奄美大島へ流された吉之助(鈴木亮平)を呼び戻そうと大久保正助(瑛太)が奔走する中、長期に渡って薩摩藩の実権を握り続けた島津斉興が、ついに大往生を遂げた。老練な斉興を印象的に演じたのは、「翔ぶが如く」(90)以来の大河ドラマ出演となった鹿賀丈史。大久保を演じた「翔ぶが如く」の思い出も含めて、本作を振り返ってくれた。
-「翔ぶが如く」以来の大河ドラマ出演となりましたが、今のお気持ちは?
最初にオファーを頂いたとき、斉興役と聞いて「僕もずいぶん老けたな…」と(笑)。「翔ぶが如く」も「西郷どん」も、日本が大きく動いた時代で、西郷を中心にした話というのは、やっぱり面白い。その中で、斉彬から西郷という中心ラインの外にいる斉興を、できるだけうまく表現したいと思いながら、嫌な親父を楽しく演じさせていただきました。
-斉興とは、どんな人物だったのでしょうか。
ドラマでは描かれていませんが、実は藩主として薩摩のためにいろいろなことをした人です。そういう自負もあったので、斉彬を中心とした新しい世代の動きから薩摩を守ろうとした。実質的には薩摩藩の最後の藩主ではないかと。もちろんその後、息子の斉彬が藩主になるのですが、精神的な意味では、最後の藩主だったという気持ちで演じました。
-先進的な斉彬(渡辺謙)、やや頼りないその弟・久光(青木崇高)に対して、老練な父・斉興の対比も魅力的でした。演じる上で、どんなことを心掛けましたか。
長期にわたって藩主を務めた人間ですから、揺るぎない自信を持っていたに違いありません。しかし、その自信が斉彬の台頭によって揺らいでいく。その変化を大事に演じようと思っていました。
-斉彬の死後、再び藩の実権を握りましたが、感想は?
第5回で斉彬に藩主の座を譲って隠居するので、そこで出番が終わりだと思っていたんです(笑)。そうしたら、第20回まで出るという話で。斉興もこうして生きていたということが分かると同時に、再び表舞台に立つその生命力やしつこさみたいなものを面白く演じられればと。やりがいがありました。
-この作品では、斉興は悪役でしたが、そのあたりはどう感じていましたか。
台本を読んでみたら、単なる悪役ではない斉興の人間味みたいなものも感じられました。歴史上の人物でもありますし、そういう部分を少しでも出せたらと。亡くなるときも、天寿を全うしたという最期にしたいと考えました。
-斉彬を演じた渡辺謙さんとのお芝居はいかがでしたか。
印象的だったのは、やっぱり第4回で斉興と斉彬がロシアンルーレットまがいのことをする場面。あそこは、謙さんが素晴らしい芝居をなさっていたので、僕もそれを受けて断然やる気になりました。あのとき、斉興は自分の頭に当てたピストルの引き金を引けずに投げ捨てるわけですが、実はそのとき、スーッと涙が流れてきたんです。カメラ位置の関係で画面には映っていませんが。そういう緊迫感の中で、俳優同士のぶつかり合いもあって、充実した芝居ができました。
-斉興と言えば、常に寄り添っていた由羅の存在も大きかったですね。
あれだけ強い女性ですからね。多少は尻に敷かれているところがあったかもしれません(笑)。「お由羅騒動」とは呼ばれても、「斉興騒動」とは呼ばれないわけですから。そのあたりからも、由羅の強さが感じられます。とはいえ、江戸でも薩摩でもずっと一緒にいたわけですから、2人が愛し合っていたことは確か。そんな由羅を、小柳ルミ子さんが大変魅力的に演じてくださいました。
-「翔ぶが如く」で鹿賀さんが演じられた大久保を、今回は瑛太さんが演じられています。第17回では斉興と大久保が対面する場面もありましたが、感想は?
僕はちょうど40歳のときに大久保を演じたのですが、1年間やったので、やっぱり体に染み付いたものがあります。だから、大久保に対する思いや、当時の思い出みたいなものがよみがえってきて、斉興と大久保の対面シーンは、とても楽しみにしていました。西郷を救うために斉興のもとへ飛び込んでくるあたり、いかにも大久保らしいですよね。
-瑛太さんが演じる大久保の印象は?
これからですよね、大久保が台頭してくるのは。今は西郷の方が立っていますが、これからどんどん大久保らしさが出てくると思うので、期待しています。
-「翔ぶが如く」との関連では、当時、西郷を演じた西田敏行さんがナレーションを担当しています。
NHKで偶然、西田さんに会ったとき、ナレーションをやるとご本人から聞きました。そのとき、これは面白いなと。オンエアを見ると、「翔ぶが如く」で西郷を演じたという西田さん自身の思いも、ナレーションに込められているような気がします。毎回、少しずつニュアンスも違いますし、ドラマを盛り上げていますよね。
-主人公の西郷吉之助を演じる鈴木亮平さんの印象は?
西郷はどちらかと言うと野放図なところがある人物ですが、鈴木さん自身は非常に知的で繊細な俳優。なので、オンエアを見ながら、「こういうふうに演じるのか」、「こういうところで涙を流すのか」と楽しんでいます。また新しい才能のある俳優が出てきたなという印象です。
-第11回では、吉之助が斉興の屋敷に押し掛ける一幕もありました。
「二度とその顔を見せるな!」と一喝する場面ですね。撮影中はすれ違いが多く、鈴木さんと言葉を交わす機会はあまりありませんでしたが、お互いに丁々発止で芝居をすること自体が俳優同士の会話みたいなもの。そういう意味で、あの場面は楽しく演じられました。「翔ぶが如く」にはなかった場面だと思いますが、この作品では斉興が西郷にも大久保にも会えるので、うれしかったです。
-今後も大河に出演したいという意欲はありますか。
大河ドラマは日曜8時に決まって放送されていることもあって、知り合いもみんな見てくれるんですよね。そういう意味で、大河ドラマは他にはない独特の魅力がある作品。僕ももういい年ですが、年齢にふさわしい役があればぜひまた出たいです。
(取材・文/井上健一)