阿部サダヲ【ヘアメーク:中山知美/スタイリスト:チヨ】(左)と松たか子【ヘアメーク:須賀元子 /スタイリスト:杉本学子(WHITNEY)】

 宮藤官九郎が作・演出を手掛ける「大パルコ人」シリーズの第5弾となるオカタイロックオペラ「雨の傍聴席、おんなは裸足・・・」が11月6日から上演される。本作は、「親バカ」をテーマに、離婚を決意しているミュージカル俳優と演歌歌手の夫婦が、親権をめぐって法廷で泥沼の争いを繰り広げるロックオペラ。ドラマ「しあわせな結婚」でも夫婦役を演じた阿部サダヲと松たか子が離婚調停中の夫婦を演じる。阿部と松に本作への思いや再びの共演についてなどを聞いた。


-宮藤官九郎さんの作・演出による新作公演になりますが、今回の出演で楽しみにされていることを教えてください。


松 以前、劇団☆新感線の「メタルマクベス」という舞台に出させていただいて、その脚本が宮藤さんでした。そのときも脚本に宮藤さんのいろいろな要素が詰まっているなと感じていましたが、今回本のスピード感がすごかったです。そこに追いついていない感覚を味わって、圧倒されました。しかも、解き放たれた阿部さんになるんだろうなと思うと、ご一緒できることがうれしいです。どのキャラクターも生き生きとしていて、鮮やかで改めてすごいなと感じています。


-解き放たれた阿部さんになるということですが、いかがですか。


阿部 どうなんでしょうね、分からないです。本を読んでもどこで何が行われているのかも分からないんです(笑)。裁判中にいろいろなことがいろいろなところで起きているので。中継みたいにあちこちで物語が進むし、出演者の皆さんによるバンド演奏もあるのでどうやって移動するんだろうとか、本を読んだだけでは分からないことが多すぎます。でも、それもなんだか久しぶりな感じがありますね。ドラマでは宮藤さんの台本を読んでいますが、この「大パルコ人」は20年ぶりですから。僕が出演した大パルコ人①メカロックオペラ「R2C2~サイボーグなのでバンド辞めます!~」は2044年の渋谷を舞台にしていたんですよ。今回もその作品の流れをくんだ物語になっていて、その作品に出ていたキャラクターが出てきたり、世界がつながっているんです…多分。とはいえ、まだよく分からないので、もう1回読みます(笑)。


-これまでもドラマや映画など、数々の作品で共演されてきたお二人ですが、舞台俳優としてのお互いの魅力を教えてください。


松 すてきな方だなと思います。阿部さんがタイトルロールを演じられた「ふくすけ」を拝見したときに、本当に切ない気持ちになったんですよ。男だったら絶対にやりたいと思うくらいのふくすけを見せていただいた衝撃がありました。それに、松尾スズキさんの舞台に出演されている阿部さんを見ると、松尾さんの愛を感じて。宮藤さんも阿部さんのことを知り尽くしていらっしゃると思うので、たくさん勉強させていただこうと思っています。


-阿部さんから見た松さんの舞台俳優としての魅力は?


阿部 やっぱり声ですね。声が信じられないくらい通る。舞台では、NODA MAPの「逆鱗」という作品でしかご一緒していないのですが、そのときの稽古場で声があまりにも通るので、きっとみんな感動したのではないかなと思います。一声聞いて、シーンとなって、「今日、お稽古終わりにしましょう」というくらいでしたから。


松 あはは(笑)。それはだめじゃないですか(笑)。


阿部 いや、「その声を聞いたから今日はもういいじゃないか」というくらいすごいということです。しかも滑舌も良いし、歌もすごい。アカデミー賞授賞式で歌っているんですから。尊敬します。


-ドラマ「しあわせな結婚」もあり、2025年は半年以上ご一緒していますよね。阿部さんは、共演を重ねていくうちに気付いた意外な一面はありますか。


阿部 意外なことはないですね。いつもこの通りの方で、皆さんに好かれていますから。


-撮影の合間やお稽古の合間にお二人でお話しされることも多いんですか。


阿部 お芝居のことはあまり話さないですね。「このシーン難しいですね」くらいです。


松 「大丈夫ですかね?」って(笑)。


阿部 意外と心配性ですよね(笑)。「みんなが大丈夫って思っているのに、自信ないんですか?」と思います。それから、欲しがらない。「松さん、ワンショットいきますか?」と言われても「いい、いい」って(断っている)。


