悪役で強烈な印象を残したNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22)、銭湯店主を演じた『湯道』(23)など、作品ごとに多彩な表情を見せる生田斗真。そして、『PLAN 75』(22)、『さかなのこ』(22)など、話題作への出演が続く磯村勇斗。2人の初共演作『渇水』が6月2日から公開となる。河林満の芥川賞候補作を原作に、料金滞納家庭の水道を停止して回る水道局職員の葛藤を通して、社会の矛盾にスポットを当てたヒューマンドラマだ。公開を前に、2人がその舞台裏を語ってくれた。
-本作は『孤狼の血』(17)、「仮面ライダーBLACK SUN」(22)などを手掛けた映画監督の白石和彌さんが企画プロデュースした、お二人の初共演作ということで注目の作品です。互いの印象はいかがでしたか。
生田 磯村さんの誠実さというか、“芯の太さ”みたいなものが、お芝居にも表れていた気がします。一緒にいて気持ちよく、毎日、磯村勇斗に会うのが楽しみな現場でした。待ち時間には、お薦めのサウナの情報も聞いたりして。ただ、近所のお薦めを教えてほしかったのに、「北海道の…」って言われてびっくりしましたけど(笑)。
磯村 行けませんよね(笑)。生田さんとは今回、「初めまして」からだったんですけど、兄のように優しくフランクに接してくださいました。おかげで、実際の距離感を紡いでいく中で、役の上での先輩・後輩の空気感も自然に出来上がっていった気がします。しかも、すごく懐の深い方で。今回、雨で撮影が左右されることが多く、待ち時間が結構あったんです。
生田 『渇水』なのに、ずっと雨が降っていて(笑)。
磯村 普通だったら「そんなに待てないよ」って怒ってもおかしくないと思うんです。でも、生田さんはいつも通りの笑顔で、「やむまで待とうか」って。そういうことを言えるのが、すごくすてきだなと思って。おかげで、気持ちよくご一緒させていただきました。
-生田さん演じる水道局職員・岩切俊作と、磯村さんが演じた同僚の木田拓次のリアルな存在感が抜群でした。それぞれ演じる上でどんなことを心掛けましたか。日々、水道を停めて回る岩切は生活がすさみ、心が渇ききった人物で、初登場シーンではその内面を象徴する生田さんの生気のないまなざしが強烈な印象を残しますが。
生田 世の中にはいろんなルールや規制やモラルがあり、それを当たり前のように生活の一部として受け入れていますよね。それがふと「あれ? ルーティンみたいに生きているけど、なぜこうなんだっけ?」と疑問に感じることがあるんです。でも、その歯車を止めることができないまま時間は過ぎていって1日を終え、また新しい1日が来る…。その繰り返しに怖くなる瞬間もあって。そんなときに感じるちょっとした胸の痛みや“ざわめき”みたいなものを、この映画では少し織り交ぜていったような感覚です。
-俳優の仕事はサラリーマンなどと違い、そういうルーティン感とは無縁なイメージがありますが。
生田 朝起きて、シャワーを浴びて現場に行って、仕事して、お昼を食べていると、「あれ? なぜ僕はここでこれを食べているんだ。この揚げ物を食べたいんだっけ?」みたいな感覚になる瞬間もあるんです(笑)。そういう記憶を引っ張り出してきて、演じていた感じです。
-磯村さんが演じた木田は、岩切とは少し違った体温の持ち主ですね。
磯村 岩切さんより木田の方が保守的だと思ったので、2人の差をしっかり出すことを心掛け、生田さんとのやりとりの中で温度感を調整しながら演じていました。
-木田には、母親に見捨てられた幼い姉妹に対して優しさを見せる一面もあります。
磯村 木田は子ども好きでもあるので、本当は子どもたちに愛を持って接したいんだけど、仕事の立場上、壁を作らなきゃいけない。そういう葛藤やモヤモヤも抱えた人だったので、その間で揺れ動いている部分もしっかり作っていこうと思っていました。
-本作は高橋正弥監督が長年温めてきた企画で、念願の映画化だそうですが、監督の印象はいかがでしたか。
生田 初めてお会いしたとき、企画の立ち上げから紆余(うよ)曲折を経てここまでたどり着いたこと、役に対する思いなどを熱弁されていたのがすごく印象的でした。いろんなスタッフの方から、「人間的にも素晴らしい方」と伺っていましたし、実際に会ってみると「一緒に旅に出てみたい」と思わせてくれる方でした。
磯村 僕も、いろんな方から高橋監督の評判は聞いていて、皆さん、高橋監督が映画を撮ることをすごく喜んでいたんです。現場に入ってみたら、みんなで意見を出しながら作っていくことを大切にしていたので、信頼できる監督だなと。本当に穏やかで、映画を愛している方だと感じました。
-高橋監督からは芝居についてどんな指示が?
磯村 俳優陣には、まず好きなようにやらせてくれました。それから気になるところをディスカッションして一個一個、丁寧に作っていって。
生田 特に、姉妹を演じた2人とのやり取りではライブ感を大事にするというか、その瞬間を切り取るような感覚でしたね。彼女たちには台本を渡さず、現場で「これとこれだけ言って」といったやり方だったので、僕らもちょっとドキドキしながら…。
-お二人と関わる幼い姉妹を演じる子役2人がとても生き生きしていました。
生田 彼女たちが本当に素晴らしくて、ある意味、僕らが引っ張ってもらったような感じもあるよね。
磯村 そうですね。中でも、僕は一緒にアイスを食べるシーンがすごく好きで。あそこは子どもたちとの距離が少し縮まる瞬間で、温かな空気が流れていたんです。それを一連で撮る中で、僕はアイスの“当たり”を出さなきゃいけなかったので、タイミングを合わせる難しさも痛感しながら…。おかげで、アイスを食べ過ぎて頭が痛くなりました(笑)。
-お二人の熱演もあり、見応えのある映画でした。原作は30年前に発表された小説ですが、今の時代に映画化される意義をどう感じていますか。
生田 30年前の作品だとはあまり感じませんでした。いつの時代も、潤いとは真逆の立場に置かれている人たちが必ずいるんですよね。「太陽も空気もただなのに」というせりふがあるんですけど、なぜそれによって締めつけられる人たちが出てくるのか。そういうことを含め、普遍性のあるテーマじゃないかなと。劇中で僕が食べる、握り潰した“ヘビイチゴ”のように、苦味とちょっとした酸っぱさと、いろんな後味のする映画になったと思います。
磯村 特にコロナ禍を経た今の時代、そういう格差がより明確になってきた気がします。そういう意味では、この映画を作った製作陣の目が、ちゃんと時代を捉えていたんだろうなと。今見るのにふさわしい映画だと思います。
(取材・文/井上健一)