島津久光役の青木崇高

 兄・斉彬(渡辺謙)、父・斉興(鹿賀丈史)の死後、“国父”を名乗って薩摩藩の最高権力者の座に就いた島津久光。今後、斉彬の遺志を継いで幕政改革を目指しながらも、吉之助とは対立を深めていくこととなる。演じる青木崇高が、転機を迎えた久光の人物像、演技に込めた思いを語ってくれた。

-久光はどんな人物だったとお考えでしょうか。

 光輝くスーパースターの兄に対して、その弟ということで、今まではネガティブな性格で頭の回転もよくない、しかも仲が悪いように描かれることが多かったと聞きました。でも実はそんなことはなく、久光のことは斉彬も評価していたそうです。ただ、西郷が絡んできたときのことを考えると、対照的に演じた方がドラマチックになる。そこで、兄上がヒーローなら、こっちはとことん人間的に演じようと思いました。

-役作りはどのように?

 久光に関するエピソードで面白かったのが、後に廃藩置県が行なわれることを知ったとき、藩中の花火を集めて一晩中打ち上げたという話。これは人物をひも解くのに役立つのではないかと。他にも西郷から“地ごろ”(=田舎者)呼ばわりされ、ギリギリと歯ぎしりした跡がキセルに残っていたなど、どれも人間味を感じさせるエピソードばかり。今まで語られてこなかった余白を、そういうもので埋めていきたいと考えました。

-久光と西郷の関係についてはいかがでしょうか。

 私たちから見ると、西郷は偉人として評価が定まっていますが、当時の薩摩の人間の立場に立ってみたら、「西郷?どこのもんや?」という話。久光とは立場が全く違いますから、その距離感は大切にしたいと思いました。兄上にはかわいがられたかもしれないが、単にお酌がうまいだけかもしれない。そんなやつが、兄上の遺志を継いでやっていこうとする自分に対して、偉そうに異を唱えた上に、“地ごろ”呼ばわりする。久光が怒るのは当然です。よく斬られなかったと思います。

-西郷役の鈴木亮平さんと共演した感想は?

 ずっと撮影を頑張っていることを知っているので、対面するシーンでも、西郷を亮平くんとして見てしまい、どこか憎み切れないところがあるんです。「これはいかん!」と思い、別のところから怒りのモチベーションを持ってきて演じています。「かつらがかゆい!」、「正座がつらい!」といったイライラを「全部おまえのせいじゃ!」とぶつける感じで(笑)。

-「会った人全てが好きになる」という西郷の人柄は、鈴木さんにも通じる部分がありそうですね。

 そうですね。その中で唯一、好きにならなかったのが久光かも知れません(笑)。このドラマでは久光は嫌われ者ですし、漫画などでも悪人のように描かれていることが多い。でも、それこそ僕の大好物。ならばなおさら人間味を出して、視聴者に「憎めない」と感じてもらえるようにしたい。常にそう考えています。

-薩摩の最高権力者となった久光は“国父”を名乗るようになりましたが、その前後で演技はどのように変えましたか。

 最初にオファーを頂いたときから、そこは重要な部分だと思っていました。大久保から“国父”という言葉を得て、久光は自分の中で歯車が動き始める感触を得た。そこで、それ以降は自分が薩摩をコントロールしていくという姿勢を出すため、やや恰幅(かっぷく)のいい感じにして、メークや小物、差している刀、芝居の動きや声など、いろいろと変えてみました。印象的にはなっていると思います。とはいえ、なかなか久光の思惑通りに行かない部分もありますから、これからまた少しずつ変えていくつもりです。

-視聴者からは「久光、かわいい」という声も聞かれますが。

 “ひさみちゅ”と言われていました(笑)。今後はすご味も出てきますが、芯の部分は残すようにしているので、かわいらしさはより増しているのではないでしょうか(笑)。久光は愛情をたっぷり受けて育ってきた人間と考え、演じる上では“愛情”をテーマにしています。安心できるような家臣が自分のそばにできたら溺愛する…そんな人にしたいと。そういう意味で、マザコン的な感じはなくなるかもしれませんが、かわいらしさは残るのではないかと。

-大久保一蔵(瑛太)との関係も気になるところです。

 久光に接近した大久保は、久光を盛り立てていくことに手応えを感じていますが、ある日突然、久光が自分を溺愛して離さないことに気付く…。そこで怖さを出せたら面白いですね。この人から離れたら、とてつもなく恐ろしいことが待っているのではないか…?そういうヒヤヒヤした状況の中で大久保が決意を固めた時、果たして久光がどうなるのか。僕自身にも分かりませんが、その瞬間を演じるのが楽しみです。

-青木さんは日本舞踊を学んでいるそうですが、それは時代劇を考えてのことでしょうか。

 そうです。僕が言うのもせんえつですが、時代劇の動きや所作の基本は日舞。先輩方に言わせれば、殺陣と日舞と乗馬は、役者であれば身に付けていて当然のもの。でも、今はそれがなかなか難しい。とはいえ、お客さんにそういう言い訳は通用しませんから、時間を見つけて自分で勉強するしかない。その一方で、今は生活も洋式化し、見る側もそのあたりが分からなくなってきています。だから余計に、年配の方にも安心して見ていただけるラインを保ちたい。海外の方にもカッコいいと感じていただける文化ですから、できる限りしっかり勉強していきたいと思っています。

-今後、久光は江戸に出て、一橋慶喜(松田翔太)らと衝突する場面もあるようですね。

 兄上の遺志を継いで自信満々で乗り込んでいったのに、「どこの田舎侍だ?」みたいな感じでけちょんけちょんに言われてカーッとなる…。演じていて面白かったです。行く先々でけんかばかりしているので、疲れますけど(笑)。とはいえ、遠い薩摩から千人近い家臣を引き連れて江戸まで出て行くバイタリティーには、久光の底力を感じます。しかも、彼にとっては人生を懸けた大勝負で、そこで自信をつけるなど、勝ち得たものは大きかったはず。ぜひ楽しみにして下さい。

(取材・文/井上健一)