舞台「シラの恋文」草なぎ剛(撮影:宮川舞子)

 連続テレビ小説「ブギウギ」では主人公・スズ子の音楽の師、羽鳥善一役を好演し、大きな話題を呼んだ草なぎ剛。2023年12月9日からは、舞台「シラの恋文」に主演し、その高い演技力をいかんなく発揮している。京都、福岡公演を終えた今の心境や、1月7日からスタートする東京公演に向けた意気込みなど、公演中の今だからこそ聞ける素直な思いを聞いた。

ー(取材時は)福岡公演中ですが、これまでの公演を終えて感じている手応えやお客さんの反応を教えてください。

 クリスマスの時期だったので「メリークリスマス!」という感じで会場がにぎわっています(笑)。やはり、舞台はお客さまが入って完成するものなんだということを毎日、感じています。日に日に良くなっているなと、思わずつぶやいてしまうほど、幸せな空気が漂う舞台になっています。

ー近年、草なぎさんは舞台では音楽劇への出演が多かった印象があり、今作は久々の会話劇だと思います。改めて感じている会話劇の面白さや北村想さんの書いたこの戯曲の面白さを教えてください。

 全体的にフワフワとしてつかみどころがない作品です。それは、(草なぎが演じる鐘谷)志羅という役も同じ印象です。このせりふはどういう意味なのか。意味がつながっているのか、いないのか。その時々でせりふから受ける感情も違うんですよ。それくらい不思議な魅力があります。輪廻(りんね)転生ではないですが、丸い縁を描くような舞台という感覚があって、毎回、感じ方が違うことを僕も志羅という役を通して楽しんでいます。

ー最初に戯曲を読んだときに感じたことと、上演を重ねた今では作品に対する印象が変わったところはありますか。

 あまり頭で考える作品ではなくて、感じるものなのかなと思います。「演劇的だね」と言いたくなるような舞台なんですよ(笑)。この舞台を見た後に「演劇的だね」といえば賢く見える、そんな印象です。僕自身、稽古のときから「この芝居は演劇的だよね」って真面目な顔をして言っていましたが、心の中では何が演劇的なのか分かってないし、それも含めて楽しんでいる感じがあります。意味がよく分からない舞台だからこそ、見ているうちにどこかでふに落ちてくる。輪廻転生という大きな宇宙的な話を会話としてせりふに具現化して落とし込んでいるので、(そうした作品をやっていると)頭が良くなっていっている気がします(笑)。

ー本作は、サナトリウムを舞台に死生観が描かれていますが、そうした死生観に触れて今、草なぎさんはどんなことを感じていますか。

 皆さん今、コロナを乗り切ったという同じ経験を持っていますが、そうしたことも舞台上で思い出して、リアルな気持ちが湧いてくるんですよ。もしかしたら、また恐ろしいことが起こるということもあるのかなと、ハッとするような脚本だと思います。もちろん、この作品自体はフィクションですが、その中にも胸がザワザワしてしまうシチュエーションがあって、例えば、サナトリウムで結核になられた方が肩を寄せ合いながら畑仕事をするという姿も現実にあるのかなと思ってしまうと、より役に入り込めます。

 今、僕たちが普通にクリスマスや年末年始を過ごせるというのは、改めて考えると素晴らしいことですよね。ただ、裏を返せば死は誰にでも平等にあるもので、いつ訪れるか分からないものでもある。そう考えると、日常の中の幸せやちょっとしたことがかけがえのない時間なんだなということを、今一度、僕に教えてくれているように思います。

ー草なぎさんが演じる鐘谷志羅という人物についてはどう考えていますか。

 演出の寺十吾さんから「志羅は人の話を引き出すような何かの力がないといけない」と言われていたので、どこかはかなげで、浮世離れしているところがあるのではないかと思い、そう演じたいと思っています。自分の死に対しても客観視していて、不思議な雰囲気がある。実際に、なぜかこの人には話しやすい人っていると思うんですよ。そういうイメージで演じています。

ー稽古場はどんな雰囲気でしたか。

 皆さんチームワークが良くて、真面目で優しくて、なんでこんなに嫌な人がいないんだろうと思うカンパニーでした(笑)。僕は恵まれていて、周りに嫌な人がいないんですよ。一人くらい嫌な人がいた方が面白くなるのにと思うくらい、いい人ばかり。(今回のカンパニーのメンバーは)だしやリンゴや食べ物をいろいろくださるんです(笑)。だから、稽古していると食料に困らないんです(笑)。ずっとこの舞台をやっていたいな。

ー2024年はこの作品からのスタートになると思いますが、どんな1年にしたいですか。

 2023年はたくさんの役を演じることができて、幸せ満開の春がきたという感じでした。舞台も映画もドラマも、演じるということに関しては全て網羅できてしまったので、すごく幸せでした。良いものをたくさんみんなから受けて、拾わせていただいたので、2024年も焦らず、コツコツと進んでいけたらと思います。2023年に受けた良いものを自分の中で開花させる1年になればと思うので、頑張ります。

ーどんな良いものを受けたのですか。

 リンゴやだしをもらったことですね(笑)。冗談ではなく、本当にうれしかったんですよ、そうしたおすそ分けは。それから、お客さまからもたくさんのものをもらいました。今回、お客さまから拍手をいただいたときに、すごくいいものを見たなと思ってくれているのを感じています。自分で言うのもなんですが(笑)、そういう空気が伝わってくるんです。お客さまから笑顔をいただいて、明日も楽しんで頑張ろうと思う原動力になっています。

ーでは、本作で志羅がサナトリウムで運命的な出会いを果たすことにちなんで、草なぎさんにとっての運命的な出会いを教えてください。

 例えば、デパートのエレベーターで乗り合わせた人に対して、こうして同じエレベーターに乗るのは一生で一回だけなんだろうなと、僕はそういうところにも運命を感じてしまうんですよね。どのくらいの確率でエレベーターを一緒にしているんだろうとか、宝くじに当たるよりも高い確率なんじゃないかなと(考えてしまう)。なので、運命的な出会いは、毎日起きているのかなと思います。僕の好きな古着の買い物をするときも、僕とサイズがマッチしたことに運命的な出会いを感じますね。

ーそうした出会いから、長く続いていることはありますか。

 長いというと、(香取)慎吾ちゃんとか(稲垣)吾郎ちゃんとは長いですし、二人にも運命的なものを感じますし、長く付き合っている友達にも感じます。愛犬のフレンチブルドックのクルミちゃんや、クルミちゃんがお腹を痛めて産んでくれたレオンくんにも運命的な出会いを感じますね。

ー最後に、改めて東京公演に向けてのメッセージをお願いします。

 京都公演、福岡公演と進んできて、どんどん舞台が良くなってきているんですよ。もちろん、毎回、全力でやっていますが、毎回、実りのある回を重ねているので、1回1回進化しているんです。なので、東京公演はもっと良くなっていくと思います。京都、福岡を経て、チームワークもさらに高まって、最高の舞台になると思うので、ぜひ東京の皆さまには期待していただけたらと思います。

(取材・文:嶋田真己)

 舞台「シラの恋文」は、1月7日~28日に都内・日本青年館ホールで上演。