2025.11.21/大阪・OSK日本歌劇団にて

【大阪・船場発】終始柔らかな笑顔で取材対応してくれていた登堂さんだが、立ち姿の撮影に入り「何かポーズを」とカメラマンが声をかけた途端、一瞬にしてまとう空気感が変化した。表情はもちろんだが、目を見張ったのはその指先だ。開いた角度、置かれた位置、隙のない指先はスターとしての登堂さんを完璧に表現していた。指はこんなにも雄弁だったのかと驚く。舞台上の一瞬のために幾重にも思いを積み重ね、試行錯誤を繰り返して技術を磨いてきた日々をそこに見た。

(本紙主幹・奥田芳恵)

台本にはない余白を思考し 目線一つにこだわりを持つ

前回、先生からのダメ出しを色分けするために、何色ものマーカーをお持ちということでしたが、ダメ出しはいつまで続くんですか。

ゲネプロと呼ばれる本番直前の最終リハーサルがあるのですが、そこでも結構ダメ出しされます。ただ、本番が始まったら、お客様とコミュニケーションしながら、自分たちでつくり上げるようにと言われています。

お客様とはどうやってコミュニケーションを取るのでしょうか。

直接言葉を交わすことはなくても、お客様からは多くのことを感じます。見ておられる様子や会場の雰囲気は、日によって全く違いますから。

舞台とお客様が一体となって、その日その時の世界観を築かれていく……。

お客様は生活の中の大切な時間とチケット代を費やして、舞台を見てくださっています。お客様と共に舞台をつくり上げ、何か一つでも「よかった」と思えるものを持ち帰っていただけるようにと演じています。

お稽古で積み上げたものが、本番で変わることはありますか。

結構あります(笑)。お客様からの反応や、舞台でライトを浴びた時の感覚で、見せ方を変えることはあります。特にお芝居は変わりやすいですね。

ということは、毎回違ってくる。

そうですね。ただ、先生からは「感情に流されすぎないように」と釘を刺されています。私のクセなのか、スイッチが入りすぎると舞台の決まり事から離れて、自由になり過ぎるというか(苦笑)。そうなると相手にも迷惑をかけるし、本来の世界観とも違ってしまうので。

逆に相手や周りの反応が変わると、登堂さんの演じ方も変わるのでしょうか。

はい。要するにキャッチボールなので、相手がそうなら自分はこうしてみようと。でもその場でいちいち考えるのではなく、積み上げてきたキャラクターや演じている役の個性を考えて、反射的に応えていくという感じでしょうか。

そのためには、自分の中にたくさんの引き出しがないとできませんよね。

そうですね。先輩からも「普段からいろいろなことにアンテナを張って、引き出しをいっぱいにしておきなさい」と言われています。

今度は“役”についてうかがいます。役を演じながら、登堂さんらしさを出すにはどうされるのでしょう。

自分との共通点を探したりします。どんなふうに考えるのか、どんなクセを持っているのか、自分と重なる部分はあるのか。悪役の場合なら「生来は優しさを持っていたのか、持っていたなら、いつどうして捨ててしまったのか」など、推測したり分析したり……。

それは台本にはない余白の部分になると思うんですが、そんなところまで思いを巡らせるんですね。

考えるのはいいんですが、舞台に立ったばかりの頃は「自分はこう演じているので、こう見てほしい」と思いがちだったんです。でも今は、自分から押しつけるのではなく、お客様一人一人が感じてくださる感性を大事にしたいと考えています。

お客様の感じ方を大切にすると……。

例えばお芝居の途中で、相手役と向き合っているとき、ふっと別の方向を見るだけでも、お客様は「今何を見たのだろう」と想像されると思うんです。目線一つでも表現はできる。そこにこだわって、お客様がいろいろなことを感じて楽しんでいただけるといいなと思います。

「もっと、もっと」が尽きない 舞台という仕事場

ご自身の課題についてはどうお考えでしょうか。

課題は山積みです(笑)。身体が資本なのですが、過去に左右のアキレス腱を3度ほど断裂しているため、足の可動域が狭かったり、左右で筋量に差があったりするんです。でもそれは何かができない理由にはなりませんから。

歌に踊りに、舞台は体力を使いますよね。

レビューショーとミュージカルは使う部分が違うので、疲労感が違います。レビューショーは歌いながら踊るので、体力や持続力が必須です。一方、ミュージカルは、歌と踊りに加えて演技もあるため、キャラクターのつくり込みや相手役とのコミュニケーションも入れ込まないといけないので、よりキャッチボールが必要です。

