季節は秋になり、テレビドラマの世界では10〜12月期の作品が始まった。ドラマの低視聴率化が叫ばれて久しいが、今期は木村拓哉がいつものように主演ドラマ『南極大陸』で初回から22.2%(関東地区)をたたき出し、第10シリーズを迎えた『相棒』も第1話で19%を超えるなど、好調なスタートを切っている。

そんな中、同じように初回19.5%、第2回18.7%と予想以上のすべり出しをみせたのが、日テレ系水曜10時、松嶋菜々子が主演する『家政婦のミタ』だ。タイトルはもちろん、市原悦子の人気シリーズ『家政婦は見た!』のパロディ。しかし、内容はメッセージ色の強いホームドラマになっている。

放送枠が水曜10時ということで、観月ありさが主演していた『斉藤さん』あたりのテイストを連想した人もいるかもしれない。でもこの作品は、脚本が遊川和彦で、プロデューサーが大平太。つまり、『女王の教室』の家政婦版なのだ。ちなみに、演出陣はガラっと変わっているが、音楽も同じ池頼広が担当している。

『女王の教室』というのは、2005年7〜9月期に日テレ系土曜9時枠で放送された作品。悪魔のように思える小学校教師と、そんな教師を担任に迎えた生徒たちの1年間に渡る闘いを描いたドラマだった。主演は天海祐希で、阿久津真矢という鬼教師を演じた。

この阿久津真矢が生徒たちの前に大きな壁となって立ちはだかり、徹底的に試練を与えていく描写は、あまりにも過激かつセンセーショナルで、放送開始当初から賛否両論が巻き起こった。中にはスポンサーに直接クレームをつける特攻隊もいたようで、5話からは提供クレジットのスポンサー名がすべて消えるという事態にまで発展した。

しかし、そのブレない内容と丁寧な仕上げに隠れた支持者は多く、本来のメッセージが伝わるようになると、徐々に評価は上がった。結果的に、視聴率は初回が14.4%だったのに対し、最終回は25.3%。提供クレジットも9話から明治製菓、10話からコカ・コーラが再表示されるようになり、終わってみればギャラクシー賞奨励賞や向田邦子賞なども受賞する作品となった。

『女王の教室』は、2006年3月に2夜連続のスペシャルも放送された。ところが、2007年1〜3月期に同じスタッフ、同じ天海祐希主演で作られたコメディ『演歌の女王』は、内容的にも視聴率的にも女王の貫禄はなく、あえなく失敗。遊川和彦と大平太のコンビは、その後『学校じゃ教えられない!』『曲げられない女』『リバウンド』というドラマを作っているが、そこにはもう阿久津真矢の面影はなかった。さすがにもう続きはないだろうと思われていたところ、唐突に始まったのが、この『家政婦のミタ』というわけだ。

実際、家政婦のミタ(三田灯=松嶋菜々子)と阿久津真矢には共通点が多い。たとえば、笑わない、あらゆることを万能にこなす、記憶力が抜群に良い、本心を語らない、ほとんど寝てないのではないかと思われるほど徹底した仕事をする、などなど……。必要とあらば体罰も辞さなかった阿久津真矢と同じように、ミタも第2話でさっそく小学生の顔面にグーでパンチをかましていた。

あらゆる情報を収集・分析して、用意周到な行動を取るところも似ている。ミタのカバンは、その時に必要なものが何でも出てくる四次元ポケットのような仕様になっているが、実際はさまざまな状況を想定して事前に準備していると思われる。阿久津真矢も、生徒たちに過酷な試練を与えつつ、子供の安全に関しては徹底してフォローしていた。

もっとも印象的だったのは、『家政婦のミタ』の初回。派遣先の次女・希衣(本田望結)が、川で亡くなった母親に会いたいから一緒に行ってとミタに頼み、それを了承したミタが希衣と手をつないで川へ入っていくシーンだ。じつは、阿久津真矢もかつて我が子を川で亡くし、自らも同じ川で入水自殺しようとした過去があった。そんなシーンを初回から入れてくるあたり、やはり阿久津真矢の復活を連想させる。

ただ、阿久津真矢が教師だったのに対し、ミタは教師でも家庭内における母親でもなく、部外者の家政婦だというところが、印象をやわらかくしている。しかも、ミタは阿久津真矢以上に感情を表に出さず、まるでロボットのように振る舞うので、ドラマ全体のフィクション性が高まり、視聴者からのクレームもそんなに多くならないような気がする。

『女王の教室』は、教師と生徒、大人と子供という関係性において、ひとつの教育論、大人が子供に接する上での覚悟を描いていた。一方、『家政婦のミタ』は、もっとも小さな社会・家族を舞台にして、その再生と希望を描いていくのだろうと思われる。

正直、福田麻由子や永井杏など、実績のある子役を配置し、志田未来(当時12歳)という逸材もブレイクさせた『女王の教室』に比べれば、『家政婦のミタ』の脇はやや弱く、キャラクターの魅力に欠けるという印象もある。でも、次の3話では、NHKの『セカンドバージン』でブレイクした長谷川博己が演じる恵一(派遣先の父親)の過去にも本格的にスポットが当たり始めるようだし、見応えは出てきそうだ。

ミタの過去に何があり、どうして今のミタになったのかという部分も、まあ、ある程度は想像がつくものの、その明かし方には興味がわく。そんなミタが阿久津真矢のような魅力的なキャラクターになるかどうかも含め、『家政婦のミタ』をちょっと期待して見ていきたい。

 

たなか・まこと  フリーライター。ドラマ好き。某情報誌で、約10年間ドラマのコラムを連載していた。ドラマに関しては、『あぶない刑事20年SCRAPBOOK(日本テレビ)』『筒井康隆の仕事大研究(洋泉社)』などでも執筆している。一番好きなドラマは、山田太一の『男たちの旅路』。