
戦闘や暗殺については全くの素人であるCIA職員の男が、妻を殺したテロリストへの復讐(ふくしゅう)に乗り出す姿を描いたアクションサスペンス『アマチュア』が、4月11日から全国公開される。本作で内気な愛妻家の主人公チャーリー・ヘラーを演じたラミ・マレックと妻のサラを演じたレイチェル・ブロズナハン。来日した2人に話を聞いた。
-最初に脚本を読んだ時の印象は?
ラミ 脚本の初稿はいろいろと盛り込んだものではなかったのですが、逆にそれがよかったと思います。というのは、今回はプロデューサーでもあったので、プロデューサーとして本気でこの企画と向き合うことになったからです。それからしばらく考えて、脚本を大幅に改訂しました。基本的に目指したのはオーセンティックでリアルなもの、そして共感できるものです。スパイスリラーものにアクションはつきもので、アクションシーンはちょっと誇張されたハイパーリアルなものになるのは分かっていましたが、キャラクターやストーリー面においてはリアルにすることをとても大事にしました。
レイチェル 私が読んだ脚本はほぼ完成したものでした。それを読んでチャーリーのストーリーにとても感動しました。彼はいわゆるスパイスリラーには出てこないようなキャラクターですが、彼が喪に服す旅をしながら、そのパッケージとしてすごく大きなアクションがあって、アドベンチャーがあって、そして世界中を回ってのいろんなスタントがある。けれども、キャラクターがしっかり真ん中にいるところが、私も含めて観客の方がしっかり見て取れるところがすごくいいと思いました。
-ラミさんがレイチェルさんをこの映画に誘ったと聞きましたが。
ラミ 彼女の人間性はもちろん、その仕事ぶりや能力についても以前から最高の敬意を払ってきました。だからそんな彼女に声を掛けることは、ドキドキしてナーバスになります。恋愛的な意味で声を掛けるのと同じように、断られる可能性もあるわけですから。でも、共演の可能性をつぶしたくはなかったので、声を掛けずにはいられませんでした。その結果、この作品ができて、来日して、こうしてお話しすることができました。
レイチェル 私も彼に対しては、以前から人間としても俳優としても敬意を払ってきました。そして、いつか一緒に仕事がしたいねと何年も言っていました。なので、この業界で才能を発揮しながら、すごく親切で、とても心が広いこの人がやりたいと思ってること、すごく情熱を抱いているプロジェクトの一部にぜひなりたいと思って、すぐにイエスと言いました。この映画ができたこと自体が奇跡だと思います。特に今回のラミのように俳優がプロデューサーをやる時は、他の俳優や監督や脚本家と話をするのにもすごく緊張すると思いますが、彼はいくつもの役割を見事にこなしていて、それを見てインスピレーションを受けました。彼は今回すごく大胆な動きをしたと思います。
-『ナイト ミュージアム』(06)のアクメンラー王、『ボヘミアン・ラプソディ」(18)のフレディ・マーキュリー。そして今回のチャーリーは全く別種の役柄ですが、演じ分けのコツのようなものはありますか。
ラミ 『ナイト ミュージアム』はロビン・ウィリアムズと一緒に仕事ができたし、キャストも素晴らしかった最高のデビュー作です。ロビン・ウィリアムズからは生涯大事にするようなものをたくさんもらいました。セットでは限られた時間しか一緒に過ごせないけれど、その中で本当にたくさんのアドバイスや学びを与えてくれるメンター(指導者)のような存在と出会うことがあります。フレディ・マーキュリーを演じた時は、自分にとってはフレディ自身がメンターになりました。今回はローレンス・フィッシュバーンのキャラクターがある種メンター的なところがあると思います。そういう人たちに助けられながら演じているところがあります。
そしてレイチェルもそうです。本当に彼女からは毎日毎日学ぶべきところがたくさんあっていつも話をしていました。勉強すること、プロデュースをすることだけではなくて、演出や監督についても話をしました。出演者である彼女が、カメラの裏側で起きているたくさんのことに目を配りながらも落ち着いていて、優美さを保っている。僕もそういうものを身につけたいと思いました。この業界では、本当はもっといろんな役ができるのに、こういう役しかできないという一つの型にはめられてしまうことが多いのですが、レイチェルはこの映画でカリスマ性やチャーミングさに加えて、コメディエンヌとしての才能も発揮しています。この映画で彼女がコメディーもできることを示したことで、何かが見えてくる気がします。それがこの映画のテーマの一つかもしれません。
レイチェル 私も、何かをやるときには、同じことは繰り返さない、同じアプローチをしないようにと思ってやっていますが、ラミがまさにそうで、それを勇敢に情熱的にやっているところが本当にすごいと思います。彼は、本当にいろいろな役をやっていますが、それぞれを100パーセント違うものとして体現しているところが素晴らしいです。役者としては、本来はそれがベースラインになければならないのですが、それができない人がほとんどの中で、そういうことをしっかりやっていることにものすごくインスピレーションを受けます。今回は、さらにプロデュースもやっているわけですから驚きです。
(取材・文・写真/田中雄二)