――工場からの排気と油で黒く覆われ鬱蒼とした街・螢光町、その片隅の廃墟に作られた秘密基地「光クラブ」――それが本作の舞台となる場所だ。

ゼラ役の木村了(昨年の舞台より) ©古屋兎丸/ライチ☆光クラブプロジェクト2011
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登場するのは9人の少年たち。「廃墟の帝王」ゼラを筆頭に、彼を崇拝するメンバーたちで構成されている。彼らの秘密を見た者には、ゼラの指示により残酷な罰が与えられる。なぜなら、彼らはある「崇高なる目的」のために「甘美なる機械(マシン)」を創造しており、それは誰にも見られてはならないものだからだ。

この舞台の上では、現実世界での価値観は通用しない。ゼラの命令とあらば、光クラブのメンバーはどんな残虐な行為でもやってのける。それがたとえ殺人であってもだ。

ごく普通の中学生が、異常としか言いようのない価値観によって動く様は、どこか現実を超越しているようにも思える。しかし、ずっと見ているうちに観客自身も次第に「光クラブ」に取り込まれ、少しずつ現実世界での価値観が壊れていく。何が正義で何が悪なのか、境界線が形を失っていく感覚は本舞台でしか味わえない特別な時間だ。
 

そうした一種異様な空間を創り上げるのは、並大抵のことではない。場を支配し、価値観を創造する立場にいるゼラを木村はどう理解し、演じたのか。

「理解できているかって言われると、正直できていなかったです。だから台本は素直に読みました。ひねって考えたりするのではなく、含みをもたせたセリフの言い方もしない。意味をもたせようとするのは違うなと思ったんです」(木村)

わからないからこそ、素直に真正面からぶつかっていく。木村はそうやってゼラという人間を掘り下げていった。

「ゼラって自分の思う世界を構築しようとしていて、それに対する情熱を誰よりも持っている人間なんですよね。純粋にできると信じているし、邪魔な者は徹底的に排除していく。その意味では素直な男の子と言えるのかもしれないですね」(木村)
 

一方で、ゼラと対立するのが光クラブのメンバー、タミヤだ。

最初こそゼラに心酔しているタミヤだが、途中からゼラのやっていることのおかしさに気づき、立ち向かっていく。いわば本作で唯一、外の世界の価値観を持った人間である。

それだけに、タミヤを演じた中尾は「僕がタミヤという人間を把握していないと、本当にお客さんを置いていっちゃうことになりますから、それはプレッシャーでしたね」と語る。

「お芝居って"気持ちの流れ"が成立していないとやれないんですよ。漫画だと想像力で補える部分が大きいけど、芝居はそうじゃない。たとえばタミヤはゼラに心酔していたところからどんどん心境が変化していくわけですけど、その気持ちの変化がきちんと流れているかどうかが重要なんです。そのためにはタミヤを理解して作り上げていかないといけなくて、それが大変でしたね」(中尾)