有馬新七役の増田修一朗

 動乱の幕末、世を変えようと立ち上がった有馬新七だったが、説得に来た大山格之助(北村有起哉)らとの交渉が決裂。壮絶な斬り合いの末に散っていった。世にいう「寺田屋騒動」である。有馬の死は、幼なじみである吉之助(鈴木亮平)たちの心に深い傷を残すことになった。有馬を演じた増田修一朗が、寺田屋騒動に至る心情や、これまでの撮影を振り返ってくれた。

-有馬新七は寺田屋騒動で壮絶な最期を遂げました。今のお気持ちは?

 寺田屋騒動の有馬というと、剣術に長けていたことから、壮絶に戦って散ったという武勇伝的なイメージで知られています。でも今回は、そういった部分よりも、感情的なものに重きを置いて演じるつもりでした。ただ、そのときの演技については、本番まで深く考えることはしませんでした。この1年、みんなと一緒に芝居をしてきたので、そのときになれば何らかの感情は湧いてくるはず…。そう思っていたので。

-実際に演じてみた感想は?

 撮影で一緒だったのは、(北村)有起哉さんと(錦戸)亮くん(西郷信吾役)だけでしたが、最期の瞬間はみんなの顔が頭に浮かび、感情があふれてきました。せりふも「吉之助、すまん」の一言ですが、そこにはみんなに対する気持が詰まっています。

-寺田屋騒動のときの有馬の心情を、どんなふうに捉えましたか。

 これでいいのかという思いと、誰かがやらなければという思い。その二つの間で揺れていたに違いありません。それを表現するため、演出の方と相談して、テストではあまり動かずに芝居をしていましたが、本番ではもっと動く芝居に変えました。これによって、剣と剣を交えるピリピリした緊迫感とは違った、「これでいいのか?」という迷いを含んだ同士討ちの緊張感を醸し出すことができたと思っています。

-有馬はなぜ、命を懸けてまで尊王攘夷に走ったのでしょうか。

 有馬は頭が切れる人物なので、知恵を絞って世の中を変えようとしていたはずです。ただ、それがうまくいかず、けじめをつけるために死に場所を探していた。自分が犠牲になることで、成し遂げようとしていたことを継ぐ人が出てきて、世の中を変えるきっかけになる。僕は有馬の真意をそう解釈して演じました。

-脱藩前、大久保一蔵(瑛太)から説得される場面(第22回)も印象的でした。

 今まで、吉之助や大久保と2人で芝居をすることがなかったので、あの場面では有馬の本心や年上ならではの優しさをうまく表現したいと考えていました。ただ、演じている中で少し違った感情が生まれてきたので、台本通りではありません。大久保とのシーンは、土下座して脱藩を止めようとする大久保に「立て」と言う予定だったんです。でも、それだと違和感があったので、僕も腰を落として、同じ目線で「行かなければいけないんだ」と、兄が弟を優しく諭すような芝居にしました。

-同じ回で吉之助と対峙する場面もありました。

 あそこも、もともと台本では緊張感が高まって終わるはずでした。でも、僕はそれを緩和して終わりたかった。有馬が今まで吉之助という存在をどう感じていたのか。その本心をこのやり取りで見せたかったんです。そうすることで寺田屋騒動が生きてくるに違いない。そう思ったので。そこで、監督に相談した上で、リハーサルでは熱い感じだったのを、亮平くんには黙ったまま本番では芝居を変えて、仕掛けてみました。亮平くんのリアルなリアクションが引き出せたと思っています。

-改めて振り返って、出演が決まったときのお気持ちはいかがでしたか。

 うれしかったです。有馬新七という人物を1年ほど演じましたが、これまでの役者人生で同じ役をこんなに長くやったことはありません。まして劇中で20歳近く年を取るような役も初めて。だから覚悟もありつつ、楽しみにしていました。不安やプレッシャーよりも、挑戦する気持ちの方が大きかったです。

-役作りはどのように?

 史実を勉強したところ、有馬は頭が切れる上に剣術にも長けた文武両道の人物ですが、性格的には直情型だったことを知りました。ただ今回は、知的な人物として瑛太くんの大久保一蔵がいます。だから、そういう部分は彼に任せて、僕は“武”の部分や感情のままに突っ走る薩摩隼人の危うさみたいなものを表現しようと考えました。ドラマを面白くするためには、その方がいいだろうと。

-吉之助や仲間たちとにぎやかにやっていた序盤に比べて、最近はシリアスな雰囲気も漂っていました。その辺りの有馬の変化はどのように捉えましたか。

 実際にあった出来事を変えることはできません。だから、最初のうちは吉之助を中心とした仲間たちの強い絆をしっかり表現した上で、それが次第に変化していくギャップを見せたいと考えていました。そうすることで、僕らが動乱に巻き込まれていくインパクトも強くなりますから。

-精忠組のメンバーと一緒に過ごした感想は?

 有起哉さんを先頭に、他の俳優がうらやましがるぐらい、いい雰囲気で過ごすことができました。みんなの内面にあるものと役に共通する部分が多く、一緒に食事をしたり、世間話したりといったことが、そのまま役作りになって、本番の雰囲気につながっていました。だから、その時間を過ごせなくなるのは寂しいです。新八(堀井新太)なんか、「増田さんがいなくなると寂しいなぁ」と、2カ月ぐらい前から言っていましたから(笑)。あんまり何度も言うので、「早くいなくなってほしいのか?」と(笑)。

-精忠組の中では一足先に去ることになりましたが、何かお言葉は?

 あのメンバーの中では僕が一番、世の中の認知度が低かったので、初めて顔を合わせたとき、「なぜここにいるんだろう?」と思ったぐらいです。寺田屋騒動があることも最初から分かっていたので、「僕にできるかな?」と心配でしたが、何とかやってこられたのはみんなのおかげです。心から感謝しています。最後まで一緒にやりたい気持ちはありますが、仕方ありません。後はみんなに任せて、僕は行く末を見守っていきます。

(取材・文/井上健一)