尾上松也 (C)エンタメOVO

 『ボス・ベイビー』、『シュレック』のドリームワークスが送るアニメーション映画『バッドガイズ』が10月7日から全国公開となる。本作は、怪盗チーム“バッドガイズ”の活躍を、アクションとユーモア満載で描いた痛快エンターテインメント。日本語吹き替え版で、おしゃれでクールなバッドガイズのリーダー、ミスター・ウルフの声を担当したのが、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22)でも活躍中の尾上松也。収録の舞台裏や作品の見どころを聞いた。

-スピーディーなアクションとユーモアが満載で、最後まで息つく暇もなく楽しめました。松也さんの声もミスター・ウルフにぴったりでしたが、演じる上で心掛けたことはありますか。

 ミスター・ウルフは、スタイリッシュでかっこいいバッドガイズのリーダーですし、作品自体もテンポが良いので、その点は意識しました。僕がウルフの声を担当していると公表されてはいますが、映画を見ている間は、ウルフの後ろに僕の影が見えなくなることがベストだと思っています。ですので、雰囲気や感覚的なところで、僕に直結しないようにいつもと違う空気感を出せるように心掛けました。

-おっしゃる通り、見ている間は松也さんであることを意識しないほど自然に聞こえて、物語に没頭できました。とはいえ、実写の作品にはなかなかないテンポの速さなので、その辺の苦労もあったのではないかと思うのですが。

 アクションを含め、アクティブなシーンが多かったので、その辺は声を合わせるのが難しかったです。アクションシーンはいろいろな音が混ざり合っている中で、ちょっとした掛け声や吐息を細かくすり合わせ、雰囲気を作っていかなければいけないんです。ですので、思った以上に苦労しました。

-普段は歌舞伎や舞台、実写の映像作品で活躍している松也さんですが、その経験が今回の吹き替えに役立った部分はありますか。

 映像と舞台のどちらかと言うと、吹き替えは舞台の表現に近いと思っています。キャラクターが全身を使って大きく動くアニメーションに対して、映像寄りのしゃべり方ではテンションが合わないので、大きな抑揚とメリハリをつける必要があるんです。その辺は、舞台での経験が役立ちました。とはいえ、完全に舞台や歌舞伎のような表現になってしまっても駄目で、多少のリアリティーを加えなければならないので、その加減が難しかったです。

-そういう細かい部分にも気を配ったことで、見事なミスター・ウルフの声が生まれたわけですね。ところで、ミスター・ウルフはバッドガイズのリーダーですが、松也さん自身も普段、リーダーシップを発揮する機会があると思います。その点で共感する部分はありましたか。

 思い立ったら即行動、というミスター・ウルフの行動力はとても近いものがあります。僕もやりたいことがあったらすぐ人に相談しますし、自分から動いて人を巻きこんで物事を進めていくのは得意な方ですので。

-そういう意味では、バッドガイズも見事なチームワークでミッションを成功させていきますが、彼らのチームワークについては、どんな印象を持ちましたか。

 僕も友だちを大事にするタイプでして、家族以上と言っても過言ではない友だちが何人もいます。バッドガイズのような仲間もいますし。といっても、悪いことをしているわけではありませんけど(笑)。ただ、そういう仲間がいるととても心強いですし、だからこそ頑張れるところもありますので、ウルフの気持ちはよく分かります。チームワークという部分でも、自分が中心になって物事を進めたり、何かを制作したりするときには、みんなが同じ方向を向いて、楽しんでやれることを心掛けていますので、その辺もすごく共感できました。

-怪盗チームのバッドガイズは、犯罪者として警察から追われる身ですが、どのキャラクターも愛らしく、人間味にあふれています。松也さん自身も、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」や「やんごとなき一族」(22)などの実写作品で悪役を演じていますが、いずれも憎み切れない魅力がある点はバッドガイズに通じる気がします。松也さんが考える悪役の魅力とは何でしょうか。

 役者の中には「悪役の方が楽しい」という方がたくさんいますが、僕も同意見です。なぜかというと、悪役の方が人間らしいからなんです。みんな普段は、理性や道徳心がありますので悪いことをしませんけど、「何でもあり」になったら、平気で悪いことをすると思うんです。人間の中にはもともと何かしらの「悪」が潜んでいますよね。それを解放できるのが悪役なのではないかと。いろいろな背景やいろいろなお役がありますので、一概には言えないところもありますが。ですが、そんなふうに人間が持つ「悪」を気にせず解放できるので、悪役は楽しいですし、やりがいがある。同時に、なぜそんなことをするのか考えてみると、実はいろいろな悩みを抱えていたりして、深みもある。ですので、悪役はとてもやりがいがあります。

-その辺は、ミスター・ウルフに通じる部分もありそうですね。

 そうですね。ミスター・ウルフは極悪人というほどではありませんが、その両面を持っていますので、とても魅力的な役だと思います。

-声だけでなく、人柄や考え方も含め、松也さんがミスター・ウルフにぴったりだということがよく分かりました。それでは最後に、この作品の見どころとして、印象に残ったシーンを教えてください。

 ウルフが仲間のスネークに、「嫌われ者じゃない俺たち、想像したことある?」と聞くシーンが、とても切なかったです。普段は「俺たちはバッドガイズだぜ!」とカッコをつけていても、実はその裏には「好かれたい」「愛されたい」という気持ちがある。本当は違うのに、周りからレッテルを貼られたことに対して、自分のプライドや意地もあり、その通りに振る舞ってしまう。でも本当は「こうありたいんだ」と。そんな経験って、問題の大小を問わず、誰にでもあると思います。そういう、誰もが抱える悩みを描いているところは、とても切なくて印象的ですし、考えさせられますよね。

-アクションやユーモアに注目が集まる本作で、そのシーンを選んだ理由は?

 アクションシーンやテンポのよさ、華やかな演出が見どころなのは言うまでもありません。ですが、ドリームワークスのアニメーションは毎回、ふと立ち止まって考えさせるような深みがあるんです。それが大きな魅力でもあるので、『バッドガイズ』もぜひ、そういうところに注目していただきたいです。

(取材・文・写真/井上健一)