NHKで放送中の大河ドラマ「どうする家康」。5月28日放送の第20回「岡崎クーデター」では、主人公・徳川家康(松本潤)の嫡男・松平信康(細田佳央太)が守る岡崎城で勃発した謀反の顛末(てんまつ)が描かれた。
敵対する武田の標的となった岡崎城で、大岡弥四郎(毎熊克哉)ら、武田に内通した一味が謀反を計画する。だが、信康と瀬名(有村架純)の命を狙って夜襲を掛けたところ、本多忠勝(山田裕貴)、榊原康政(杉野遥亮)らの待ち伏せに遭い、失敗。計画が露見したのは、一味に加わっていた山田八蔵(米本学仁)が仲間を裏切り、事前に計画を信康に打ち明けたためだった。
共に謀反に加わりながらも、翻意して主君を救った八蔵と、計画に失敗した弥四郎。2人の命運を分けたものは何だったのか。八蔵が心を変えたのは、戦で受けた傷の手当てをしてくれた瀬名の優しさに触れたことがきっかけだ。その結果、仲間との絆と主君への忠義の間で揺れ動き、最終的に計画を止める選択をした。
一方、謀反の首謀者である弥四郎は、捕らわれた後、「私はこちらの船とあちらの船をよーく見比べて、あちらに乗ったほうがよいと判断したまで。沈む船に居続けるは愚かでござる」と、主君・家康が武田勝頼(眞栄田郷敦)に劣ると本音をぶちまける。さらに平岩親吉(岡部大)から「おまえには忠義の心というものがないのか!」と詰問され、こう答える。
「くだらん!御恩だの、忠義だのは、われらを死にに行かせるためのまやかしの言葉じゃ!」
瀬名と言葉を交わし、その優しさに触れた八蔵。これに対して、弥四郎が家康と言葉を交わす場面は劇中にはない。われわれの日常でも、顔を見て直接話をすれば解ける誤解が、そうしなかったばかりに関係がこじれていくことはよくある話だ。史実は別にして、ドラマとして考えた場合、仮にどこかで家康と弥四郎が言葉を交わす機会があれば、謀反はあっただろうか。そんなことを考えさせられた。
それを裏付けたのが、この回の家康と井伊虎松(板垣李光人)の対話だ。かつて家康の命を狙った虎松だったが、この回では家康に仕官して、瀬名たちを救う活躍を見せた。それを知った家康は、「民は、(武田にやられっぱなしの)わしをばかにして笑っておるらしい」と嘆き、それでも仕官した理由を虎松に尋ねる。
すると虎松は、「民を恐れさせる殿様より、民を笑顔にさせる殿様のほうがずっといい。きっとみんな幸せに違いない。殿にこの国を守っていただきたい。心の底では皆、そう願っていると存じます」と答える。
虎松も、家康を襲撃した際、捕らわれながらも、無罪放免にされたことがある。このとき、家康の人柄に触れたことが仕官に影響したことは、その後の様子を見れば明らかだ。そしてそれは、巡り巡って謀反を防ぐことにもつながった。
主君と家臣の信頼関係を裏切る謀反を描きつつ、それを阻止したのは、信頼をつなぎとめる人同士の対話だったという作劇の妙。コミュニケーションが容易になった今の時代だからこそ、その重みがより増している「人と人が顔を合わせて言葉を交わす対話の尊さ」に改めて気付かされた回だった。
(井上健一)