NHKで放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。7月31日放送の第29回「ままならぬ玉」では、梶原景時(中村獅童)亡き後、北条家と比企家が権力争いを繰り広げるさまと、その間で自らの在り方に苦悩する2代目鎌倉殿・源頼家(金子大地)の姿が描かれた。
時に宿老たちの合議を無視して強引に所領の問題を裁断し、時に蹴鞠(けまり)で現実逃避をする頼家の姿は、そのわがままに対するいら立ちよりも、孤独感と寂しさを感じさせるものだった。
そんな頼家を救ったのが、比企能員(佐藤二朗)の娘で側室のせつ(山谷花純)の言葉だ。早くに頼家の子・一幡を産みながらも、頼家が源氏の血を引くつつじ(北香那)を正妻に迎えたことで、側室の地位に甘んじることになったせつ。
彼女は、頼家が息子・善哉を生んだつつじとばかり過ごすようになったことに、寂しさを募らせる。そこで、政子(小池栄子)の助言を受け、思い切って頼家に胸の内をぶつける。
「嫡男は善哉さまで結構。私はただ、あなたさまとお話がしたいのです。私と一幡をおそばにおいてほしいのです。比企は関わりございません。そういう者もおるのです。それも退けては、鎌倉殿は本当にお一人になってしまいます。鎌倉殿をお支えしとうございます」
この言葉に心を動かされた頼家は、「お父上を越えたいのなら、人を信じるところから始めてはいかがでしょう」と勧める主人公・北条義時(小栗旬)に、「一幡を跡継ぎにする」と打ち明け、さらに言葉を続ける。
「父上が母上と手を携えて、この鎌倉を作ったように、せつとなら、鎌倉をまとめていけるような気がする。わしは弱い。信じてくれるものを頼りたい」
せつ役の山谷は、頼家に思いをぶつけた場面について、放送終了後、番組公式サイトで公開されたコメントの中で、「(頼家役の金子)大地の心に刺さればいいなって、頼家と一緒に。そう思いながらお芝居をさせていただきました」と語っている。その力強い芝居は新鮮で、見ているこちらまで胸打たれるものがあった。
物語が折り返しを迎えた今、主演の小栗を筆頭に、序盤から出演してきた俳優陣には、役柄自体が年齢を重ねていることもあり、落ち着きや安定感が出てきた印象がある。それは「場慣れ」といった感覚に近いかもしれない。
これに対して、金子や山谷といった中盤以降に登場してきた俳優陣には、そういう「場慣れ」はまだなく、ある種、熟成されていない荒々しさと勢いのようなものを感じる。
この両者が同じ場に身を置くことで、安定感が打ち破られ、物語に新鮮な緊張感が生まれる。それは、1年間続く大河ドラマにとって必要不可欠な“新陳代謝”と言っていいかもしれない。
義経(菅田将暉)や頼朝(大泉洋)ら、型破りな存在が姿を消した代わりに、ここ最近の回ではその新陳代謝がちょうどいいバランスで機能し、安定感の裏返しの停滞感が生じることを回避しているように思える。
その点は金子や山谷だけでなく、つつじ役の北、比奈役の堀田真由、この回から登場したトウ役の山本千尋といった俳優たちも同様だ。政子と頼家の前で火花を散らすつつじとせつの女性同士の対決(第27回)は印象的だった。
彼らはいずれも1996~98年生まれ、20代中盤の若手俳優(といっても、経験は豊富)だが、面白いのは、畠山重忠役の中川大志も同世代だということ。
役柄や役者自身の個性の違いもあるだろうが、彼らの新鮮なたたずまいと第1回から出演している中川の落ち着きぶりとを比べると、そこにはやはり「場慣れ」の差もあるような気がしてならない(なお、北条泰時役の坂口健太郎、北条時連役の瀬戸康史はもう少し上の世代だ)。
彼らが小栗たち先輩俳優陣といかに交わり、どんな物語を作り上げて行くのか。あるいは、彼らの存在が義時にどんな影響を与えて行くのか。混迷深まる鎌倉幕府の未来を彩る若手俳優陣の活躍に期待したい。
(井上健一)