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『悪は存在しない』(4月26日公開)

 自然豊かな高原に位置する長野県水挽町は、東京からもそう遠くないため移住者が増加し、緩やかに発展している。代々その地に暮らす巧(大美賀均)は、娘の花(西川玲)と共に自然のサイクルに合わせたつつましい生活を送っていた。

 ある日、巧の家の近くでグランピング場の設営計画が持ち上がる。それは、コロナ禍のあおりで経営難に陥った芸能事務所が、政府からの補助金を得て計画したものだった。しかし、彼らが町の水源に汚水を流そうとしていることが分かったことから町内に動揺が広がり、巧たちの静かな生活にも波紋が生じる。

 濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』(21)で音楽を担当した石橋英子と濱口監督による共同企画。石橋がライブパフォーマンスのための映像を濱口監督に依頼したことから、プロジェクトがスタート。その映像を制作する過程で、1本の長編映画としての本作が誕生し、ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した。

 冒頭の森や水を描写した長回し、住民と開発業者による環境問題のディスカッション、巧に感化されていく芸能事務所の高橋(小坂竜士)、行方不明になった花を捜すサスペンス、そして謎を含むラストシーンと、次々と変転し、全く予測がつかない展開を見せる中、自然と人間というテーマを表現する上では、長野県の富士見町や原村でのロケが大いに効果を発揮している。

 そんな本作は、劇映画とドキュメンタリーの境界線上にあり、予定調和を崩し、あえてストーリー性は度外視して、解釈を観客に委ねる形は刺激的だったが、同時に実験作、習作という印象も拭えなかった。

 濱口監督は、ラストシーンについて、「途中で終わったとしても、観客は想像してくれるのではないかという期待も込めて、あの終わり方にしている。今回は、思い切ってあるポイントで終わってみた。それで観客がどういうふうに反応するんだろうということも楽しみにはしている。この映画に限らず、常に観客には委ねられているとは思っている」と語っている。

『ゴジラ×コング 新たなる帝国』(4月26日公開)

 怪獣と人類が共生する世界。未確認生物特務機関「モナーク」が異常なシグナルを察知したことを発端に、ゴジラが君臨する地上世界とコングが生きる地底世界という2つのテリトリーが交錯し、ゴジラとコングが激突する。

 しかし、その先には人類にとってさらなる未知の脅威が待ち受けており、怪獣たちの歴史と起源、さらには人類の存在そのものの謎に迫る新たな冒険が繰り広げられる。

 『GODZILLA ゴジラ』(14)から始まったハリウッド版「ゴジラ」シリーズと『キングコング:髑髏島の巨神』(17)の世界観をクロスオーバーさせた「モンスターバース」シリーズの通算5作目。

 前作『ゴジラvsコング』(21)に続いて監督はアダム・ウィンガード。出演は、レベッカ・ホール、ブライアン・タイリー・ヘンリー、ケイリー・ホトルが続投し、ダン・スティーブンス、ファラ・チェンらが加わった。

 もともと「モンスターバース」は、物語の設定やゴジラやコングの造形も含めて、東宝のゴジラシリーズとは別物だと思っているので、どんな設定で見せられても、もはや驚きもしない。今回は『猿の惑星』ならぬ“コングの惑星?”も登場する。

 監督のウィンガードは前作の時に、「これは巨大怪獣の大乱闘映画」と語っていたが、それは今回も同様。要は金を懸けたVFXを使って、いかにゴジラやコングを相まみえさせるか、その闘いをどう見せるかが重要なのだ。

 この映画を見ると、『ゴジラ-1.0』がアカデミー賞を得たのは、低予算でのVFXの技術もさることながら、「戦争とゴジラ」というテーマやストーリー性の高さも併せて評価されたからだと納得できる。その意味ではこの映画は“反面教師映画”と言えないこともないのだが、これはこれで何も考えずに見る分では楽しめはする。

(田中雄二)