エレコムのロジスティクス戦略を統括する町一浩取締役執行役員

ネットからの注文が入るたびに製品をピックアップするために物流センター内を人が駆けずり回る――。疲弊するだけの物流センターに優秀な人材は集まらず、現場は人手不足に陥り、物の流れが滞ってしまい、企業は経営の危機に直面する。日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の「ロジスティクス大賞 業務改革奨励賞」を受賞したエレコムの兵庫物流センターは、従来とは真逆の発想で「人は動かず、荷物の方が人に集まってくる」という新しい物流の働き方を示した。

湾岸ではなく地盤の強い山間に

そもそもエレコムの兵庫物流センターは立地からしてユニークだ。2022年、海外から送られてくる製品を最短距離で入庫できる大阪府西淀川区の港湾エリアにあった物流センターを、大阪北部の兵庫県の山間部、川辺郡猪名川町に移転した。

エレコムのロジスティクス戦略を統括する町一浩取締役執行役員は「南海トラフの大型地震も想定し、地盤の強い土地を探した。猪名川町の地盤は震度6以上になる確率が1.2%という低さから、災害時も事業継続が可能な物流ネットワークを構築できると判断して移転した」と語る。

エレコムの物流拠点は東日本に神奈川物流センター(相模原市)、埼玉センター(八潮市)、西日本に兵庫物流センター(猪名川町)の合計3拠点体制だ。神奈川と兵庫の物流センターは、量販店やディスカウントストア、EC、法人ルートなどに製品を届ける役割を担う。

「歩かない物流」の実現を目標に掲げる

PC周辺機器の開発・製造・販売を行うエレコムはマウスやスマホケース、無線LANルータ、USBケーブルなどを扱うため、物流業務は多品種小ロットの最たるものになる。品目数は1万5000SKUにも上り、全物量に占めるバラ出荷率は87%。小物製品同士の無数の組み合わせを効率よくさばかなければならない。特に新型コロナ禍になってからエンドユーザー向け直販のEC比率が高まり、小口貨物は激増した。

いわゆる「物流の2024年問題」で、ただでさえ人材が集まりにくい環境の中、さらに過酷な労働集約型の現場では人材確保が困難になる。そうした危機感から、これまでの物流現場にはない、まったく新しい発想を取り入れなければならなかった。

掲げたコンセプトは「GTP(Goods to Person)」。人が物を取りに行くのではなく、物が人の方に近づいてくる「歩かない物流」の実現である。

「以前の物流センターにおける作業時間を分析した結果、25%が歩行だった。ここにメスを入れなければ生産性は上がらない。それならば、歩かない物流センターをつくろうという発想に至った」と、町氏は振り返る。

以前は台車を使ってセンター内を歩き回ったり、ピッキングエリアでは在庫を補充するため手作りの台車を使ったりするなど、とにかく歩き回っている時間が多かったという。それを180度逆の発想で歩かずに済む物流を実現したのだ。

結果から先に言えば、GTPに基づく物流を取り入れたことで約62%の省人化率に成功した。単純に、これまで100人かかっていた作業を、38人で行えるように改善したということだ。

ポイントは三つあった。一つはピッキングエリアを完全自動化し、オーダーに応じて自動的に物が出てくる「シャトル型自動ラック」の導入である。もう一つが「EC向け小口専用ライン」の構築。人がピッキングした製品を、歩くことなく目の前を流れるコンベアに載せるだけで、梱包も送り状の貼付、出荷までを自動化した。三つ目が、補充パレットの搬送をAGV(無人搬送車)を使って自動化したことである。

搬送は無人化で完全自動化を実現

では実際に、新しい物流の現場を製品の入庫から出荷まで、順を追ってのぞいてみよう。なお、物流の形態には顧客のオーダーごとに荷物を集める「摘み取り方式」と、複数顧客のオーダーを集めてから顧客別に仕分けする「種まき方式」の二つがある。兵庫物流センターは、後者の種まき方式を採用している。

