猛暑日が続く真夏の日々。ファン・クーラーは欠かせない。最近のトレンドは水冷だ。とは言っても、部屋を冷やすものではなく、パソコンを冷やすパーツ。CPUやGPUの高速化に伴って、発熱量も増大。しっかり冷やすことが何より求められている。全国2200店舗の家電量販店やネットショップの実売データを集めるBCNランキングの集計では、自作パソコン向けファン・クーラーの販売台数構成比ではケースファンが49.7%を占める一方、販売金額構成比では水冷クーラーが56.3%を占めることが分かった。
水冷システムは空冷に比べ構造が複雑でメンテナンスが面倒。しかし、使用するファンの回転数が低く抑えられるため、静かに冷却できるメリットもある。水冷の仕組みはこうだ。まず中で液体が循環する、通称「水枕」と呼ばれる冷却ユニットをCPUなどに取り付ける。ここで熱を奪い別途設置したラジエーターに水を送る。このラジエーターにファンで風を当てて温まった水を冷やす。これを循環させることで、パーツの温度上昇を防ぐ。水枕やラジエーター、ポンプ、パイプなどがあらかじめ組み上げてある「簡易水冷」と、ポンプやタンクなどが独立し自ら組み上げる「本格水冷」の2タイプに分かれる。簡易水冷はCPUのみを冷却するのに対し、「本格水冷」はCPUのほか、ビデオカードやSSDなどの冷却にも対応できる。現在販売されているのは、そのほとんどが「簡易水冷」タイプだ。
水冷クーラー市場が盛り上がるのは毎年7月と12月。2020年の7月の販売台数を1とする指数では、過去3年で最も盛り上がったのが昨年の7月。1.79を記録した。今年の7月も1.59となかなかの売り上げを記録。暑い夏に熱暴走が起きやすくなるということと、自作PCが盛り上がる夏休みシーズンということも加わって市場がにぎわう。デジタル製品全体が売れる12月にもピークは訪れる。しかし、過去3年に限ると、2020年12月に記録した1.66より昨年7月の販売台数が上回ったという点は面白い。
この7月、メーカー別販売台数シェはNZXTが23.0%を記録しトップ。2位がDeepcool Industriesで20.6%だった。年間を通じてはDeepcool Industriesが優勢だが、夏場にはNZXTがシェアを伸ばす。昨年の7月も同社が29.0%でトップだった。NZXTの売れ筋は「Kraken 240 RGB Matte White」で、平均単価(税抜き、以下同)は2万1600円だ。水冷クーラー全体の平均単価1万8800円よりも高め。NZXT全体の平均単価も2万5900円とやや高めで高級路線の製品群だ。一方、昨年12月からこの6月まで首位だったが、7月に2位に後退したDeepcool Industriesだが、平均単価は1万4000円。手ごろな価格で人気を集めている。売れ筋は「LS720」。水冷クーラーの中で最も売れている製品だ。平均単価は1万6600円。下のクラスの「LE520」は平均単価9700円と安く製品別ランキングでも2位だ。以下、MSI(13.3%)、Corsair(11.9%)、COOLER MASTER(7.9%)と続く。
パソコンで、CPUは最も発熱するパーツだ。これまで様々な冷却方法が取られてきた。黎明期では自然空冷が一般的だったが、冷却効率を高めるため、徐々にヒートシンクを取り付けるようになった。さらに効率を高めるためファンを追加。ヒートシンクに風を当てて冷やす強制空冷へと変化した。現在ではこのスタイルが一般的だ。一方、車では普通に使われている水冷システムをパソコンに導入し始めたのは2000年代初頭だったように記憶している。当時のパソコン専門誌では、半ばジョークとして、水冷システムを組み上げる企画を連載していた。しかし、時は経て自作パソコン用の水冷クーラーが、ファン・クーラー市場の販売金額で過半を占めるまでになったことは、ある種の驚きだ。どんどん高度化するCPUだが、発熱のために性能の限界が近づいているという。発熱を抑える設計にするのも重要だが、やはりどうやって冷やすかも、ますます重要になるだろう。もしかすると近い将来、特殊な冷却システムがあらかじめ組み込まれたCPUが発売されることになるのかもしれない。(BCN・道越一郎)