お土産にしたくなる要素

鞄から引っ張りだした拍子に、破損してしまいそうな繊細な作り
ピンクの唐辛子に組み合わせられているサイコロのモチーフ
 

唐辛子ストラップの唐辛子部分はガラス製で、ひもを通す穴は特に繊細な作りになっている。

「使っているうちに唐辛子の部分が取れてしまうことがあるんだけど、取れてしまったほうが、厄を落としたことになるので、縁起がいいんですよ」と、安田さん。

唐辛子の色は赤だけではなく、ピンクや緑、黒、青、さまざまだ。また、それぞれのストラップには、唐辛子のほかにサイコロや小銭、ヒョウタン、花など、何かしらのモチーフが組み合わせられていることが多い。

どうやら、唐辛子ストラップは、冒頭で述べた民間信仰の発端である「赤」にはこだわらず、さまざまな色を取り入れ、お守りとしての効果のほかに、風水的な効果をも有するように趣向が凝らされているようだ。

ストラップを所持する予定の人間のパーソナリティーにあわせて、(1)唐辛子の色、(2)ひもの色、(3)モチーフの種類、3つの組み合わせを導き出し、ピッタリのものを選ぶというシステムになっている。

テーマカラーである唐辛子の色と、モチーフの色の組み合わせが一目でわかる早見表
色の持つ意味についての説明書き
 
他店舗の商品。唐辛子ストラップに小銭やヒョウタンなどのモチーフが付けられている

組み合わせられているモチーフの種類も店舗によってさまざまだ。

 

サイコロであれば「振り出しに戻って、一からやり直せる」、お金や葉のモチーフであれば、「金運が高まる」、提灯のモチーフであれば、「足下を照らしてくれるから、人生で迷わない」など。持つべき人間が欲しているモチーフを選ぶことになる。

 
「実り」を意味する花のモチーフ。さらにピンクは、人気や幸福を上昇させる色だという

筆者の場合、生まれ年と生まれ月、それぞれから導き出された色がいずれも赤であった。

したがって、赤の唐辛子に、赤のストラップひも、さらに「実り」を意味するという、花のモチーフの組み合わせを選択してみた。

一店舗につき数百種類、中華街全体では数千種類はあると思われるストラップの中から、パーソナリティーにあわせた1本を選択できるという特別感が、お土産としての魅力の一つなのだろう。

中華街で発見した限りで最安値と思われる37円。利益は出ているのだろうか・・・

さて、唐辛子ストラップが訪れる者を魅了するもう一つの要素は、何といっても手頃な価格だろう。

 

中華街を歩きまわると、デザイン性の高いものは1000円前後で販売している店舗も一部あったが、おおよその相場は50円前後であった。

「5年ほど前までは、だいたい300円くらいで販売していました。うちが50円に値下げしたことがきっかけになったのでしょうか・・・。直後から中華街の多くの店舗もどんどん値下げしていきましたね。その頃から、観光客を中心に、急激に人気が出てきたように思います」と、安田さん。
 

子どもたちにも購入しやすい手軽な価格。 横浜のチャイナタウンならではの光景かもしれない

安田さんによると、300円から50円へ大幅に値下げしたのは、「修学旅行生でも気軽にお土産にできるような値段にしたかったから」とのこと。具体的な売上本数の変遷こそ伺うことはできなかったが、値下げ前と比較すると、日に数十倍の本数が売れているそうだ。

「競争により中華街全体における唐辛子ストラップの価格が下がり、そこに観光客が集まったことによってブームが作られたのでは」と分析する。

観光客はもちろん、中国へ帰省する中国人も実家の家族や友人のために購入するのだとか。なんでも、「中国で買うよりも安い」というから驚く。
 

取材を終えて

今回の取材にあたり、さまざまな文献を開いたところ、唐辛子を魔除けや厄除けに用いる民間信仰が、世界各地に存在していることがわかった。

中国のみならず、アジアでは韓国、台湾、日本の一部地域。そのほか、ウズベキスタン、イタリアでも唐辛子が魔除けとして用いられているという。
 

イタリアの土産物店で販売されている唐辛子お守り。 形状がやや角をほうふつとさせる(画像提供:Hitch × kakeru*)

ちなみに、イタリアでは、数百年前から「コルノ」と呼ばれる動物の角が、お守りとして用いられていたそうだ。

それが、南アメリカからチリペッパー(唐辛子)が輸入された際、その形状が「コルノ」を連想させたことから、それ以来、唐辛子がお守りとして定着した(「世界のお守り大全」より)。

中華街における唐辛子のモチーフを用いたストラップは、本来の魔除けの意味をやや離れ、お土産として演出されている部分も否めない。

もっとも、手頃な価格に加えて、一定の時間をかけて、自分や家族、友人などのために、ストラップを選ぶという過程がお土産としての価値を高めていること、さらに、「破損したほうが縁起がいい」というポジティブな設定が、民間信仰うんぬんを抜きにして、観光客を魅了しているのだろう。

 


 

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