お話をうかがっていると、登堂さんたちのお仕事に限りがないことが分かってきました。

「もっと、もっと」が尽きません(笑)。

それが大変さでもあり、面白さでもあるんでしょうね。ところで、数年前NHKのドラマで貴劇団がモデルとして取り上げられて以来、チケットの入手が難しいとか。

そうなんです。ありがたいことに、知名度が格段に上がったと感じます。これまでにないお客様がいらしてくださるようになりました。

それはどこで感じるのですか。

舞台に対する拍手のタイミングが、いつものお客様と少し違ったり……。客席から「TVで見た人がいる!」という声が聞こえたこともあります。ドラマの影響はすごいです。

今のお仕事を満喫されていますが、もし歌劇の道に進んでいなかったら、どうされていましたか。

小さい頃の夢は小学校の先生でしたね。全教科が担当できて、1年なり2年なりの時間を、クラスの子たちと一緒に過ごせるというのは魅力的だなと。

ちなみに、大学は何を専攻されていたのでしょう。

国際文化学科でした。いろいろな国の方とつながりが持てたら楽しいなと思って。

登堂さんは人と関わることがお好きなんですね。

好きです。でも実は人見知りなんです(笑)。

意外です。緊張されるんですか。

します! 今でもマイクを持つと手が震えていることもあります。

どうやって克服を。

舞台の場合は、お客様の表情や雰囲気からコミュニケーションができていると感じると「大丈夫だ」と思えるようになりました。

お客様からパワーをいただいている。

そうですね。すごく助けられています。お客様にもそれぞれの事情や人生があると考えると、自分の緊張なんてちっぽけだなと。

最後にうかがいます。どんな舞台人になりたいですか。

(少し考えて)与えられたものに全力で取り組む。その結果、同じ役柄でも毎回違う。見るたびに発見があって、毎回が新鮮だと思っていただける舞台人になりたいです。お客様を飽きさせない、「この人をずっと見ていたい」と思っていただける舞台人でありたいです。

すばらしいです。これからの登堂さんの舞台がますます楽しみになりました。今日はいろいろなお話をありがとうございました。

こぼれ話

「ステキッ」。思わず心の声が届いてしまいそう。登堂結斗さんが現れたとたんに、舞台が始まったようなそんな世界に変わる。所作が美しくてかっこいい。そして笑顔がチャーミング。名刺交換ですでに心を奪われる私。まとったオーラに引き寄せられて、思わず席に着く登堂さんを目で追う。

登堂さんとお話していると、「お客様のために」という言葉が何度も登場する。大切な時間とお金を使って見に来てくれているお客様のために、全力で応えたい。真摯に向き合いたいという気持ちが伝わってくる。舞台の上からたくさんのお客様を見ているのではなく、一人一人を見ていて、それぞれに向き合って舞台を届けていこうとされている。思わず「大変なエネルギーが必要ですよね」と質問してしまった。「はい。本当に体力を使います」という登堂さんは、とびっきりの笑顔だ。好きで夢中になって、人生をかけて舞台を届けておられるのだなと、登堂さんの溢れんばかりのOSK愛、舞台愛に圧倒される。

「ずっとこの人を見ていたい」。そう思わせるのが、登堂さんが目指す舞台人の姿だ。舞台に真摯に取り組む中で、積み重なっていく実力もさることながら、まとうオーラ、にじみ出る人間味。全てが登堂さんをつくり、魅力となって現れる。「登堂結斗の沼にはまって抜け出せない」という人も多いだろう。これからもそんな人が増えていくのだろうと確信している。

2月には、いよいよ故郷である多賀城市で登堂さん主演の公演がある。OSK日本歌劇団の東北初公演ということなので、登堂さんが東北にOSKを連れてきたことになる。大きな意味を持つ凱旋公演だ。

かつて経験したことのない、甚大な被害をもたらした東日本大震災から間もなく15年。震災で感じた人と人との結びつきを大切にしたいと語った登堂さん。震災をきっかけに夢を実現させ、次は夢を叶える素晴らしさを届ける。故郷のみなさんと夢の舞台を共有するのは間もなくだ。

(奥田芳恵)

心に響く人生の匠たち

「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。

奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)

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※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。