マウスに比べるとマイナーながら、熱烈な愛用者も多いトラックボール。その中でも最高峰と名高いのが、ロジクールの「MX ERGO」だ。2017年9月発売と7年前のモデルながら、完成度の高さからいまだ多くのユーザーが支持している。かくいう筆者自身も発売当初から愛用しており、もはや他のデバイスではしっくりこないくらい体の一部になっている。そんなトラックボールのマスターピースといえるMX ERGOだが、24年9月19日に後継機「MX ERGO S」が発売。実に7年ぶりとなる新モデル、一体どんな進化を遂げているのか。従来モデルと使い比べながら、ポイントを紹介してきたい。
そもそも「MX ERGO」はどんなトラックボール?
MX ERGOに馴染みのない読者のために、まずは従来モデルについて説明したい。同モデルはロジクールの「人間の手が最もリラックスできるより自然に近い手のポジション」という研究結果をもとに開発された商品で、絶妙なバランスで設計されたデバイスに手を置いたときの角度が最大の特徴だ。
手全体を動かすマウスと異なり、トラックボールは手首より下の部分は動かさないため、作業負荷が少ない。MX ERGOはそこにリラックスポジションという考え方を加えることで、トラックボールの快適性をさらに向上させた。
MX ERGOは機能性も追求しており、本体に搭載された八つのボタンで、カーソル速度や接続デバイスを直観的に切り替えられる。水平スクロールとミドルクリックを搭載したティルト機能付きのプレシジョンスクロールホイールも非常に使い勝手が良い。
実際、快適で筆者が長年にわたって愛用しているモデルは、使い込みすぎて本体にプリントされたロゴも消えてしまっているほどだ。
時代に合わせた変化を取り入れた「MX ERGO S」
まず、はじめに言っておきたいのは、本質的な部分でMX ERGO Sは従来モデルから大きな変化はないということ。傾斜角度や2段階調整の構造、ボタンの配置などはそのままで、一見すると同じモデルのようにもみえる。それだけMX ERGOが完成されたトラックボールであることの証明ともいえるだろう。
では、なぜわざわざ新モデルを発売したのか。それは7年という月日でユーザーのニーズや規格が変化したからだ。
まずニーズの部分ではコロナ禍を経て、働き方が大きく変わった。オフィス以外の場所で働く人が増え、周囲への配慮も必要になった。マウスでいえばクリック音だ。
オフィスではあまり気にならなかったカチカチという音が自宅ではよく響くという声が聞かれ、静音クリックを採用したマウスが売り上げを伸ばした。
MX ERGO Sの最大の変更点も、クリックを静音にしたことがあげられる。前モデルと比較すると、ノイズを約80%軽減しており、周囲を気にせずより集中した環境で作業に没頭できるようになった。
MX ERGOより押し込みがやや浅めなので最初は少し違和感があったが、慣れてくるとノイズの少なさもあってより快適性が増したように感じた。
些細な点ながらMX ERGOを長年愛用するユーザーにとって、もっとも喜ばしいのは端子がUSB Type-Cに変更になったこと。MX ERGOが発売された17年はまだUSB Type-Cが完全に普及しておらず、端子がUSB Micro-Bだった。
正直、当時も「Type-Cじゃないのか」と少しがっかりした記憶があるが、7年の間に完全にMicro-Bのデバイスは駆逐され、いまや自分のデスクのMicro-B端末はMX ERGO用だけになっていた。
充電する頻度は少ないものの、これはMicro-Bケーブル1本は手の届く場所に残しておかなければいけないことを意味する。
ちなみにフル充電時に使える期間は最大120日間で従来と変わらないが、Micro-B→Type-Cになったことで高速充電は1分の充電で約8時間使用可能から約24時間使用可能と約3倍に伸びている。
このほか、仕様の部分ではUSBレシーバーが「Unifying」から「Logi Bolt」に変更された。これにより遅延が従来より少なくなり、セキュリティも強化されている。また接続できるデバイスが最大6台までとなったので、複数のデバイスを同時に操るユーザーにはより使いやすくなったといえるだろう。
USB Type-C採用だけで買い替える価値あり、打感は好みが分かれるかも
大きなアップデートがないMX ERGO Sだが、現在MX ERGOを使っているユーザーなら次に買い替えるならMX ERGO Sを選ぶべきだろう。慣れた使い勝手が引き継げるのはもちろん、USB Type-Cの利点が大きすぎる。
一方で静音クリックはやや打感が浅めで好みが分かれる気はした。「打感そのままでUSB Type-Cを採用した新モデルがあれば完璧!」という人は一定数いるかもしれない。(フリーライター・小倉 笑助)
小倉笑助
家電・IT専門メディアで10年以上の編集・記者経験を経て、現在はフリーライターとして家電レビューや経営者へのインタビューなどをメインに活動している。最近は金融やサブカルにも執筆領域を拡大中