公武合体を推し進めた実力者でありながら、朝廷を追われた今は粗末な家に蟄居(ちっきょ)し、生活のために夜な夜な自宅で賭場を開く異端の公家・岩倉具視。だが、西郷吉之助(鈴木亮平)や大久保一蔵(瑛太)らに協力し、やがて明治維新の立役者となる。そんな岩倉を怪演するのは、落語家、タレントのほか、俳優としても個性あふれる演技で活躍する笑福亭鶴瓶。仲のよい鈴木、瑛太らとのエピソードも交えて、撮影の舞台裏を面白おかしく語ってくれた。
-オファーを受けたときのお気持ちは?
ある芝居を見に行ったとき、ロビーで中園(ミホ/脚本家)さんに会ったんですよ。バーッと走って来て、急に「岩倉具視、見つけた!」って(笑)。こっちは何にも分からんから「何のことやねん」と聞いたら、亮平と瑛太が出るということで、楽しそうなのでお引き受けしたんですけど。
-岩倉具視については、どんな印象をお持ちでしたか。
「500円札の人」ぐらいですね。あとは、使節団としてヨーロッパに行ったとか、中学校で習う程度の知識で。
-実際に演じてみた感想は?
悩みましたよ。ものすごく起伏の激しい人だったから、「こんなんでええの?」と。蟄居生活ということで、いつ朝廷に戻れるのかわからない上に、天子様からも見放されているという思いがあって、すごく荒れている。だけど一方では、吉之助とか大久保とか桂(小五郎/玉山鉄二)とか、いろんな人がやって来るから、外の人間は自分のことを見てくれているんだなという思いもあって…。だから、本当に起伏が激しくて。寺銭稼ぐために賭場も開いているし…。「そんな公家おるのかな?」と思ったけど、事実らしく、「ああ、こういう人なんやな」と思うようになってから、だんだんと面白くなってきました。
-この作品の岩倉の魅力は?
公家の中では下級で押さえつけられているけど、悔しさもあるんですよね。せりふにもありますけど、「このままでは終わらへんで」という気持ちをずっと持っている。僕もそうですけど、自分がこのままでいいとは思わず、いつも向上する気持ちを持っているところが面白いなと。岩倉は蟄居生活の上に「ヤモリ」と呼ばれたりして、苦労している。そういうところから逃れたいという気持ちが、あれだけの出世につながったんでしょうね。
-第26回が初登場となりましたが、周囲からの反響は?
何人か「よく似合っている」と言ってくれました。ただその後に、「悪役似合うなぁ」って(笑)。悪役だと思い込んでいるんですよ。だけど、悪役ではないでしょ? 今の日本があるのは、ちょっとは岩倉具視のおかげなのにねぇ…。
-第30回ではばくちのシーンがユニークでした。演じてみた感想は?
演出の方からは「とにかく、吉之助が負けたら笑ってくれ」と言われたんです。ばくち賭けさせといて、負けたら笑うって…(苦笑)。そこだけ見ると、なんかおかしいじゃないですか。だから、「これでいいのか?」って、ずっと悩んでいました。演出の方が「良かった」と言ってくれたので、お任せしましたけど。その後、大久保と桂がもめて、斬り合いになりかかるわけですけど、そこはほとんどアドリブですよ。台本にも少しは書いてありましたけど、もっとはっきり「おまえら勝手に上がってきて、物騒なもの出すな」、「人の家で何してんねん」と。そうでしょ? 人の家で、そんな勝手に…(笑)。やり過ぎたかなと思いましたけど、OKが出たから、まあええかと。
-鈴木亮平さんと共演した感想は?
亮平とはちょいちょい飲みに行ったりして、すごく仲いいので、なんか役に立てたらなと思っていたんです。でも、ボロカスに言うんですよ(笑)。あいつは人のせりふまで全部覚えていますからね。俺がちょっと間違ごうたら、すぐに分かるんです。途端に「ちゃんと覚えておいてくださいよ、大河ですよ!」って…。いつも怒られるんですよ。演出の方はOKしているのに。ちょっとぐらいかわいがってくれたらええのにね(笑)。まあ、でも、えらい言い合いしながらですけど、現場はそんなに緊迫もせず、楽しくやっています(笑)。
-鈴木さんが演じる吉之助の印象は?
もうピッタリですよね。愛加那(二階堂ふみ)との芝居とか見ていたら、すごいじゃないですか。だから、かえって「これ、俺が出て大丈夫かな…?」と(笑)。ただ、石橋蓮司さんの口移しで水を飲むシーン(第24回)、「おまえ、あれ飲んだん?」と聞いたら「飲みました」って…。俺、あれだけは断るわ(笑)。たたかれても何してもええけど、蓮司さんの口移しは嫌ですね。蓮司さん、素晴らしい人ですけど、それは断ります(笑)。
-大久保一蔵役の瑛太さんと一緒の場面も多いですが、印象は?
瑛太は『ディア・ドクター』(09)で一緒にやったときは、まだちょっとウブやったけど、いい芝居しはるなとは思っていたら、それからどんどんうまくなっているじゃないですか。だから今回、また瑛太とがっつりやれるなと思ったんです。それで、現場で見ていたら、泣くのも怒るのもいい芝居をするし、立派な役者にならはったなぁ…と。大久保役もぴったりじゃないですか。
-大河に出演して、何か手応えはありますか。
これからでしょうね。初めて撮影したとき、視聴者から「そんな岩倉具視ないわ」と思われないか心配で、マネジャーに「これ、大丈夫か?」と聞いたんですよ。そうしたら、あいつも「そうですね…」って(笑)。まあでも、僕がメーンの第30回を見たら、マネジャーも「おかしくなかった」と言っていたので、ようやく安心できました。今は、岩倉を楽しんでいるという感じです。
-これから岩倉を演じていく上で、期待することは?
これで当たったら、また今年の紅白の司会ができるかも(笑)。たいがい2年ぐらい続くじゃないですか。でも僕、前にやった1回だけですからね。だから、また返り咲きで紅白の司会があるかもしれません(笑)。
(取材・文/井上健一)