2017年に宝塚歌劇団退団後、「マイ・フェア・レディ」や「ローマの休日」など数々のミュージカルや舞台、ドラマで活躍する朝夏まなと。9月7日から開幕する、ミュージカル「モダン・ミリー」では、仕事と恋に頑張る主人公ミリーを演じる。1967年公開の映画『モダン・ミリー』を舞台化した本作は、1920年代のニューヨークを舞台に、心に残る数々のナンバーと華やかなダンスで、ミリーが仕事と恋に生きる姿を描いたハッピーな作品。20年4月の開幕直前に公演中止となったが、今回、ついに上演される。朝夏に作品への意気込みや俳優業への思いを聞いた。
-2020年の公演中止を経て、待望の上演となります。改めて、今回、上演が決まった気持ちを聞かせてください。
上演中止となったときは、悲しいし、やるせない気持ちでいっぱいでしたが、コロナ禍で舞台が上演できる状況ではなかったので、どこかしかたないという思いもありました。(演出の小林)香さんが、私たちに「中止ではなく、大幅な延期です」とおっしゃったのですが、その言葉通り、今回の公演が決まったときは、本当にうれしかったです。キャストが再びそろうのは奇跡だと思いますし、ありがたいことだと思っています。
-コロナ禍でのミュージカルや演劇について、当時、どのように考えていましたか。
私個人としては、前向きに捉えていました。最初の緊急事態宣言のときには、「こうして時間ができたのは、次に舞台に立つときにもっと成長した姿をお見せするための準備期間をもらえたということなんだ」と考えていました。舞台を上演することに対して批判が集まった時期もありましたが、私はあまり悲観的には考えていなくて、必ず舞台がまたできる未来がくるから、そのための準備を、今しておこうと。
-すごくポジティブ!
そう思わないとやっていられなかったんですよ(笑)。一度、落ち込んでしまったら、どこまでも暗くなってしまったと思いますが、今、自分にできることは何だろうと考えたとき、そういう結論に至りました。
-実際に、自粛期間はどんなことをしていたんですか。
エクササイズをしたり、バーレッスンをしたり、ボイストレーニングしたりと、ひたすら毎日、自宅でできるレッスンをしていました。そうして、やっと舞台が再開できて、マスクを付けたお客さまが客席の半分だけ入っているのを見たときに、これは絶対になくなってはいけないものだと改めて思いました。無観客で配信をするという新しい見せ方もありましたが、やはり生で、舞台と客席で交流ができることが素晴らしいんですよね。声が出せなくても、見守ってくださり、拍手してくださるお客さまがいらっしゃることが大事だと強く感じました。
-本作もそうですが、特にコメディーはより観客がいることに意味がありますよね。
そうですね。コロナ禍では客席での会話は禁止でしたが、笑いが漏れてしまうこともあるかと思いますし、お客さまが笑顔になっているのは伝わってきますから。今作も存分に笑っていただけるような作品になると思うので、これからお稽古でより高みを目指して作品作りに励みたいと思います。
-では、本作の見どころを教えてください。
たくさんありますが、やはりすてきな音楽とたくさんのダンスナンバーが魅力です。これぞ「ブロードウェーミュージカル」という作品だと思います。それから、ミリーと彼女の周りの人々の温かい交流も見ていただきたいポイントです。
-出演者全員がタップダンスをするシーンもあるとか。
そうなんです! みんな、踊ります。ミュージカルといっても、これほど全キャストがダンスを踊る作品はそれほど多くないと思います。ダンスシーンはぜひ注目していただきたいです。
-今現在は、ミリーという役をどのように演じたいと思っていますか。
スカッとした女性にしたいと思っています。モヤモヤさえも吹き飛ばしてしまうような猪突(ちょとつ)猛進な女の子のイメージです。こうすると決めたら、ちょっとやそっとでは折れない強い意志を持っています。それは、若さ故かもしれませんが(笑)。ですが、その姿を見ていると、こんなにも頑張っているんだと思えて元気になる。お客さまにもその元気が伝わればいいなと思います。中止となってしまった2020年からは2年たっているので、私自身は年齢を2年重ねていますが、“若さ”を届けたいと思います(笑)。
-ミリーが田舎町から出てきたことで人生が変わっていくという本作の物語にちなんで、朝夏さんにとって人生の転機を教えてください。
やはり、宝塚に受かったことです。ミリーとはまた違いますが、私も田舎町から舞台に立ちたいという夢を見て出てきたので、そこはミリーと同じだと思います。あのときの行動力は、ミリーと共通するものがあったと思います。親を説得して、誰の言うことも聞かず(笑)、誰にも止められないほどのエネルギーで突き進んでいました。それが今につながっていると思うので、私にとっては一番の転機でした。
-宝塚を目指そうと思ったきっかけは?
地元の佐賀で宝塚の舞台を見たんです。ちょうど進路を考えていたときだったので、「ここに入れば、毎日舞台に立てるんだ」と。
-宝塚では、トップスターとして活躍しました。一つ、大きな夢をかなえたと思いますが、今は、どんな夢を抱いていますか。
今は、夢を追っているというよりは、舞台に出演することができ、こうしてお芝居をすることを職業にできていることに感謝する気持ちが大きく、あれをしたい、これをしたいという思いはあまりありません。ただ、ずっとステージに立ち続けていられればいいなという思いはあります。今は、作品がより良くなるように、そして自分が成長できるようにという一心で目の前の作品に臨んでいます。
-改めて本作への意気込みをお願いします。
2年延期となった「モダン・ミリー」が上演できる喜びをかみ締めています。延期したことで、より大きなエネルギーと命を吹き込めたらいいなと思っているので、ぜひ劇場にそれを体感しにきていただけたらと思います。皆さんと笑顔でお会いできるのを楽しみにしています。
(取材・文・写真/嶋田真己)
ミュージカル「モダン・ミリー」は、9月7日~26日に都内・シアタークリエ、10月1日~2日に大阪・新歌舞伎座で上演。
公式サイト https://www.tohostage.com/modern_millie/