川口雪篷役の石橋蓮司

 沖永良部島での島流しを終え、薩摩に戻ることとなった西郷吉之助(鈴木亮平)。過酷な日々の中でも、幾つかの幸運な出会いがあった。その1人が、吉之助より前に薩摩藩の罪人として島に送られてきた川口雪篷。吉之助と意気投合した雪篷は後に西郷家に迎えられ、終生、一家を支えていくことになる。演じる石橋蓮司に、出演の意気込み、主演を務める鈴木亮平の印象などを聞いた。

-川口雪篷を演じることが決まったときの感想は?

 今回、演じることが決まって、そういう人物がいたことを初めて知りました。どんな人物だったのか調べてみても、分かることといったら、西南戦争を経て、最後まで西郷家に居候していたことぐらい。だから、役については中園(ミホ/脚本家)さんの台本を待って作っていこうと考えています。中園さんとは「花子とアン」(14)など、幾つかの作品でご一緒させていただいているので、またその世界を生きることができるのが楽しみです。

-雪篷を演じる上で大事にしていることは?

 一番は西郷との友情です。たくさんの人が西郷と接していくわけですが、最後を見届けるまで居候させてもらうということは、雪篷がよほど気に入られていたということ。お互い、どんなところに引かれ合ったのか。その辺りの友情関係がどうやって築き上げられたのかを見極めながら、大事にやっていきたいと考えています。

-沖永良部島を訪れた感想は?

 実際に沖永良部島に行ってみて、当時、流されていた雪篷の苦労がよく分かりました。史実によると、島の人たちは温かく迎えてくれたそうです。ただ、やはり武士なので、薩摩の動乱の中に身を置いて、自分のポジションを探したい。そんな思いがあったのでしょう。そして、最終的に薩摩に帰ることができたのは、やはり西郷の力が大きかったのだろうなと、肌で感じることができました。

-雪篷は西郷と初めて会ったとき、どんな印象を持ったのでしょうか。

 初めて出会ったとき、西郷は野ざらしの牢に入れられ、食べ物もわずかしか与えられないという、まるで死刑のような状況。それほどの罰を受けることに対して驚きを覚える一方で、じっと耐えているその姿からにじみ出す武士としての信念が、雪篷の美意識に触れたのではないかと。同時に、そんな彼にとって、国を変えるという西郷のいちずな思いは、自分が諦めていたものを刺激する部分もあったに違いありません。久光(青木崇高)が大事にしていた書物を勝手に売って流されたという逸話が残る雪篷ですが、それが本当かどうかは別にしても、少なくとも反体制派であったことは間違いないでしょうから。

-二度の島流しを経験した西郷は、これから明治維新に向かっていきますが、沖永良部島に流されたときはどん底の状態です。初対面の場面を演じた際の鈴木亮平さんの印象は?

 初対面は野ざらしの牢に入っている場面でしたが、そのセットが「これは死ぬよな」というすさまじいもの(笑)。しかも場所は強風が吹いている海辺で、ものすごく寒い。そんなところで薄い衣装を着て演じるわけですが、一度牢に入ると、簡単に外に出ることができないんです。だから、撮影の準備をしている間、中でじっと耐えている姿を見て、「頑張っているな」と。そういう凄惨(せいさん)な場面から入れたので、いい出会いになったと思います。

-鈴木さんとの共演の感想は?

 鈴木くんのことは以前から知っていますが、顔を合わせて芝居をするのは、恐らく初めて。非常にタフで、撮影を頑張っています。年齢的にも絶好の時期だと思うので、そういうエネルギーが役に反映して内からにじみ出てくれば、面白くなるのではないでしょうか。台本上では、その辺りをなだめたり、少し道を外れたようなときに修正してあげたりするのが、僕の役どころなのかなと思いながら見ています。

-鈴木さんとお芝居の相談をされるような機会は?

 これからやっていこうと考えています。雪篷が西郷家に入って、西郷が難しい局面に直面したとき、どう対処できるのか。そこを演技で埋められるのであれば、お互いに話し合って、「もう少し柔らかく」、「ここは強く」、「上から目線で」といったやりとりをしたいなと。鈴木くんは、そういうことを苦にしないらしいので、思い切って意見をぶつけ合っていきたいです。

-雪篷の人間味を、どのように表現しようと考えていますか。

 まだ登場した直後なので、西郷家に入ってからが勝負だと考えています。西郷家の人たちは全員、レギュラーで出来上がっている人ばかり。そこを雪篷が、どう引っかき回すのか。その辺りを中園さんがどんなふうに書いてくるのか、楽しみにしています。中園さんのせりふは、役者が自分でイメージを作っていけるような文体。それに「沿う」のではなく、自分で考えたものを持ち込める。そういう台本なので、ただ「演じる」のではなく、間に立つディレクターと意見をぶつけ合いながら、早く中園さんと“チャンバラしたいな”と(笑)。

-中園ミホさんの脚本の魅力とは?

 役者に対して「方向性は与えるけど、それをどうやるかはあなた自身」という自由度があるところです。せりふの一つ一つに着想する部分がたくさんあって、どれを拾うかはお任せ。そう言われると、役者は単純に喜んでしまうところがあるのですが、逆に言えば、失敗したら自分が全責任を負わなければいけない。言ってみれば、意地悪な試験問題のようなもの(笑)。そういうふうに“遊べる”ところが魅力です。

-その他、これから楽しみにしていることは?

 これから坂本龍馬(小栗旬)も登場しますが、龍馬が西郷家にやって来る場面があるそうです。そういう事実があったことを僕は知らなかったのですが、非公式かつ家庭的な場で2人がどんな話をするのか。しかも、その場に僕も立ち会えると聞いているので、幸せですね。どんな台本が出来上がってくるのか、楽しみに待っているところです。

(取材・文/井上健一)