『男たちの挽歌』(86)、『M:I-2』(00)などで知られるアクション映画の巨匠ジョン・ウー監督の新作『マンハント』が、2月9日から全国で公開される。無実の罪で逃亡を余儀なくされた弁護士ドゥ・チウ(チャン・ハンユー)と、彼を追う刑事・矢村聡(福山雅治)がたどる運命をつづった第一級のエンターテインメント作品だ。かつて中国で記録的大ヒットを飛ばした高倉健主演で映画化された西村寿行の小説『君よ憤怒の河を渉れ』を再映画化した作品としても注目を集めている。今この作品に挑んだ理由や、日本やアジア各国の豪華キャストが顔をそろえた本作に懸けた思いを聞いた。
-本作の基になった日本映画『君よ憤怒の河を渉れ』は、文化大革命後に初めて中国で公開された外国映画で、大ヒットしたことでも有名です。それを今、再映画化した理由は?
私は高倉健さんを尊敬し、ずっと憧れていました。一度は映画でご一緒したいと思っていましたが、残念ながらその夢は実現しませんでした。高倉さんの訃報を聞いたとき、悲しむのと同時に、オマージュとして映画をリメーク製作することを思いつきました。ただ、最初は大好きな『駅 STATION』(81)をリメークしたかったのですが、いい脚本が見つかりませんでした。ちょうどその頃、この作品の権利を持つ製作会社のメディアアジアから「撮らないか」という打診があったので、引き受けることにしました。
-再映画化するに当たって、中国で撮影を行ない、中国人俳優だけで撮ることもできたと思いますが、そうしなかった理由は?
私はもともと、日本映画が大好きで、日本で映画を撮りたいという夢をずっと持っていました。今回、最初は香港や韓国やマレーシアで撮影する構想がありましたが、話が進むうちにそういう案は全て消え、最終的に日本で撮ることになったのです。おかげで、長年の夢がようやくかないました。
-日本、韓国、中国の人気俳優が出演していますが、国際色豊かなキャストをそろえた理由は?
私は国際色豊かな仕事が好きなのです。それは、複数の国の人間が一緒に仕事をすることで、文化や仕事の仕方などで互いに刺激を与えることができるからです。
-その中には日本の人気俳優、福山雅治さんもいますが、印象はいかがですか。
福山さんはとても親しみやすい方で、一緒にいると身近な雰囲気を感じさせてくれます。出演オファーをした時も、福山さんは脚本も読まずにOKしてくれたので、とてもうれしかった。彼は歌でも、常に人類や社会、平和や愛に関するメッセージを多く発信していますよね。今回の刑事も、原作の冷たい人物とは異なる、温かみがあって、人間味豊かな上にカッコいい人物として演じてもらいました。
-國村隼さんはいかがでしょうか。
國村さんとは、もう25年来の友人です。かつて私が香港で撮った『ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌』(92)という映画に出演してくれました。今回、古い友人として再度出演してくれたことは感無量です。
-スタッフにも多くの日本人が参加しています。
スタッフには韓国や日本や中国など、いろいろな国の方がいますが、みんなが一つになって仕事をすることができました。中でも感心したのは、何と言っても日本の方のプロ意識の高さです。かつて私はアメリカでアメリカ人と一緒に仕事をしたことがありますが、日本の方も一生懸命に取り組み、同じぐらい高いレベルの仕事をしていることが分かりました。一つのファミリーとして皆さんが協力して、いい仕事をしようとする姿勢には、深く感銘を受けました。
-最初から最後まで迫力満点のアクションに圧倒されますが、これを全編、日本で撮ったことにも驚かされました。日本では現在、さまざまな制約があり、このような大規模なアクション映画を撮ることは難しい状況にあります。どのようにして実現させたのでしょうか。
交通渋滞をしている場所や、人の往来が多い所では撮れず、カーチェイスや爆発や銃撃は許可が下りないということも、やってみて分かりました。ただ、大阪の行政当局が強力なサポートをしてくれたので、私たちも臨機応変に対応しました。例えば、劇中に水上バイクのチェイスシーンがありますが、もともとは路上でカーチェイスをする予定でした。でもそれは無理で、代わりに「川の上なら」と許可が下りたので、水上バイクに変更した結果、あの場面が出来上がりました。冒頭の、居酒屋で女殺し屋たちとやくざが戦う場面も、路上の設定を室内に変更しています。
-制約に合わせて工夫をしたということですね。
逆にそれが良かった面もあります。例えば、拳銃。調べていくうちに分かったのが、日本の警察は1丁の拳銃に5発しか弾を込めてはいけないということ。再装填はできないそうです。撃ち尽くしたらそれで終わり。なので、この映画でもそこを意識して、弾切れしたら他の拳銃を取ってきて撃つようにしました。私がよくやる2丁拳銃もそうです。この作品では、手錠でつながれた2人の男が、それぞれ1丁ずつを持つ形でやってみました。そういうふうに規制をうまく使うことで、より面白くなった部分もあります。
-アクションの振り付けを担当しているのは、日本人の園村健介さんですね。
園村さんは頭が良く、勤勉で努力家で、とてもクリエイティブな人。彼のチームはさまざまなアイデアを持っていて、時にはあり過ぎるぐらいで、これもあれもとアクションがてんこ盛り。私が「もういいよ」と抑えるほどでした(笑)。とはいえ、一生懸命考えているので、もう少し調整してほしいとお願いすれば、すぐに対応してくれるところも素晴らしかったです。
-人間対人間のアクションにこだわる理由は何でしょうか。
アクションを通じて、ストーリーや人間性や、さまざまな感情を表現することができます。また、アクションはミュージカルのように美しく撮ることもできます。アクションのためのアクションではなく、アクションシーンを通じて、人生や友情の意味など、いろいろなことを皆さんに考えてほしい。そう思いながら映画を作っています。
-サスペンスを撮る時に心がけていることは?
ストーリー展開が大切です。ストーリーを追ううちに真相が解明され、最後はエンディングでスカッとした気分になる。そういうふうに観客を引き込んでいくことが大事なので、演出も編集も重要な作業。今回は、ぬれぎぬを着せられた人物が、自分の無実を晴らすために困難を乗り越えていく話なので、私はこれを(アルフレッド・)ヒッチコック風の作品にしたいと考えていました。
(取材・文・写真/井上健一)