
『パラノーマル・アクティビティ』の大ヒット以来フェイク・ドキュメンタリーが大流行しているのは映画ファン、とりわけホラー好きには周知の事実。“こんな映像が発掘されました!”的ファウンド・フッテージ・スタイルは今や目新しいものではなくなってしまった。何しろこのスタイルは低予算で作ることができるので、アイデアさえあれば比較的軽いフットワークで撮れてしまう。必然的に粗製濫造も避けられなくなるが、ちゃんとした監督が撮れば見応えのある作品ができるものだ。それを証明してみせたのが、『ザ・ベイ』。『レインマン』のアカデミー賞監督バリー・レビンソンが、『パラノーマル…』のオーレン・ペリとタッグを組み、放った強烈な社会派フェイク・ドキュメンタリーだ。
米メリーランド州の海辺の町クラリッジで、想像を絶する大惨事が起こった……。当時を回想する若い女性の語りをとらえた冒頭からして不穏な空気が渦を巻く。時間は巻き戻り、独立記念日を間近にした町のお祭りムードの一方で、海洋汚染の実態を調査していた科学者たちの驚くべき研究結果が明かされる。あまたの魚の死骸、そこから発見された寄生虫、そしてそれをクラリッジの人々が食しているという、ゾッとする事実。“大惨事”が何であるかは、この辺りになると観客のイマジネーションによってかたち作られるはず。そんな予想は案の定、的中するのだが、独立記念日の当日、それはまさに“想像を絶する”ものとなるのである。
お祭りの賑わいから一転、血みどろの大パニックへ。むろん、レビンソンが撮る以上、単なるショック映画には終わらない。メリーランド生まれの彼は、慣れ親しんだ湾に棲息する肉食の寄生虫の現実を踏まえて本作を撮ったという。環境破壊から、それを隠そうとする体制側の体質まで、85分という短い上映時間の間に凝縮された批評精神。『ウワサの真相ワグ・ザ・ドッグ』のような鋭く風刺的なエッジが、フェイク・ドキュメンタリーという若々しい手法を得て、久々に狂い咲いたと言うべきか。巨匠が描くいまそこにある(かもしれない)恐怖を、ホラー・ファンだけのものにしておくのは、正直かなりもったいない。
『ザ・ベイ』
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文:相馬 学