新型コロナウイルスの影響は、いまだ続いているが、映画や映画館を取り巻く環境は、ウィズコロナに伴って、表向きは平静を取り戻しつつある。
そんな中、現代社会が抱えるさまざまな問題を捉えた“小さな映画”が目立った昨年に比べると、今年は、『トップガン マーヴェリック』『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』といった大作が、映画館に戻ってきた感があった。
来日した、『ブレット・トレイン』のブラッド・ピットも、上記映画のトム・クルーズも、コリン・トレボロウやジェームズ・キャメロンといった監督たちも、異口同音に「映画館に観客が戻って来ることを願いながら、映画館で見られるべきものを意識して作った」と語っていたのが印象的だった。
アカデミー賞では、ろうあの家族と、彼らの生活を“通訳”として支える健常者の娘の、音楽を媒介とした自立を描き、フランスで大ヒットした『エール!』(14)を、女性監督のシアン・ヘダーが、米・仏・カナダの合作としてリメークした『Coda コーダ あいのうた』が、作品賞と助演男優賞(トロイ・コッツァー)を受賞した。
また、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が国際映画賞を受賞したのも特筆すべき出来事だったが、『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』という音楽関連の映画がドキュメンタリー賞を受賞したのも興味深かった。
それは、同じく『ビー・ジーズ 栄光の軌跡』のようなドキュメンタリーや、『エルヴィス』や『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』といった劇映画にも見られる、音楽ものの流行にもつながる気がしたからだ。
とはいえ、今年のアカデミー賞のハイライトは、『ドリームプラン』で主演男優賞を受賞したウィル・スミスが起こした殴打事件だろう。『Coda コーダ あいのうた』の受賞はマイノリティの、スミスの事件は差別や人種の問題を反映していると感じた。
今回は、独断と偏見による「2022年の映画ベストテン」を発表し、今年を締めくくりたいと思う。
外国映画
1.『トップガン マーヴェリック』 “生きること”の強調が、この映画の真骨頂
2.『ウエスト・サイド・ストーリー』 名作ミュージカルに現代的な視点を盛り込んだ
3.『クライ・マッチョ』 イーストウッドの“幸福な最晩年”
4.『ベルファスト』 ケネス・ブラナーが愛した場所と人たちの物語
5.『カモン カモン』 伯父とおいのユニークな関係性
6.『エルヴィス』 プレスリーを演じたオースティン・バトラーが絶品
7.『ハウス・オブ・グッチ』 「他人の不幸は蜜の味」
8.『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』 圧倒的な映像体験
9.『アネット』 全編を歌で語ったロックミュージカル
10.『ビー・ジーズ 栄光の軌跡』 「兄弟の歌声は誰にも買えない楽器だ」
来年の前半は、『モリコーネ 映画が恋した音楽家』(1月13日公開)、『エンドロールのつづき』(1月20日公開)、『バビロン』(2月10日公開)、『エンパイア・オブ・ライト』(2月23日公開)、『フェイブルマンズ』(3月3日公開)といった、映画や映画館への愛をうたった映画が目白押しだ。
一方、日本映画は相変わらずアニメとテレビドラマの映画化が主流の中にあって、去年に続いて比較的“小さな映画”が健闘を見せたと思う。
日本映画
1.『さかなのこ』 「幸せな気分で映画を作るのはこんなにいいものなんだ」
2.『大河への道』 素晴らしい日本地図を制作した無名の人々の物語
3.『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』 見事な小品映画
4.『サバカン SABAKAN』 1986年がよみがえる! 和製『スタンド・バイ・ミー』
5.『ハケンアニメ!』 創作活動に共通する苦悩や喜び、そして熱気
6.『メタモルフォーゼの縁側』女子高生と老女のユニークな“青春物語”
7.『窓辺にて』 “感情の基準”に疑問を投げ掛ける
8.『ツユクサ』 ある女性に訪れた小さな奇跡を描く
9.『シン・ウルトラマン』 舞台を現代社会に置き換えて再構築
10.『ヘルドッグス』 過去の映画からの影響が強く感じられる
(田中雄二)