電動モーターで駆動させる電気自動車(EV)は、温室効果ガスの排出量削減や世界のエネルギー問題に変化をもたらすものとして、世界で注目が集まっている。ところが、日本は各国の普及率と比べて特に低い水準といわれている。理由の一つとして、充電設備が整備されていないとの見方がある。そんな中、モビリティSaaS「Park Direct」を運営するニーリーは新たにEV関連領域へ参入、EV充電器の普及に力を入れ始めた。
ニーリーの主力事業であるPark Directは、月極駐車場の募集から契約作業、契約後の月々の使用料の徴収、送金や顧客管理までの全てをオンラインで実現するサービス。紙と印鑑をなくし、ネット上で完結させることで不動産会社の駐車場管理にまつわる無駄なコストや業務負荷を大幅に削減する。ユーザーにとっても、契約に関する時間が省けるほか、16万台以上(2022年9月時点)の月極駐車場から選べることがメリットだ。
そのニーリーが参入に踏み切ったのがEV充電器のビジネスだ。佐藤養太社長は、「EVの充電ができる場所が圧倒的に少ないことが、日本でEVが普及していない原因の一つ」という。戸建てであれば、駐車場や庭などの敷地内に設置してあるコンセントを使って充電が可能。一方、マンションや月極駐車場の契約者にとっては、充電する手段がないといえる。「現在、月極駐車場の契約数は3000万台規模あるといわれている。そのため、月極駐車場での設置が重要となる」と指摘する。
EV充電器の普及に向けて取り組んだのは、新明和工業が運営する千葉県千葉市の駐車場で、EV充電器の設置に関する実証実験だ。9月5日に開始し、検証期間は約6カ月を予定している。
実証実験では、来訪客が多い千葉駅周辺の「パークネット千葉弁天第3」にEV充電器を設置。利用者は、EV充電料金として1分で2.5円、フル充電(約3時間)を行うのであれば450円を支払う必要があるが、駐車料金は無料。千葉駅周辺で買い物をして充電できるというメリットもある。ニーリーと新明和工業が持つEVにかかわるシステム開発とオンライン駐車場契約のネットワークの連携を実現した。
また、4月にはEV充電ステーション「Delta EV Charging Station(Yokohama)」でゴールデンウィークシーズン企画としてキャンペーンを実施。ステーション併設のカフェ「Innergie CAFE」で使える「本日のコーヒー&ワッフルセット」のクーポンを関東近郊に住むPark Direct利用者に提供した。
佐藤社長は、「EV充電ステーションの普及と新しいビジネスの創造が目的。EV関連事業は収益性が高いものなのか、お客様にとって利便性の高いものなのかを検証する」としている。ニーリーでは、契約者がどの月極駐車場に停めているのか、またEV車に買い替えたいが充電する手段がないというユーザー情報など、Park Directを通じてさまざまなデータを蓄積している。「そのような顧客情報と実証実験の取り組みなどを踏まえて、EV充電器を設置する場所を決めていきたい」と佐藤社長は考えている。
また、佐藤社長は「国内ではEV充電器関連ビジネスの成功モデルがまだ確立していないので何ともいえないが、マネタイズポイントを模索して3~4年で黒字化を目指す」としている。さらに、「将来的には、1カ月間などの定額で好きなだけEV充電が可能なサブスクリプションサービスが主流になるのではないか。それも踏まえて、サービスを創造していく」との方針を示している。(BCN・佐相彰彦)