大西礼芳【ヘアメーク:KOMAKI(nomadica)/スタイリスト:Lim Lean Lee】(C)エンタメOVO
「安楽死法案」が可決された近未来の日本。国家戦略特区として、安楽死を希望する者が入居しケアを受けられる施設「ヒトリシズカ」が開設された。難病を患い余命半年を宣告されたラッパーの酒匂章太郎(毎熊克哉)は安楽死法に反対しており、パートナーでジャーナリストの藤岡歩と共に、特区の実態を内部告発することを目的に「ヒトリシズカ」に入居する。高橋伴明監督が、安楽死を題材に描いた社会派ドラマ『安楽死特区』が1月23日から全国公開される。本作でジャーナリストの藤岡歩を演じた大西礼芳に話を聞いた。
-最初に脚本を読んだ印象から伺います。
最初に脚本を読んだ時は、安楽死について考えたことがなかったので、どういうふうに読み取ったらいいのか戸惑いましたが、今回舞台あいさつがあるので読み返してみたら、全然印象が違いました。それは、まだずっと揺らぎ続けていますが、自分が安楽死に対してどういう立場であるのかを考え続けなければいけないことだと思うからです。脚本に書かれている言葉や登場する人物は、大変な葛藤をしていてつらい状況の中にいますが、せりふとして交わされる言葉はすごく軽やかで、ラップの歌詞のようにも聞こえてくる。だから重い題材だけれども、ちゃんとエンターテインメントの映画として受け取れる理由なのかなと思いました。あまりにも重い言葉を重く伝えられると本当に立ち直れなくなりそうですけど、そうではなく書いてくださったことがうれしいです。(監督の高橋)伴明さんや(脚本の)丸山(昇一)さんにお礼を言いたいです。
-演じる上で考えたことや心掛けたことはありましたか。
歩はジャーナリストですから信念があるし、何かに対して批評する立場にいる。例えば、安楽死に対しても、あるいは国に対しても、この人の中には確固たる意思があるというところから始めた方がいいのかなと思いました。ただ、病を抱える恋人の存在もあるので、それとの気持ちのバランスをどう取っていくのかがちょっと難しかったです。すごく混乱しながら演じていたんですけど、でも混乱したままでいいのかもしれないと思いました。
-藤岡歩というキャラクターをどのように捉えましたか。
(恋人の)章太郎が静の役なので、私はいっぱい動いてみようとシンプルに考えました。やっぱり彼が苦しんでいたら私も苦しくなるかなとは、ぼんやりと想像はしていましたが、不思議なことに撮影をしているうちに自分はどんどん元気になっていきました。焼肉を食べるシーンも、脚本には「あまり食べたくない」と書かれていましたが、実際はおいしそうで食べたくて仕方がありませんでした。そういう計算と違うことがいろいろと自分の中で起きました。撮影をしていく中で変わっていったという感じでした。やっぱり彼が苦しい顔をしていたら笑顔にしたいと思うし、沈んでいたら私が起き上がらせなければと思う。それはそれぞれが1人で生きているのではなく、パートナーとしての結びつきを感じていたからかもしれないです。
-章太郎役の毎熊克哉さんの印象は?
毎熊さんはすごく優しいんです。人として優しいだけではなくて目の奥が優しいんです。お芝居をしながら、何か毎熊さんの目の奥に光が見える感じがして。その光をたどってお芝居をしていたような印象があります。つらいけれど光がある。だから私たちとして前に進もうというふうにお芝居ができたかなと思います。
-安楽死という難しいテーマについて、どんなイメージを持ちましたか。
歩を演じるに当たっては、彼女は反対の立場ですから、完全に反対の思考で考えていました。人間が自らを終わらせることを選択できる、それが法律で決まっているというのは、少し人間が賢くなり過ぎたような印象もあって、もしかしたら傲慢(ごうまん)なところもあるのかなと、やっている中で感じました。でも、安楽死を決意した人たちは、想像を絶する苦しみの果てに選択をしてきたと思うので、それに対してただ「ノー」と言うことも傲慢であるような気もして…。だからまだどう考えたらいいのか今も分かりません。
-印象に残った共演者の方はいましたか。
それはもう皆さんですけど、中でも余(貴美子)さんは、実際よりも年齢が上の役を演じていらっしゃいましたが、なぜか活気があって色気もあるみたいな、その複雑さがすごく面白かったです。だから、余さんが演じた真矢さんもすごく大変な思いをしている方ですけど、それを語るシーンが悲しいだけのシーンにならずに、悲しみを笑いに変えてしまうところがありました。芸人さんの役を見事に体現されているような感じがして、すごいなと思いながら近くで見させてもらいました。
-高橋監督とは『夜明けまでバス停で』などでもご一緒でしたが、どんな感じの方ですか。
監督はとにかく決断が速い人で、撮影がポンポンと進んでいきます。その調子はすごく心地いいものです。付いていくのに焦ったりすることもあるんですけど、この映画に関しては監督ご自身も慎重になっているところがあったようで、「ここはどうしたらいいかな」と、周りのスタッフさんや私たちにも相談してくださったりしました。あとは、これも時々あることなんですけど、どういうシーンにするかというのが直前まで割とふわふわとしていて。撮影の直前にせりふを追加したり、この映画では「ラップ調にしてくれ」とか、そういうことをぽんと投げてくるんです。そうすると、私たちの中でざわざわと波が立つというか。それがすごく楽しいです。私にとっては恩人というか、役者を始めるきっかけを作ってくださった方でもあります。
-完成作をご覧になってどんな印象でしたか。
主人公は章太郎と歩ですが、いろんなタイプの魅力的な人が出てきて、そのドラマが重なっていく感じの群像劇というのがよかったと思います。安楽死が章太郎と歩だけの問題ではなく、ほかの患者だけの問題でもなく、お医者さんにも葛藤があるという。それはそうだと思います。だっていくら考えても、安楽死に対する答えは出ないのですから。
-これから映画を見る観客や読者に向けて一言お願いします。
どうやって死ぬかということは、どうやって生きるかということとつながりますよね。私自身、死について考えるのは、親族が亡くなった時ぐらいでしたが、本当はもっと身近なものであると思うし、怖いものでもなく、常に隣に存在していることだと思うんです。その感覚を絶対に忘れてはいけないなというのは、この映画に出演させてもらって気付きました。そうするとやっぱり今を楽しく生きようみたいな前向きな気持ちになるし、何か悩みごとがあっても、死が身近にあると分かっていると、何でこんなことで悩んでいるんだろうと思えてきたりもします。そういう軽やかさを手に入れてもらえるきっかけにもなるんじゃないかなと思います。テーマは重いけれど、決して気がめいるわけではなくて、いろんなことを考えながら見られる映画だと思います。
(取材・文・写真/田中雄二)







