麻生久美子(左)と峯田和伸

 フランスの孤児院を舞台に、9歳の少年ズッキーニが、同じように心に傷を持つ孤児たちや、周囲の大人たちとの交流を通して、明日への希望を見いだしていく姿を描き、第89回アカデミー賞の「長編アニメーション部門」にもノミネートされたストップモーション・アニメーション映画『ぼくの名前はズッキーニ』(2月10日公開)。その日本語吹き替え版で、初のアフレコに挑んだミュージシャンで俳優の峯田和伸と女優の麻生久美子が、作品の魅力を紹介するとともに、15年来の関係となる互いの印象などを語ってくれた。

-本作について、クロード・バラス監督は「育児放棄をされ、虐待されて、傷を抱えながらも必死に生きる子どもたちへのオマージュでもある」と説明していますが、お二人は鑑賞後にどのような感想を持たれましたか。

峯田 子どもが持っている寂しさや残酷さがふんだんに詰まっていて、胸がキューと締め付けられました。

麻生 孤児院の話と知って覚悟して見ましたが、想像以上に重くて、ずしっときて、私に何かしてあげられることはないのか…と考えさせられました。でも、見終わった後は、子どもたちの明るい未来が想像できる、いい終わり方だったので少しホッとしました。

-麻生さんは、5歳と1歳のお子さんがいらっしゃいますが、一緒にご覧になりましたか。

麻生 大人向けの作品のように感じたので迷いましたが、監督が幼い子どもにも見てもらいたいと望んでいるそうで、私自身も子どもがどう受け止めるのか興味があったので、5歳の娘に見せました。そうしたら、ゲラゲラ笑っていました。

-性について子どもたちがあどけない表現で語っているシーンですね。あの場面はとてもかわいらしく、大人でもつい笑ってしまいますよね。ティム・バートンが製作した『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のの世界観にも似た“キモカワ”の人形や風景などのビジュアルはいかがでしょうか。

峯田 実写とは全く違う人間の顔や、空の色などの雰囲気がとてもいいなと思いました。

麻生 色使いがとてもカラフルできれいだったし、子どもたちの表情の変化があまり多くない分、想像をかき立てられる気がしました。

-峯田さんは声優に初チャレンジしましたが、ズッキーニ役のオファーを受けた時の率直なお気持ちは?

峯田 うまくできればいいなとは思ったけど、不安でした。ただ、オリジナル版の子どもたちの声は大げさではなく、普段しゃべっているような自然な感じだったので、今みたいに普通に話しているようにできればうまくいくのかなと思いました。

-実際に演じてみて、いかがでしたか。

峯田 普通に話してしまうと、ただの40歳のオッサンなので、自分の中にある子どもっぽい部分を出すようには気を付けました。でも、正解は分からないです…。自己採点は0点かな。自分で評価はつけられないので、見た人に委ねます。

麻生 0点じゃないですよ。峯田さんは(せりふを発するタイミングを表示した)タイムコードを見て、最初から声を映像にバチッと合わせていたんです。私はキャラクターの口の動きを見ていないと不安なので、初めてでそれができるなんて本当にすごいです。声も愛らしくてかわいかったです。

-麻生さんはズッキーニが初めて恋をする10歳の少女カミーユを演じましたが、いかがでしたか。

麻生 オリジナルの声がすごくハスキーだったので、もう少し子どもらしい声を意識して作りました。でも、笑ったり、感情が高ぶったりするところでは私の地の声が出てくるので難しかったです。

-お二人は、映画『アイデン&ティティ』(03)、ドラマ「奇跡の人」(16)に続く3度目の共演ですが、お互いにどのような印象を持たれていますか。

峯田 めっちゃ連絡するわけではないですし、プライベートで会うこともないですけど、唯一、連絡先を知っている女優さんです。15年前に初めて芝居をしたときに、麻生さんがそばで支えてくれたから、やめたいなんて全く思いませんでした。麻生さんの存在があるから今も役者を続けられているので、僕にとっては特別な人です。

麻生 そう言って頂けるなんて光栄です。私は、峯田さんが自然でありつつ味のある演技をされるので、ズルいなぁ、天才だなぁとうらやんでいます。いつも全力でぶつかっている姿もすてきです。

-そんなお二人の4度目のタッグに期待しつつ、最後に視聴者にメッセージをお願いします。

峯田 孤児院ではいろいろなことが起きて、子どもたちはつらい思いもするけれど、最後は、赤ちゃんを優しく抱きかかえているような温かい気持ちになれる作品です。

麻生 子どもからご年配の方まで、いろんな方に見ていただいて、最後にカミーユが見せるきれいな涙の意味を考えてもらいたいです。

(取材・文・写真/錦怜那)