西郷吉之助役の鈴木亮平

 吉之助が島から召還され、物語が大きく動き始めた大河ドラマ「西郷どん」。京に上った吉之助は、坂本龍馬(小栗旬)、勝海舟(遠藤憲一)、岩倉具視(笑福亭鶴瓶)、桂小五郎(玉山鉄二)といった英傑たちと出会い、明治維新に向かって突き進んでいく。通称“革命編”と呼ばれる新章のスタートに合わせて、主演の鈴木亮平が見どころを語ってくれた。

-革命編では、新たに4人の英傑たちが登場します。彼らと西郷の交流が大きな見どころですが、お芝居の面で変化はありますか。

 魅力的な方ばかりなので、彼らをより輝かせるためにはどうしたらいいのか。それを一番に考えています。これまでは、吉之助がどう考えているかを中心に演じてきましたが、今は彼らが何を考えているか、彼らに自分がどう翻弄されるのか。そういう“受け”のお芝居を意識しています。

-その理由は?

 吉之助のキャラクターはこれまで十分に描かれてきたので、これからは彼らの影響を受けて吉之助が変わっていく様子をうまく見せられれば…と思っています。これまでは吉之助自身が動くことが多かったので、あまり“受け”のお芝居をする機会はありませんでしたが、今はその辺を意識しながら演じています。

-そういう意味で、彼らの見どころは?

 今までとは違う一面を楽しんでいただけるはずです。まずは皆さん、初めて出会うシーンが面白いので、ぜひ注目していただきたいです。それぞれの見どころとしては、桂さんとの薩長同盟が一味違う切り口で描かれていたり、幕府側の人間であるにもかかわらず、「もう幕府は見限れ」と言う勝さんに衝撃を受けたり…。岩倉さんも、想像していた人物とはかなり違います。自宅でカジノのようなものを開いているんです。「本当かな…?」と思って時代考証の先生に聞いてみたら、当時の公家たちは、お金に困ってみんなそういうことをやっていたんだと。そういう発見があるのも面白いところです。

-その中でも、坂本龍馬役の小栗旬さんとの共演は特に話題を集めていますね。

 僕にとって、小栗旬さんは特別な存在です。デビューして間もない頃、僕を引っ張り上げてくださったのが、そのときに主演をやられていた彼。恩人ですが、同時に最大のライバルでもあります。だから、友人でありながら、どこか緊張感がある。その関係が、西郷さんと坂本龍馬に似ていると思いながら演じています。

-龍馬との共演の見どころは?

 物語はどんどんシリアスになって行きますが、そんな中でも昔の吉之助らしさを引き出してくれるのが龍馬。西郷家を訪れる場面が二度ありますが、そこでは2人がこんなに仲が良かったんだ…というコンビ感みたいなものを感じていただけるはずです。

-鈴木さんと小栗さんならではのお芝居になっていると?

 それは間違いありません。自信があります。

-吉之助自身も大きく変わるのでしょうか。

 禁門の変が大きなターニングポイントです。薩英戦争を経験した薩摩を除けば、日本中が戦は250年ぶりという時代。そんな中で起きた戦が、禁門の変。司令官に任命された吉之助は、初陣でいきなり何百人もの部下の命を背負うことになるわけです。しかもそれは、島から戻ってわずか3カ月後のこと。その結果、京の町が炎に包まれる…。それを見て、自分は何をすべきなのかと本気で考えるようになり、グッとシリアスになっていきます。

-物語のムードも変わりそうですね。

 島編でも大きく変わりましたが、今回もだいぶ違った雰囲気になります。とにかく、ものすごいテンポで物事が進んでいきます。島から戻って3年で王政復古ですから。今までじっくりと進んでいた時間が急に動き出しますが、それが実際に生きていた西郷さんの感覚に近いのではないかと。ドラマの展開もダイナミックなので、そのスピード感に乗り遅れないでいただきたいです。

-かつて共に幕政改革を目指した一橋慶喜(松田翔太)との対立もポイントですね。

 以前の吉之助は、「斉彬様(渡辺謙)がそう言うから」という理由で信じていただけで、自分の目で一橋様を見極めていたわけではありません。今では、取り巻く状況もお互いに重ねてきた時間も、当時とは変わっています。そこで1人の人間として向き合ってみたら、どうも違う…と。信じていたのとは違う人間で、そのために民が苦しむ…。それが分かった瞬間にたもとを分かつ。そんな流れになっています。

-その辺りのお芝居はどのように?

 完全に「徳川を討つ」と決意するまでは、磯田屋で一緒に過ごした日々や、(橋本)左内さん(風間俊介)と3人でいたときのことを、きちんと自分の中に置いておこうと思っていました。最後の最後まで「自分の思うような人であってほしい」という希望を持ち続けながらも、ある時点で「この人は違う。もう駄目だ」となる。その間で引っ張られていく気持ちを大事に演じようと。その後は、「地の果てまで追い詰めてやる」というせりふがあるように、息の根を止めるつもりで戦うことになります。

-革命に突き進む西郷という人物を、どう捉えていますか。

 僕は「鬼モード」と呼んでいるのですが(笑)、今は倒幕のために非情な人物に徹しています。とはいえ、人情も捨てることができず、苦しさが積み重なっていく。やっぱり、政治をゼロから立ち上げていくのは向いていないと、自分でも思っていたのではないかと思います。他人の立場に立ち過ぎる人なんです。よく言えば、人情家。明治に入るとすぐに引退して薩摩に帰ってしまいますが、その気持ちがだんだん分かってきました。

-いよいよ幕末らしい雰囲気になり、これから見始める視聴者も多そうです。

 ここからが一番面白いところです!皆さんが知る西郷さんが登場して、物語が大きく動いていくのはここから。それを見て「この人はどんな若い時代を過ごしてきたのかな?」と興味を持ったら、DVDやオンデマンドで第1回からさかのぼる。そういう見方もお薦めです(笑)。

(取材・文/井上健一)