「無謀な構想」の本丸は軍部でも右翼でもなくエリート官僚だった!――戦後80年、新たな視点から書かれた論考が高い評価を獲得。

朝日新聞社が、日本の政治・経済・社会・文化・国際関係などをめぐる優れた論考を顕彰するために創設した「大佛次郎論壇賞」を、熊本史雄・駒澤大学教授の『外務官僚たちの大東亜共栄圏』が受賞しました。
日露戦争以降の日本外交が陥った「失敗の本質」を膨大な外交史料から炙り出した本書は、発売以来、多くのメディアで紹介され、第20回樫山純三賞、第29回司馬遼太郎賞を受賞するなど高い評価を得ています。戦後80年を迎える節目の年に、外務省の開戦責任という新たなテーマに光を当てた画期的考察です。




12月24日の朝日新聞には選考委員5氏の選評が掲載され、杉田敦・法政大学教授(政治学)は「他国の主張や国際法規範を軽視しつつ、自国の「安全保障」確保に向けて再び暴走を始めたかに見える日本で、今、読まれなければならない本である」、佐藤俊樹・東京大学教授(社会学)は、「一つの視点にこだわり、あの戦争を始めるまでにいたった道筋の一つを、丁寧に描き切った。その力量はすばらしいと思った」、豊永郁子・早稲田大学教授(政治学)は、「外務省記録などの膨大な資料に分け入り、外務官僚たちの思考のあとを摘示する。新資料の発見の成果も盛り込んだ快著である」、諸富徹・京都大学教授(経済学)は、「学術的に第一級の労作にもかかわらず、魅力的な文体で読者を引き込み、最後まで一気に読ませる作品だ」、佐藤武嗣・本社論説主幹は、「戦前の戦略立案過程の可視化は、米中に挟まれ、立ち位置を定めあぐねる現在の日本にも示唆を与えている」と、それぞれ本書を高く評価しています。

■ 目次
序章 拡大する権益、継受される思想
第1章 「満蒙」概念の誕生――小村寿太郎と日露戦後経営:1895―1912年
第2章 「満蒙供出」論の提唱――小村欣一の「新外交」呼応論の可能性:1917―1919年
第3章 「満鉄中心主義」の前景化――大陸国家の「国益」と幣原喜重郎:1920―1931年
第4章 「精神的帝国主義」論の提唱――傍流外務官僚たちの「逆襲」と挫折:1931―1932年
第5章 「東亜」概念の衝撃――アジア・モンロー主義と重光葵:1933―1935年
第6章 「興亜」概念の受容――日中戦争と外務省:1937―1938年
第7章 「東亜新秩序」の可能性――有田八郎による地域主義的広域経済圏の模索:1938―1940年
第8章 「大東亜共栄圏」構想の実相――松岡洋右の世界秩序構想と南洋開発:1940―1942年
第9章 「大東亜共同宣言」の虚実――重光葵の描いた「大東亜」の〈かたち〉と〈なかみ〉:1943年
終章 求められる「慎慮」、問われる「外交感覚」

■ 著者コメント
この度は、拙著『外務官僚たちの大東亜共栄圏』(新潮選書、2025年)が「第25回 大佛次郎論壇賞」を受賞するという栄誉に浴しまして、非常に光栄に、また嬉しく感じております。先の「第20回 樫山純三賞」、「第29回 司馬遼太郎賞」につづいての受賞となり、お蔭様で〈トリプル受賞〉となりました。日ごろから研究を支援してくださっているみなさまに、厚く御礼申し上げます。
拙著は、「大東亜共栄圏」を〈日露戦後の「満蒙」概念を起点とする地域秩序観〉と定義して、日露戦後の約40年に渡る外務官僚による秩序観と外交思想の継受のありようを描いたものです。そのありようは、直線的ではなく紆余曲折しながら「大東亜共栄圏」に至った、というものでした。本書が評価されたとするならば、そうした叙述と、本書の内容が大国のエゴイズムとナショナリズムが排他性を伴いぶつかり合う現代社会と、図らずも接合していた点にあったのだと思います。
有難いことに、この約3カ月の間、多くのお祝いやお褒めのお言葉を頂戴しました。「読者の心に染み入る手慣れた文体」「外務官僚たちの息遣いや鼻息までが聞こえてくる」「大河ドラマを観ているかのような感覚」「全体を俯瞰するマクロな視野と細部に分け入るミクロな眼力を兼ね合わせて、対象を歴史の網の目のなかで見事に浮かび上がらせる力量」などなど。いずれも身に余るご過褒で、恐縮するとともに感謝の念に堪えません。
とくに嬉しかったのは、筆者の当初の意図を超えて、本書が多様な読み方をなされたことです。これまでの樫山賞では、現代アジアに関する分野での、国際政治学や国際経済学の立場から書かれた著作に授賞されてきましたが、日本史しかも思想史に関する本著を認めてくださったことは大きな励みになりましたし、小説やノンフィクションをも対象とする司馬賞でも、さらには「論壇」を名に掲げる大佛論壇賞においても、歴史学の立場からものされた本書の価値をお認めくださいました。これら3賞は、いずれもわが国を代表する学術賞・論壇賞ですが、それぞれの性格は大きく異なります。そうした3賞のいずれにおいてもお認めいただけたことは、本書が多様な読み方に堪えうることの証左だと思います。
ガンを患い闘病生活をつづけるなかで書き上げた本書だけに、上梓した時点で既に大いに満足しておりましたが、このように各所から評価され、大きなご褒美を頂戴した気持ちでおります。支えてくださったすべての方に、とりわけ愛する家族に、心からのお礼を申し上げたいと思います。このたびは、誠にありがとうございました。


