女大鼠役の松本まりか(左)と千代役の古川琴音 (C)NHK

 NHKで放送中の大河ドラマ「どうする家康」。4月30日に放送された第16回「信玄を怒らせるな」では、ついに主人公・徳川家康(松本潤)が武田信玄(阿部寛)との戦いを決意。その過程で、武田の人質だった家康の義弟・源三郎(長尾謙杜)の救出作戦が繰り広げられた。

 その中で注目を集めたのが、家康配下の忍び・女大鼠(ねずみ)(松本まりか)と信玄に味方する歩き巫女(みこ)・千代(古川琴音)との対決だ。短いシーンながら、女性同士のチャンバラは2人の俳優の一味違う魅力を印象付ける機会にもなり、SNSでも好評だった。

 そこで、物語が中盤に差し掛かった今、ここまで登場してきた女性キャラクターの活躍を振り返ってみたい。

 一般に、戦国時代の武将を主人公にした物語で、女性の活躍を描くのはなかなか難しい。名のある武家の女性は城の奥にこもっていたりして、あまり歴史の表舞台に出てこないからだ。

本作では、家康の妻の瀬名(有村架純)や母の於大の方(松嶋菜々子)たちがそれに当たる。2人とも館や城の中のシーンが多く、表に出てくることはほぼない。それを無理に活躍させようとすると史実を大きく逸脱し、視聴者に違和感を抱かせてしまう可能性がある。そのため、身内である家康とのやり取りが中心にならざるを得ない。

 とはいえ、1年間続く物語を男性だけで進めるわけにはいかない。では、女性を派手に活躍させるにはどうするか。一番簡単な方法が、架空の人物を登場させることだ。本作でそれに当たるのが、女大鼠だ。歴史に名が残っていない忍びであれば、自由に活躍させることができる。

 一方の千代に関しては、“望月千代女”と呼ばれる人物がモデルになっていると思われる。だがこちらも、演じる古川が出演発表時のコメントで「千代は伝承のみの人物で、ほとんどオリジナルキャラクターですので、自由に、そして力強く演じようと思います」と語っているように、史実的な根拠がはっきりしないので、女大鼠と同じように自由な活躍ができる。

 古川の演技も含め、一向一揆以来の暗躍ぶりが強く印象に残っている視聴者も多いはず。あのチャンバラシーンは、そんな2人だからこそ成立したといえる。

 とはいえ、名のある女性でも、絶対に活躍させられないわけではない。それは、ある程度きちんとした史実が残っている場合だ。本作でこれに当てはまるのが、田鶴(関水渚)だ。

 田鶴は、今川家の家臣の血筋で、瀬名とも幼なじみのいわゆる“お姫さま”だ。それ故、普通に考えれば派手な活躍は難しいところ。だが田鶴には、引間城主として家康との決戦に臨んだという史実がある。

 それを踏まえて、第11回では家康と対決。脚本や演出もさえ、はかなく散っていったりりしい姿が見る者の胸を打つ名シーンとなった。また第5回、瀬名たち関口家の今川脱出計画の発覚に一役買った場面も、そんな逸話から創造したと考えれば納得がいく。

 このように、本作では女性たちのキャラクターを見極めた上で、違和感の生じない範囲で活躍させている。それが作品を豊かにすることにつながっているように思える。女大鼠と千代の対決は、その巧みさが生きた場面だった。2人とも自由度の高いキャラクターだけに、今後もさらなる活躍で物語を盛り上げてくれるに違いない。

 ところで、活躍させるのは難しいと言った瀬名だが、彼女にも今後、歴史に残る大事件が待ち受けている。それを本作ではどう描くのか。期待して待ちたい。

(井上健一)