「どうする家康」(C)NHK

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「どうする家康」。9月17日放送の第35回「欲望の怪物」では、関白・豊臣秀吉(ムロツヨシ)に臣従することを決意した主人公・徳川家康(松本潤)が上洛。秀吉との対面を経て、豊臣家家臣・石田三成(中村七之助)と出会うことになった。

 関白の位を手に入れ、武士の頂点に立った秀吉に対して、「戦なき世を作るため」と自分を納得させ、臣従を受け入れた家康。大坂城での対面の際には、秀吉と示し合わせた上で、勢ぞろいした大名たちの前で、「二度と殿下に陣羽織は着させませぬ」とあざとい芝居を打ってみせた。だがそれは、裏を返せばそれほど戦のない世がくることを歓迎していたことの証でもある。あとは、秀吉と話し合った通り、北条や島津など、いまだ従わないわずかな大名たちを平定すれば、戦のない世が訪れるはず…と家康は思っているに違いない。

 だが、当の秀吉はまだまだ戦を終わらせる気はなく、海外進出への野望を胸に秘めている。それに気付かず、安心しきった家康が出会ったのが、“豊臣家臣一の変わり者”石田三成だ。2人の出会いは、星を眺めるというロマンティックで穏やかなシチュエーション。その様子を見ていた家臣たちに「わが家中には、ああいう話ができる家臣はおらんからな」、「殿は、戦の話などではなく、ああいう話がしたかったお人なんじゃな」とまで言わしめた意気投合ぶりも含め、平和の訪れを予感させた。

 こうして、真田家との確執などの火種を抱えながらも、一応は平穏な決着を見たこの回。だが今後、秀吉の尽きぬ欲望があらわになっていくはずだ。それを知った時、家康はどう立ち回るのか。同時に、心を通い合わせた三成との関係も変化していくに違いない。それがいかに、天下分け目の関ヶ原につながっていくのか。家康、秀吉、三成のトライアングルがどう形を変えていくかが、今後の物語のポイントになる。

 特に、関ヶ原の合戦で敵対することから、“犬猿の仲”のイメージが強い家康と三成が、出会った当初は心が通じ合っていたという描き方は面白い。それを、高校の同級生で親友同士でもある松本潤と中村七之助が演じ、本人たちの関係も役を通して透けて見えてくるあたり、配役の妙といえる。その点を踏まえてドラマを見ると、より面白さが増すはずだ。

 そしてもう一つ気になるのが、茶々を誰が演じるのかということだ。第30回で子役の白鳥玉季が演じた際も、そのりりしい姿が注目を集めたが、現在は番組公式サイトの登場人物紹介を見ると、茶々の姿はシルエットになっている。大坂の陣で豊臣家を率いて家康と敵対し、ラスボスともいえる茶々のキャスティングは物語の行方を大きく左右する。その発表も楽しみに待ちたい。

 今回からオープニングのタイトルバック映像がリニューアルされ、番組のメインビジュアルも一新。物語が新たな局面を迎えたことを印象付けているが、演出統括の加藤拓氏は、番組公式サイトで「徳川家康にとってはこの敗北(秀吉への臣従)こそが新たな『出発点』」とコメントしている。これから朝鮮出兵、関ケ原の合戦、大坂の陣など、数多くの困難が待ち受けているが、それを乗り越え、天下泰平の江戸時代を開くまで、新たな出発点に立った家康がどんな道を歩んでいくのか。秀吉、三成との関係を軸に、その行方を注視していきたい。

(井上健一)