千葉大学予防医学センターの中込敦士准教授らの研究チームは、「生成AI(注1)」の利用実態に着目し、日本全国のインターネットを利用している成人を対象とした大規模調査を実施しました。その結果、生成AIを利用している人は全体の約2割にとどまり、年齢・性別・性格・学歴・職種・居住地域・人とのつながり・デジタルリテラシー(注2)・デジタル利用などの個人的要因や社会的地位要因、利用可能な資源的要因によって明確な利用格差が存在することが明らかになりました(図1)。
 さらに、生成AIを使っていない理由は一様ではなく、若年層では「魅力的なサービスがない」、中高年層では「使い方がわからない」「セキュリティへの不安」「利用環境が整っていない」など、年齢によって大きく異なることが示されました。本研究は、日本における「AI格差(注3)」の実態を初めて全国規模で明らかにしたものであり、今後の教育政策やデジタル支援施策の立案に貢献することが期待されます。
 本研究成果は2025年12月18日(日本時間)に国際学術誌Telematics and Informaticsに掲載されました。

図1. 研究の概要


■研究の背景
 生成AIは、文章作成、情報検索、学習支援、業務効率化など、日常生活や仕事を大きく変える可能性を持つ技術として急速に普及しています。一方で、これまでのデジタル技術と同様に、「誰が使えるのか」「誰が取り残されるのか」という新たな格差、いわゆる「AI格差(AI divide)」が国際的に懸念されています。
 日本は高度なデジタルインフラを有する一方で、高齢化が進み、デジタル技術へのアクセスや活用能力に個人差が大きい社会でもあります。しかし、生成AIについては、誰が使い、誰が使っていないのか、また使わない理由が何であるのかを、全国規模で体系的に検証した研究はこれまでありませんでした。
 そこで本研究では、生成AIが個人的要因・社会的地位要因・資源的要因が重なり合って生じる社会的現象として捉え、日本全国のインターネットを利用している成人を対象とした大規模調査を用い、その実態を明らかにすることを目的としました。

■研究の成果
 本研究では、2025年1月に実施された日本全国のインターネットを利用している18歳以上の成人13,367人を対象にしたインターネット調査を用いて分析を行いました。調査では、過去1年間の生成AI(ChatGPT、Copilot、Gemini など)の利用有無を把握するとともに、非利用者には「使わない理由」を複数選択式で尋ねました。また分析にあたっては、個人的要因・社会的地位要因・資源的要因などを統計学的に調整した多変量解析を行いました。 
 本調査対象者では、生成AIを利用している人はインターネット利用者全体の21.3%(約5人に1人)にとどまっていました。
 利用者の特徴としては、個人的要因では、若い世代(18~54歳では75歳以上と比べて約1.4~1.7倍利用率が高い)、男性(女性に比べて約1.8倍)、「新しいものを受け入れやすい性格(開放性)」を持つ人で生成AIの利用率が高いことが分かりました。
 社会的地位要因では、高学歴(大学卒業者で約1.4倍、大学院修了者では約1.7倍)、学生(約1.9倍)や専門職(約1.6倍)、都市部居住者(約1.3倍)で生成AIの利用率が高いことが分かりました。
 資源的要因では、友人とのつながりが強い人(約1.1倍)やボランティア活動参加者(約1.2倍)で利用率が高く、さらにスマートフォンを毎日利用する人では約1.9倍、SNSを毎日利用する人でも約1.9倍と、デジタル利用頻度が高い人ほど生成AIを利用していました。加えて、デジタルリテラシーが高い人ほど利用率が高く、デジタル能力が生成AI利用を後押ししていることが示されました。 
 一方、非利用者で最も多かった理由は「必要性を感じない」(39.9%)、次が「使い方がわからない」(18.5%)でした(図2)。さらに本研究では、AIを使わない9つの理由を同時に扱う統計モデル(joint analysis(注4))を用い、年齢などの要因が『どの理由』と結びつきやすいかを比較しました。その結果、AIを使わない理由は世代やデジタルリテラシーのレベルによって大きく異なることが示されました。若い世代では「魅力的なサービスがない」という理由が強い障壁となる一方で、中高年層では「使い方がわからない」「セキュリティへの不安」「利用環境が整っていない」といった理由が多く、スキルやリスク認知が主な障壁となっていました。また、男性は生成AIを「必要性がない」とは感じていない一方で、「魅力的なサービスがない」や「品質への不安」が障壁となっている傾向がみられました。さらに、デジタルリテラシーが低い人ほど、「使い方がわからない」「利用環境が整っていない」「従来の習慣や文化を変えられない」といった理由を挙げる傾向が示されました。

