは、全ての御家人たちに強烈な印象を残し、気を抜くと、いつ自分が次の上総広常になるか分からないという危機感をあおった。北条家も含めて、誰もが一つ間違えれば同じ目に遭うという状況の中、いかに自分たちが他の御家人を出し抜き、生き残っていくのか。それぞれが知恵を働かせていくことになります。

-壇ノ浦の合戦が終わったことで、武家社会が確立していく時代の変わり目にもなりそうですが。

 武家社会の成立という意味では、平家を滅ぼしただけでは終わりません。後白河法皇(西田敏行)が君臨する朝廷の存在は大きく、彼らにとってはまだ、武士は警察や軍隊のような存在に過ぎず、あくまでも自分たちの手足だと考えています。鎌倉側がこの問題とどう向き合っていくのか。これが、最終的に後鳥羽上皇(尾上松也)と鎌倉幕府が直接対決する承久の乱につながる大きなテーマになります。つまり、鎌倉幕府内の争いと、朝廷という大きな壁との戦い。平家滅亡後はこの二つの軸が絡み合いながら進行していくことになります。

-壇ノ浦の合戦で平家を滅ぼした後、「この先、私は誰と闘えばよいのか」とつぶやいた義経(菅田将暉)の今後も気になります。

 義経というのはある種、ものすごく危険な刃です。味方でいる間は非常に頼りになる存在ですが、戦う相手がいなくなった時、エネルギーを持て余す義経をどう扱えばいいのか。それを利用しようとする京の朝廷、そして義経を育んだ奥州の藤原秀衡(田中泯)。この両者と鎌倉の頼朝の間で、義経を巡る三角関係が展開していきます。

-まだまだ予断を許さない、という感じですね。ところで、ここまでの物語を振り返ると、コミカルな要素もあった序盤に対して、最近はだいぶシビアで重厚なムードに覆われています。今後はどうなっていくのでしょうか。

 シビアな話にはなっていきますが、急に「鎌倉殿の13人」らしいテイストが失われ、すべてが重苦しい物語になるわけではありません。今後も三谷(幸喜/脚本)さんらしい笑いはありますし、当初から“予測不能”とうたっているように、いわゆる“大河ドラマのお約束”に安住しない展開は維持していくつもりです。ただ、義時はこれまで自分が支えようと思って付いてきた頼朝という人の恐ろしさや、その右腕であることの恐ろしさに、第15回で気付いたはずです。逃げるに逃げられないそのプレッシャーと義時がどう格闘していくのかが、見どころの一つになります。

-これから義時の息子・北条泰時(坂口健太郎)や、義時の弟・北条時房(瀬戸康史)といった若い世代も登場してくるようですが、彼らは物語にどう関わってくるのでしょうか。

 若い世代が、これから物語にどんな彩りを加えていくのか。その象徴の一つとなるのが北条泰時です。第15回のラストで生まれた義時の息子が後の泰時ですが、三谷さんと一緒に注目したのがこの点です。源平合戦に臨むため、頼朝が大きな粛清を行ったその年、後に名宰相として歴史に名を残す北条泰時が生まれた。寿永2年が義時にとってそういう年だったというのは、非常にドラマチックな話です。これを踏まえて、大粛清に図らずも加担してしまった義時が、息子の泰時に何を教え、何を期待して生きていくのか。それが今後の見どころになっていくと思います。

-これからも見どころ満載で、目が離せませんね。ところで、北条宗時(片岡愛之助)や伊東祐親(浅野和之)らを次々と暗殺し、上総広常の粛清にも関わった善児(梶原善)は、最近は「タイトルバックに名前が出るだけでドキドキする」と話題になっています。その人気をどう受け止めていますか。

 善児の場合、人気と言っていいのかどうか、分かりませんが…(笑)。ただ、そんなふうに皆さんから注目されるキャラクターになったこと自体はうれしいです。三谷さんはそれを狙って描いたわけではありませんが、結果的にそうなったのは、三谷さんの脚本と演じる梶原善さんの力です。現場でも、監督たちが手を変え、品を変え…という感じで、善児の描き方がどんどん洗練されていっています。この先、善児にも誰も予想しなかったような展開が待っていますので、引き続き注目してください。

-最後に、視聴者の反響で印象に残ったことを教えてください。

 第15回を見たお子さんたちが、上総広常の死を悲しんだり、泣いたりしたというツイートをたくさん目にしました。トラウマ的なことになったとすれば申し訳ありませんが、お子さんたちがそこまで入れ込んで見てくれていることは、われわれにとってものすごくうれしいことで、とても励みになります。この先もそういうシーンだけでなく、楽しいシーンもたくさんありますので、ぜひこれを機に、お子さんたちも大河ドラマのファンになっていただけたらうれしいです。

(取材・文/井上健一)