「仮面夫婦を後悔したのは、娘が結婚したときに言われた言葉。
一男一女で慌ただしい毎日を、ろくに家庭を支えることなく仕事にばかり没頭していた夫とは、何年も仮面夫婦状態でした。
自分の時間を犠牲にして子どもたちのために動き回る私に夫は声をかけることもなく、そんな私たちを子どもたちはどんな目で見るか、想像する余裕はありませんでした。
離婚しなかったのは、子どもたちを希望する学校に通わせちゃんとした生活をさせるためでしたが、そう割り切れば仮面夫婦であることが気楽ですらありました。
でも、子どもたちにとってはまったく違う存在だったのだと痛感させられたのは、娘の結婚が決まったときに『離婚してほしかった』と言われたとき。
『いつも不機嫌そうなお父さんが家にいるのも嫌だったし、家族で旅行することもなかったし、お母さんが大変なのは知っていたけど離婚すればいいのにとずっと思っていた』と静かな声で口にする娘は、自分はこんな夫婦にはならない、と決意しているようでした。
私だってあんな家でずっと耐えてきたしがんばってきた、でも子どもたちこそ実は犠牲者で、『子どものため』なんて思っていたのは、本当に身勝手なエゴだったのですよね……。
娘は自立心が強く家にいる頃から私とも距離を置いて接するところがありましたが、内心を聞くと仮面夫婦であることが申し訳なくて、初めて離婚を考えなかった自分を責めました。
自分たちはよくても巻き込まれるのは子どもたちで、幸せな家族でいられなかったこと、つらい思いをさせ続けたことは、娘が巣立った今も大きな重しのように心に残っています」(45歳/公務員)
子どもたちは本当に親の姿をよく見ているのだ、と思わされるのがこんなケースで、家にいた頃は何も言わなくても、人生の一大事のときに出るこんな本音は、親の心を大きくえぐります。
仮面夫婦を続ける母親にも理由がある、と想像はできても、生きる環境を選べない子にとっては恨みが募るのも仕方ありません。
親の在り方が子に影響を及ぼすことは避けられず、仮面夫婦である不幸がどんな形で表に出るか、考えさせられます。


