松 その場面を伝えるのに十分に撮ったからもういいのではないかなと思ったんです(笑)。ドラマは幸太郎さん(阿部さん)中心のお話でしたから、そこまで私はいらないなと。


-松さんは阿部さんの意外な一面はありましたか。


松 意外な一面ではないですが、改めてすてきだなと思いました。阿部さんとだったから乗り越えられたなと思えることが多々ありました。テレビで舞台っぽいお芝居がしたいわけでもないし、何かを決めてかかるつもりもないけれど、場面を作っているときに、あるレベルを超えた声が聞けたと思う瞬間があって。いろいろな波の中で一緒に撮影できたことがうれしかったです。

-今回演じるそれぞれの役柄については、今はどのように捉えていますか?


阿部 ミュージカル俳優という役柄です。離婚したいと言っていますが、ずっと裁判をしているので本当は嫌いじゃないんでしょうね。最後は優しくなるんですよ。


松 そんなところまで話しちゃっていいんですか(笑)?


阿部 いいでしょう、この物語は全部話して(笑)。だって最後までストーリーを話しても、この作品は想像できないですから。それに、お客さんもこの物語に参加するんですよ。ここで描かれている“傍聴席”は客席のことなんです。ペンライトで応援したりできるんですよ。


-それは楽しみです。松さんは妻の観音院かすみという役柄についてどのように感じていますか。


松 演歌歌手です。かすみさんがどうしてこうなったのかという理由はあるのですが、それを掘り下げていくというよりは、今、こんな状態の人たちを傍聴していただいて、「何をやっているんだ」というのを楽しんでいただければいいのかなと思います。でも、きっとかすみも(夫である阿部が演じる獅子頭吠を)嫌いではないんだろうと思います。そう思ってもらうためには、本気でののしり合って、バトルをしないといけないと思うので、発散していくお芝居になるのかなと思っています。


-本作は「親バカ」をテーマに、子どもが親の期待に応えられないことへの思いなどもつづられた物語ですが、お二人は親の期待を過剰に感じたとか、逆にご自分が子どもたちに過剰な期待をしてしまうということはありますか。


阿部 ないですね。何も言われないから芝居を始めたようなところもありますし、特に反対もされなかったです。自由に育てられたと思います。だから、自分もあまり(子どもに)言わないです。


松 私も「やりなさい」と言われたことがないので、勝手にお芝居を好きになりました。デビューのチャンスは親を介していただきましたが、お芝居をやってほしいと言われたことはないです。でも、兄に「なんでわざわざお芝居をやるの?」と言われたことはありました(笑)。兄もお芝居が好きで始めた人なので、「なんでそんなことをあなたに言われなくちゃいけないの?」と思いましたが(笑)。なので、わざわざ同じことを始めてしまったという感覚です。


-では、劇中では離婚裁判が描かれますが、そうした仲たがいをしないために、お二人がコミュニケーションをとる上で大切にされていることは?


阿部 最近、覚えたのですが、連絡先を交換をしたら、スタンプでもなんでもいいので、すぐにメッセージを送るということです。送ってこないやつがいるんですよ。そうすると不安になりますよね。でもそれも、もしかしたら、テクニックなのかもしれない。送ってこないことでその人のことばかり考えてしまうから。


松 あはは(笑)。テクニックだったらすごいですね。何かこちらに落ち度があったのかと思っちゃいますよね。


阿部 そうなんですよ、気を遣っちゃう。でも、同じ目にあっている人が何人もいたことが最近分かったんです。


-阿部さんからはその方にメッセージを送らないのですか。


阿部 それがQRコードを相手が読み取ったから、僕は連絡先が分からないんです。QRコードだけ奪われたの。


松 そんなテクニックあるんですね(笑)。


-松さんはいかがですか。


松 優しくありたいと思っています。子どもにも「自分が損をしてでも優しくあれ」と言っていますが、その方が強いのかな、と。


-その優しさを見てくれる人は絶対にいますよね。


松 心の中ではいろいろなことを思っていますけどね(笑)。でも、少しでも自分が機嫌よく過ごせれば、きっと周りの人も気分がいいのではないかなと思うんですよね。


(取材・文・写真/嶋田真己)


 大パルコ人⑤オカタイロックオペラ「雨の傍聴席、おんなは裸足・・・」は、11月6日~30日に都内・PARCO劇場ほか、大阪、仙台で上演。