山口祐一郎 (C)エンタメOVO

 1981年に、劇団四季の「ジーザス・クライスト=スーパースター」でデビュー以来、96年に退団するまで劇団の看板俳優として活躍。退団後は主にミュージカルを中心に活動し、“ミュージカル界の帝王”とも呼ばれる山口祐一郎。2023年2月5日から上演される舞台「キングダム」では、王騎役を演じる。「キングダム」についてや、25年で一時休館が発表されている帝国劇場への思いを聞いた。

 本作は、2人の少年が時代の荒波にもまれながらも、友との約束や己の夢のために史上初の中華統一を目指す、原泰久の大ヒットコミックを原作にした舞台。19年には山崎賢人主演で映画化もされた本作が、23年2月に初めて帝国劇場に登場する。主人公・信役は、三浦宏規と高野洸、後の始皇帝となるえいせい役を小関裕太と牧島輝が演じる。

 本作への出演が決まったときの心境を尋ねると、開口一番、現在山口が出演しているミュージカル「ヘアスプレー」でも共演中の三浦への賞賛の言葉が口をついて出た。

 「長年舞台をやってきましたが、踊り、歌、芝居がこれほどのびのびとしている役者さんを目の当たりにしたことはあまりなかった。三浦さんの周りには重力がないんです。それを初めて目の前で見て、頑張らなくちゃいけないなと思いました。やはり彼がという驚きと喜びがありました」。

 山口が本作で演じる王騎は、中華にその名をとどろかせた、秦国の六大将軍の一人で、原作でも人気の高いキャラクターだ。そんな王騎役を演じることについては、「漫画もアニメも映画も見ましたが、それぞれすてきでした。アニメや映画では演じている方の魅力が増して見えましたし、私自身もこのお稽古を通じ、舞台に上がって、まっしぐらにその役で求められているものを演じていきたいと思います」と言葉に力を込めた。

 その一方、「若い頃は、『この作品のテーマは』とか『この役の役割は』といったことに縛られて、こだわっていたところがありました。ところが、お客さまから、お手紙で全く自分が思ってもいなかったような感想を頂くんです。『(作品を見て)幸せになれた』とか『孫が生まれました』と(近況が書いてある手紙も多く)、違う環境にいる方々が受け止めるとこんなにも違うんだと感じます」と話す。

 続けて、役作りについて、「『原作の王騎がこういう存在だと思う。僕の人生、生きざまがこういうものだったから、ここが共通点で、そこを広げていきます』という形よりも、この作品にキャスティングしていただいて、演出家の山田和也さんから、『楽しみだ』と言っていただいた言葉をそのまま受け取って、あらゆる努力をして、あらゆる方法をトライをして、そして舞台にポンと立つ。その日を待ち遠しく思っています」と語った。

 ところで、本作が上演される帝国劇場は、日本を代表する劇場の一つであり、演劇やミュージカルの聖地とも称される劇場だ。それだけに「いつかその舞台に立ちたい」と憧れを抱く俳優も多い。これまでも数々の名作を上演してきた同劇場だが、先日、ビルの建て替えに伴い、25年に一時休館することが発表された。

 山口は、これまで「レ・ミゼラブル」や「エリザベート」など、数々の作品でそのステージに立っていることから、思い入れも深い。

 帝国劇場での思い出を尋ねると、「『キングダム』の原作者である原さんが『どうしてこう描いたのか半分は理由が分かるけれど、半分は僕も理由が分からない』とおっしゃっていたのですが、僕も、同じように帝劇に初めて立ったときに、自分で想像してできたことと、どうしてそう演じたのか分からないところ、それから言葉として表現できるもの、できないものがあります。昔は、舞台に立つのが人生の夢でしたが、今は夢が現実になって、ずっと舞台上にいる。僕は舞台上で、与えられた役柄を生きることが人生になっているのです」と思いを明かした。

 さらに山口は「2025年でクローズし、その何年か後に新しい帝国劇場が生まれますが、こけら落としにどの作品が上演されるんだろう、誰が出演するのだろうと考えたときに、その時代にたまたま生まれたことに運を感じます。新しい帝国劇場に立ちたいという思いがモチベーションになりますから。僕は、いつも過去の話ばかりしてしまいますが、三浦くんは未来の話をするんです。初めて未来の話をしたのが、『リニューアルした帝劇でまた宏規くんと会えたらいいね』ということでした」と語ってほほ笑んだ。

(取材・文・写真/嶋田真己)

 舞台「キングダム」は、2023年2月5日~27日に都内・帝国劇場ほか、大阪、福岡、北海道で上演。
公式サイト https://www.tohostage.com/kingdom/