18年前の台湾。高校3年生のジミー(シュー・グァンハン)はアルバイト先で4歳年上の日本人バックパッカーのアミ(清原果耶)と出会い、恋心を抱く。だが、突然アミの帰国が決まり、落ち込むジミーにアミはあることを提案する。現在。人生につまずいた36歳のジミーは、かつてアミから届いたはがきを手に取り、あの日の約束を果たすべく日本へ向けて旅立つ。藤井道人が監督・脚本を手がけた日台合作のラブストーリー『青春18×2 君へと続く道』が、5月3日から全国公開された。本作で撮影監督を務めた今村圭佑氏に話を聞いた。
-この映画は、18年前の台湾と現在の日本という、2つの場所、2つの時代を描いていますが、今回の撮影で難しかった、あるいは楽しかったと感じたところはありましたか。
脚本を読んだ時に、時代が変わる、場所が変わるというのを、いろいろな話の中で混ぜていくというのが重要なポイントだと思ったので、その場所の雰囲気や人物の感情に合わせて、映像の質感や撮り方を変えたりしながら表現できればと思いました。また、シュー・グァンハンが、18歳と36歳を1人で演じることになったので、それを映像的に少しでも助けられる部分があればいいと思いましたが、そこが一番難しかったです。映像の撮り方としては、すごく変化させられる部分もあったので、いろいろと考えながら楽しくやりました。
-今回は、台湾は台南、日本は東京から鎌倉、松本、長岡、只見というように、いろいろな場所でのロケーションがありましたが、その中の風景として、海岸や城や雪原が出てきますが、そうしたさまざまなものを撮り入れていく面白さも感じましたか。
日本の撮影パートでは、日本の風景の中に台湾から来たジミーがいることを、どういうふうに捉えるかというのがポイントでした。なので、感覚的にはジミーに対してカメラは少し遠くから撮っていて、風景の中に彼がいるという撮り方をしています。ある意味、ジミーでアングルを切っていないというか、その場所や背景の中にジミーがいるということを意識しました。逆に、台湾ではジミーが中心にいます。その2つの意識の差みたいなところで、2つの場所が違うというふうに見えればいいかなと。それで見ている人たちには視覚的に積み重なって埋め込まれていくようになればいいと思っていました。
-今回、いろんな風景を撮ってみて、一番印象的だったとか、映画として映えたと思うシーンはどこでしたか。
日本の鉄道のシーンは、時間的にはタイトな撮影ではあったんですけど、実際に電車をお借りして撮れました。この映画の中では、ジミーが旅をしているということは重要な筋なので、彼自身はそんなに大きく動いているわけではないけれど、どんどん背景が流れていくというのが、この映画の壊している部分だと思ったので、これはすごくいいなと思いました。台湾では、路地を歩いているといろんな人から話し掛けられたりするんですけど、台湾の人々の温かさが道に出ているというか、何でもない路地がすごく美しく見えました。
-藤井道人監督とはずっと一緒に映画を撮っていますが、基本的に撮影監督は監督の意図をくんで撮るものなのでしょうか。それともディスカッションをしながら2人で作っていくような感覚なのでしょうか。
もちろんディスカッションをしながら作っていくんですけど、 やっぱり脚本が指針になります。文字から映像を作っていくということは、それぞれの想像に頼る部分が多いと思うんです。僕は、脚本に書かれていることが彼の意図だと思っていて、脚本中にどう書かれているのかを、お互いが話し合ってイメージを膨らましていくというよりは、脚本を読んで、その文字から自分の中で浮かんだ映像をお互いに共有したり、この脚本からこういう映像や絵が浮かんだからこういうふうにしようと話し合ったり、というような感じです。
-今回、台湾のシュー・グァンハンが、18歳と36歳を演じ分けていましたが、撮影者から見て彼の魅力というか、俳優としてのイメージはどんな感じでしたか。
最初に会った時は本当にシャイで、僕たちもコミュニケーションを取るのが難しかったのですが、撮影が進むに連れてどんどんと心を開いてくれました。彼の撮影は日本のパートからだったんですけど、それがすごくよかった。まず、孤独な青年役として日本のパートを撮って、物理的にも僕たちとの距離が近くなって会話もできるようになってきて。その後、台湾パートを撮影する頃には、本当に映画の中のキャラクターのように明るい感じで。まさに映画の流れと同じように撮影ができたので、僕たちとの距離感の縮まり方が、キラキラした時を演じるに当たって、すごくいい作用をしていたと思います。それから、例えばアドリブがあったら、僕は彼が何を言っているのか分からないはずなのですが、日本の俳優を撮っている時と同じように、この人はこういうことを考えているなとか、こういうふうに動くだろうなとか、そういうことがよく分かる人でした。なので、言葉が通じるとか通じないとかは関係なく、いい俳優をカメラで撮っていると、その感情がちゃんと分かるというのはすごいと思いました。
-清原さんはいかがでしたか。
彼女が15歳ぐらいの時に初めてご一緒してから、 何本か一緒に撮っていますが、お芝居の面では、僕たちスタッフもすごく彼女を信頼しているし、彼女も僕たちを信頼してカメラの前に立ってくれているというのが分かります。今回もすごく難しい役だったと思いますが、陰と陽をうまく演じ分けていました。清原さんも、台湾での体験を撮る前の日本のパートから撮影したので、脚本から想像して自分の中に感情を落とし込むのは相当難しいことだったと思うんですけど、もう台湾に行ってきて、それを体験した後というような表情をしていたので、すごいと思いました。
-この映画は、とてもユニークな展開を見せますが、撮影で気を付けた点は。他の映画との違いや、この映画ならではの特徴みたいなものがあれば教えてください。
普通の映画と比べると、場所と人の感情のリンクみたいなところでは、シチュエーションや時間の量が相当多いと思うので、そこが特に面白いところだと思います。出てくる人々は同じなんだけど、風景や時間がどんどん変わっていって、一緒にリンクしながら成長したりしていくところが、見どころというか、面白いところだと思います。
-最後に、観客に向けて一言お願いします。
映像的なことで言うと、雪景色や電車の風景など、すごくいい風景がいっぱい映っていて、日本に住んでいる僕ですら知らない所がたくさん出てきます。その中でジミーの感情が動く瞬間みたいなところがいろいろとあります。台湾の風景は、日本人から見ても、どこか懐かしさがある風景だと思います。そうした見どころもあるし、場所と人とのリンクみたいなのものを感じながら見ると面白いかなと思います。
(取材・文/田中雄二)