NHKで放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。名手・三谷幸喜の巧みな脚本と主人公・北条義時役の小栗旬をはじめとした俳優陣の好演により、およそ800年前の平安末期から鎌倉初期を彩った人々の活躍が生き生きと現代によみがえり、好評を博している。その1人が、源頼朝(大泉洋)の最初の妻で、激動する時代に運命を翻弄(ほんろう)された後、義時の妻となった八重だ。演じるのは、これが大河ドラマ初出演となる新垣結衣。「本格的な時代劇は初めて」と語る新垣にとって、本作は収穫の多い現場となった。撮影が進む中で感じた思いを聞いた。
-初めての大河ドラマ出演とのことですが、ここまで演じてきて、どんな手応えを感じていますか。
自分の実になるいい経験ができたと思っています。ファンタジー作品で戦国時代の姫を演じたことはありますが、本格的な時代劇は初めてですし、大河ドラマはもちろん、NHKの連続ドラマに出演することも初めてで、初めてのことが本当にたくさんありましたから。所作などは、現代劇でも姿を美しく見せるのに役立ちそうですし、お着物で過ごす時間も長かったので、体になじんでいく感じがあって、今後、また何かの機会に生かせるのではないかと思っています。
-小栗旬さんとは久しぶりの共演になると思いますが、どんな印象を持っていますか。
周りをよく見て、いろいろと気に掛けてくださる方です。その印象は以前も今も変わりません。今回共演させていただき、これだけ長い間、一緒にお芝居ができることは本当に光栄です。いろんなお話もしましたが、大河ドラマ初主演に当たって、「引き受ける前に悩み、主役を経験された方に意見を聞いた」とコメントされていたので、「それから半分ぐらいたって、どうですか?」とインタビューみたいなこともやっていました(笑)。
-脚本の三谷幸喜さんと何かやりとりをしたことはありますか。
どんな声の出し方をすると時代劇に合った表現になるかとか、言葉の意味など、具体的なアドバイスを頂き、語源や由来を改めて考えたりすることは今後、別の作品に携わるときも大事にしていきたいと改めて思いました。うれしい感想もたくさんいただいたので、それを励みに、撮影に臨んでいます。
-それでは、ご自身が演じる八重という人物の魅力をどう捉えていますか。
「八重姫はこういう人物だった」と史実に残っているエピソードをあらかじめ聞いていたのですが、それと今回のドラマの中での八重は、だいぶ印象が違います。その上で、今回の八重は、自分自身に対しても、周囲の大事な人に対しても、生きることに対して、すごく強い意志を持っているなと。そのために、すがるものを見つける力があるというか、諦めない力があるというか…。演じる上でも、そういう自分が大事にしているものに対しては、揺るがない意志の強さを貫くことができたらと思っています。
-本作には、八重だけでなく、政子(小池栄子)やりく(宮沢りえ)など、強い女性たちが多数登場します。新垣さん自身はこの作品に登場する女性たちをどんなふうに見ていますか。
現場に時代考証の坂井(孝一)先生がいらっしゃったとき、そういうお話をされていたんですけど、この時代の女性たちは、やっぱり強かったそうです。女性だから、男性だからとか、親だから、娘だからとか、立場がどうとかいうことは関係なく、当時の女性は、割と強かったんだと。頼もしい人たちがたくさん登場しますし、それがもし当たり前だったのだとしたら、いいことですよね。皆さん、とても魅力的だと思います。
-そんな強い女性たちの代表とも言える政子役の小池栄子さんと共演した感想はいかがでしょうか。八重にとって政子は、頼朝の前妻と本妻という関係から、義時の妻になったことで義理の姉に変わるなど、深いかかわりがありますが。
栄子さんは先輩ですが、当初、役の立場的には八重の方が政子より上だったので、初めて2人が対面するシーンでは、政子に負けないようにしなければとプレッシャーや緊張を感じていました。でも、撮影が始まると、栄子さん演じる政子が、まだ何者でもない1人の女性としてそこにいらっしゃったんですよね。前妻の下に1人で乗り込んできたのはいいものの、ややおびえている…。歴史上の政子のイメージから、そうくるとは思っていなかったので、その顔を見たとき、「政子さんにも、まだ何者でもない少女の時代があった。生きていたんだ」と感じることができたんです。そこに深い感銘と刺激を受けました。
-その後、政子は御台所になって身分が上がっていきましたね。
御台所になられた後は、堂々とした姿の中に、栄子さんならではのかわいらしさや優しさみたいなものが強く感じられるようになりました。八重が侍女として頼朝のそばで働くことを許してもらった後は、こんなに寛大に受け入れてもらっていいのだろうかと、政子に対して感謝の気持ちを抱きながら演じています。その心の広さや優しさ、かわいらしさは栄子さんならではですが、今後、“尼将軍”と呼ばれるようになっていく中でどう変化していくのか、楽しみにしています。
-本格的な時代劇に出演するのは初めてだそうですが、そのイメージは変わりましたか。
今回、三谷さんが脚本を手掛けた「真田丸」(16)を拝見し、最終回ではおえつするぐらい大好きになりました。でも、それ以外はほとんど見たことがなかったんです。現代とは価値観が違うので、その時代の“当たり前”みたいなものが理解できず、共感しづらいのではと思っていたので。ただ今回、参加してみたことで、価値観や常識は違っても、抱く感情は変わらないんだなと実感することができました。身近な人が亡くなって悲しんだり、死への恐怖だったり、嫉妬したり、誰かを好きになったり…。そういう気持ちはいつの時代でも同じなんだなと。おかげで、どこか“フィクション感”のあった歴史上の人物が、実際に生きていた人間だったことを感じられるいい機会になりました。
-ここまで演じてきて、自己評価はいかがでしょうか。
反省点ばかりです。ただ、三谷さんから「自分が思い描いていた以上の八重さんになりました」という感想を頂けたので、それで全部報われたような気持ちです。反省の思いは消えませんが、そう言っていただけて、本当に安心しています。
(取材・文/井上健一)