まず入荷はトレーラーから下ろしたパレット単位の荷物を検品し、ストックエリアに保管する。物流センター全体で約2カ月弱の在庫を抱えているという。

指定のロケーションに入庫する際に使うフォークリフトも、方向を変えず、その場で上下と左右に特殊な動きができる。作業通路を狭くできる分、スペースの有効活用と作業時間の短縮につながる。作業員は出力された紙を見ながら入庫作業をする。

次に出荷までの動きを見よう。保管エリアから出庫した荷物はAGVが待機する位置まで運ぶ。AGVは次の工程までの搬送と戻りを繰り返す。搬送業務は無人による完全自動化を実現している。

開梱作業用ロボットも導入した。以前は4人がかりでカッターをもって段ボールを開梱していたが、今ではロボット1台で済む。食品工場で使われている開梱ロボットを、物流センターでの作業に応用したのはエレコムが初めてだという。開梱した段ボールは次の工程に流れていく。

省人化の要の「シャトル型自動ラック」

段ボールの中の製品は、「シャトル型自動ラック(標準オリコン対応SAS-Rシステム)」と呼ばれる自動倉庫に入庫するためのオリコン(折りたたみコンテナ)に詰め替える。以前は段ボールを台車に積み、詰め替えスペースまで人が運んでいたが、歩行せず、その場で詰め替えられるようにした。ここでピッキングエリアに保管するための製品を補充する。

製品を補充したオリコンは「シャトル型自動ラック」に格納される。冒頭で説明した1万5000SKUは、すべてこのシャトル型自動ラックに保管されているというわけだ。

シャトル型自動ラックの仕様は、10段×13スパン×11基。60Lオリコンが1万2664オリコン格納できる。保管スペースは倍あり、下段の余力も含めると最大2万オリコンの保管ができるという。複数顧客のオーダーが入ると、トップスピードで分速300mの超高速でオリコンを出し入れする。11基のリザーバーの昇降速度は分速120mだ。

シャトル型自動ラックは完全にロボットによる作業なので、空調も照明(作業用照度300ルクス)も必要なく、省エネルギーに向いている。

薄暗い中、昇降機が互いに衝突することなく自動で動き回っている様子は、どこかSF的な感じがする。「未来の物流センターは棚の中に人が入ることなく、このような完全自動化されたシステムになるだろう」と町氏は語る。省人化に最も大きく貢献しているのが、このシャトル型自動ラックである。

誰も歩き回っていない「ピッキング」エリア

次にピッキング工程に移ろう。シャトル型自動ラックからオーダーに応じて自動に出てきたオリコンは、作業員の手元に順番に並ぶ。スタッフはディスプレイに表示された数字に従い、オリコンから必要な製品をピッキングし、ベルトコンベアに載せるだけだ。確かに誰も歩き回っていない。

この際、種まき方式により複数顧客の製品をまとめてピッキングしている。ピッキングした製品を入れる空のケースは、スタッフの足元に流れてくるので、空のケースを取りにいくために持ち場を離れる必要もない。ピッキングエリアは、GTPのコンセプトに基づいた「歩かない物流」の心臓部といえるだろう。

後はベルトコンベアのマークされた箇所に製品を置けば、機械により顧客別に名寄せされていく。ベルトコンベアに載った製品は、クロスベルトソータまで搬送されて顧客別に仕分けられる。仕分けした製品を段ボールに詰めて梱包し、トレーラーやトラックのある出荷エリアまで送られる。当日15時までに受注した製品は当日発送で、翌日着で届くという。

「最新の物流現場は、昔のような暗くて、力仕事を必要とする3Kのイメージはない」と町氏がアピールするように、休憩や食事をとるスペースでは山の木々の緑が目の前に広がり、リラックスできる。レストランも明るく、しかも前日に予約しておけば食事代は無料で支給されるという。

実際、兵庫物流センターのスタッフは約40人いるが、ほぼすべてが地元の人の採用だという。人員募集の倍率は高く、働く人にとって満足度の高い職場環境を提供している。

企業が事業を継続するためのサステナビリティを考える際、物流現場の改善は切っても切り離せない重要な課題だ。エレコムが示す新しい物流の働き方は、解決策の一つとして今後も大いに参考になるだろう。(BCN・細田 立圭志)

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