■ 過去の大佛次郎賞受賞作
第1回(2001年度):大野健一 『途上国のグローバリゼーション』(東洋経済新報社)
第2回(2002年度):池内恵 『現代アラブの社会思想 終末論とイスラーム主義』(講談社現代新書)
第3回(2003年度):篠田英朗 『平和構築と法の支配』(創文社)、小熊英二 『〈民主〉と〈愛国〉』(新曜社)
第4回(2004年度):ケネス・ルオフ 『国民の天皇 戦後日本の民主主義と天皇制』(高橋紘・監修、共同通信社)、瀧井一博 『文明史のなかの明治憲法 この国のかたちと西洋体験』(講談社)
第5回(2005年度):中島岳志 『中村屋のボース インド独立運動と近代日本のアジア主義』(白水社)
第6回(2006年度):岩下明裕 『北方領土問題』(中公新書)
第7回(2007年度):朴裕河『和解のために』(平凡社)
第8回(2008年度):湯浅誠『反貧困』(岩波新書)
第9回(2009年度):廣井良典『コミュニティを問いなおす-つながり・都市・日本社会の未来』(ちくま新書)
第10回(2010年度):竹中治堅『参議院とは何か』(中央公論新社)
第11回(2011年度):服部龍二『日中国交正常化--田中角栄、大平正芳、官僚たちの挑戦』(中公新書)
第12回(2012年度):大島堅一『原発のコスト―エネルギー転換への視点』(岩波新書)
第13回(2013年度):今野晴貴『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)
第14回(2014年度):遠藤典子『原子力損害賠償制度の研究 東京電力福島原発事故からの考察』(岩波書店)
第15回(2015年度):井手英策『経済の時代の終焉』(岩波書店)
第16回(2016年度):森千香子『排除と抵抗の郊外 フランス<移民>集住地域の形成と変容』(東京大学出版会)
第17回(2017年度):砂原庸介『分裂と統合の日本政治-統治機構改革と政党システムの変容』(千倉書房)
第18回(2018年度):小松理虔『新復興論』(ゲンロン)
第19回(2019年度):東畑開人『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書 (シリーズ ケアをひらく) 』(医学書院)
第20回(2020年度):鈴木彩加『女性たちの保守運動 右傾化する日本社会のジェンダー』(人文書院)
第21回(2021年度):益田肇『人びとのなかの冷戦世界-想像が現実となるとき』(岩波書店)
第22回(2022年度):板橋拓己『分断の克服 1989-1990』(中公選書)
第23回(2023年度):五十嵐元道『戦争とデータ 死者はいかに数値となったか』(中公選書)
第24回(2024年度):藤原翔太『ブリュメール18日 革命家たちの恐怖と欲望』(慶應義塾大学出版会)
第25回(2025年度):熊本史雄『外務官僚たちの大東亜共栄圏』(新潮選書)

■ 書籍内容紹介
日露戦で満蒙権益を獲得した日本は、その維持を最重要課題として勢力拡張に舵を切る。だが国益追求に邁進する外務省は、次々と変化する情勢の中で誤算を重ね、窮地を打開するため無謀な秩序構想を練り上げていく。小村寿太郎から幣原喜重郎、重光葵まで、国際派エリートたちが陥った「失敗の本質」を外交史料から炙り出す。

■ 著者紹介
熊本史雄(くまもと・ふみお)

1970年、山口県生まれ。筑波大学第二学群日本語・日本文化学類卒業。筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科中退。博士(文学)。外務省外交史料館外務事務官などを経て、現在、駒澤大学文学教授。専門は日本近代史、日本政治外交史、史料学。主な著書に『大戦間期の対中国文化外交―外務省記録にみる政策決定過程』(吉川弘文館)、 『近代日本の外交史料を読む』(ミネルヴァ書房)、『幣原喜重郎―国際協調の外政家から占領期の首相へ』(中公新書)、共編著に『近代日本公文書管理制度史料集―中央行政機関編』(岩田書院)。






■ 書籍データ
【タイトル】外務官僚たちの大東亜共栄圏
【著者名】熊本史雄
【発売日】2025年5月21日
【造本】新潮選書/四六判変型ソフトカバー
【定価】1,980(税込)
【ISBN】978-4-10-603926-3
【URL】https://www.shinchosha.co.jp/book/603926/
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