図2. 生成AIを使用しない理由

 これらの結果から、生成AIの非利用は単なる「関心の欠如」ではなく、年齢や教育、デジタル環境に根ざした構造的な格差の表れであることが明らかになりました。
 一方で、本研究では以下の点は明らかにできなかったため、今後の研究で検討する必要があります。
 まず、今回の調査は1時点での状況を捉えたものであるため、「生成AIの利用が原因でそうなったのか」「もともとの特徴があって利用しているのか」といった因果関係までは明確にできません。たとえば、デジタルに詳しい人ほど生成AIを使っている可能性もあれば、生成AIを使うことでデジタルへの理解が深まった可能性もあります。また、生成AIをどのような目的で、どんな使い方をしているか(例:情報収集、相談、仕事、学習など)といった利用の中身までは十分に評価できていません。さらに、今回の調査はインターネット上で実施したため、普段からインターネットやデジタル機器をほとんど使わない人は対象に含まれにくく、実際の「AIを利用できる人・できない人の差(AI格差)」を小さく見積もっている可能性があります。

■今後の展望
 本研究は、日本において生成AIの利用がすでに社会的に偏在しており、AI格差が今後、学習機会、生産性、情報アクセスなどの格差を拡大させる可能性を示しました。
 今後は、生成AIの利用が個人の生活の質や就労、健康、社会参加にどのような影響を及ぼすのかを、縦断的に検証することが求められます。また、年齢やデジタルリテラシーのレベルに応じた支援策や、誰にとっても使いやすいAIサービス設計をすることで、「使えない不利益」を生まない包摂的なAI社会の実現が期待されます。

■用語解説
注1) 生成AI(Generative Artificial Intelligence):文章、画像、音声などを自動生成する人工知能技術。ChatGPT や Microsoft Copilot、Google Gemini などが代表例。
注2) デジタルリテラシー:デジタル技術を理解し、適切に使いこなし、情報の信頼性やリスクを判断する能力。
注3) AI格差(AI divide):AI技術へのアクセス、利用能力、活用によって得られる利益に生じる社会的格差。
注4) joint analysis(ジョイント解析):複数の関連する項目を同時に統計解析する方法。本研究では、生成AIを使わない理由として挙げられた複数の項目は、1人が同時に複数選択する可能性があるため、それぞれを別々に分析するのではなく、「どの属性が、どの理由と相対的に結びつきやすいか」をまとめて評価する joint analysis を用いた。この手法により、理由同士の関連を考慮しながら、年齢や性別、デジタルリテラシーによる違いを比較することが可能となる。

■研究プロジェクトについて
 本研究は、全国規模のインターネット調査データJACSIS(The Japan COVID-19 and Society Internet Survey)、日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題および社会全般に関する健康格差評価研究)、及びそのサブスタディであるCONNECT Study (Community Networks and Nexus to Enhance Thriving Study)を用いて実施され、デジタル社会における健康・社会格差の解明を目的とした研究の一環として行われました。

■論文情報
タイトル:Emerging Generative AI Divide: Personal, Positional, and Resource-Based Factors Associated with Use and Reasons for Non-Use
著者:Atsushi Nakagomi, Noriyuki Abe, Takahiro Tabuchi
雑誌:Telematics and Informatics
DOI:10.1016/j.tele.2025.102360
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